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俺の『鑑定』スキルがチートすぎて ~伝説の勇者を読み〝盗り〟最強へ~  作者: すみもりさい
三章

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62◆決戦――挑む者たち


 大陸中心部にそびえるエナトス火山。

 周囲は荒野が広がっていて、虫の一匹もいなければ草の一本も生えていない。

 いまだ活動を続ける火山である以前に、あの山からはうっすらと毒の瘴気が漂ってきて、生きるものすべてを呪ってしまうからだ。

 

 俺たちはついにここへ来た。

 

 といっても火山はけっこう遠くにある。近寄りすぎると危ないらしい。あそこの火口には、悪竜ファブス・レクスが封じられている。

 今からその封印を解除して、決戦に挑むのだ。

 

「覚悟はいいわね?」


 居並ぶ俺たちの前で、偉そうなことを言う女神様。

 

「愚問ですね」


 俺たちはもう取り返しのつかないところまで来ている。

 悪竜の力そのものを宿し、自らを大幅に強化する『悪竜の瘴玉』。それは悪竜を倒す切り札であると同時に、失敗すれば『死』が待ち受ける危険なものだ。

 

 準備は万端。方々への根回しも十分。もう後戻りはできない。

 

「それじゃあ始めるわ」


 ペリちゃんが火山へと向き、何やらつぶやく。金髪が風に浮き、その体が光に包まれた。

 その神々しい姿にさすが女神様と見惚れる時間は、そう長くなかった。

 

 景色が震える。

 大地どころか空気も痛いほど振動し、やがて――。

 

「山が、割れた……」


 エナトス火山は天空から地底へと真っ二つに割かれたように、巨大な亀裂が生まれた。

 どろりとした溶岩が真っ赤な血のように流れ、亀裂はどんどん大きくなり。

 

 

 ――ああ、久しいな。

 

 

 頭の中を直接揺さぶるような、重苦しい声が響いた。

 

 山の中腹。禍々しい黒い影が、血を浴びたように溶岩をまとい、押し出てくる。

 

 悪竜ファブス・レクス。

 世界の敵が今、封印を解かれて姿を現したのだ。

 

 遠く、数キロ先からゆるりと歩み寄ってくる。四本の極太な足が地に着くたびに大地が揺れた。

 

 その高さは二百メートルに迫る。

 ドラゴンといえば背に翼のあるイメージだったが、奴には刺々しい鱗しかない。代わりに、七本の長い長い尻尾が揺らめいていた。

 尻尾の先端は切られたような形をしているが、ひとつひとつが体高と同じくらいある。七人の〝姉妹〟たちを切り離してなお、その力は圧倒的に思えた。

 

 だが――。

 

「よう、悪竜。覚悟はいいか?」


 強がりでも何でもない。

 俺は一目見て、『勝てる』と確信した。俺一人では難しかったかもしれないが、今は心強い仲間たちがいるからだ。

 

 返事を待たず、俺は『聖騎士の盾』を目の前に突き立てた。

 

「よしっ、それじゃあみんな。いくぞ!」


 おう! と元気いっぱいの返事とともに、俺の左から大きな影が飛び出した。

 

 体高二メートルはある巨大な虎。真っ白な体毛に黒い虎柄模様が描かれている。

 『悪竜の瘴玉』を宿したクララだ。

 彼女は悪竜の力を得て、その先祖である偉大なる大虎(グランド・タイガー)にいわば先祖返りした感じになった。ステータスも大幅にアップし、単身で悪竜とも戦える勇者級に届いたのだ。

 

 リザを背に張りつかせ、風を切り裂くように進むクララ。

 あっと言う間に迫りくる悪竜へ肉薄すると、ギラリと鋭い爪を伸ばして、右の前脚へ向けて飛びかかった。

 疾風をも超える速度で斬りつける。

 

 悪竜の堅牢な鱗をするりと爪が掠めた。

 たったそれだけに見えたのに、悪竜の前脚はぱっくりと割れ、マグマのような赤い血が噴き出した。

 

 ところが、攻撃後の隙を狙ったのか、悪竜の尻尾が一本、カウンター気味にクララへ襲いかかる。

 足場のない空中では身をひねって躱すこともできないほど、まるで王城の壁が迫ってくるような圧力だ。けど――。

 

 リザがクララの背から身を起こす。その手には彼女のトレードマークである魔法銃は握られていない。何やら口ずさんでいて、片手を前に突き出した。

 

 光の奔流が生まれる。七色に輝く魔力は飛び去ることはなく、球体となって彼女と、彼女を乗せるクララを包みこんだ。

 

 悪竜の尻尾による、痛烈な殴打。

 大地を裂くほどの威力をまともに食らい、二人は球体ごと吹っ飛ばされる。

 だが、球体が色を失うと、クララは柔らかに地面に降り立った。

 

 リザは元々魔力の制御が上手くできなかった。そこで魔法銃に魔力を流す方法を選択した。魔力を一定量に抑え、指向性を持たせる方法を取ったのだ。

 だが、今は『悪竜の瘴玉』を宿し、魔力量が大幅にアップしたにもかかわらず暴走を抑え、制御できている。

 そうして生み出されたのが魔力による鉄壁の盾というわけだ。

 

 着地したクララはすぐさま攻勢に転じた。鋭い爪を振るい、悪竜の体を削っていく。

 そしてリザの魔法で鉄壁の防御を築き、付いては離れ、離れては付くヒットアンドアウェイ戦法で翻弄する。

 

 決定打は与えられていないが、ねちっこい攻撃は確実に悪竜の注意を引いた。

 

「はああああっ!」


 逆側面。

 マリーが空を駆り(・・・・)、悪竜へ肉薄していた。彼女は空中を実際に駆けている。その足元には見えない風の道ができているのだ。

 

「ほいっ、ですわ!」

 

 マリーを補佐するのはミリアリアだ。魔族の彼女はたくさんの魔法を駆使し、攻防での活躍を期待している。今は風魔法を応用してマリーの足場を作っていた。

 

 マリーが大剣――竜殺し専用の『ドラゴンキラー』を振りかぶった。風の道を駆け抜け、悪竜の首筋へと斬りかかる。

 

 まばゆい光とともに、刀身が巨大化したように輝いた。光の刃は極太の首に深く入り、スパッと切り裂いた。

 大量の血が噴火したように噴き出す。

 しかしまだ終わりではなかった。

 

 大きな傷口へ光弾が嵐のように吹き荒ぶ。ミリアリアの追撃だ。王城すら消し飛ばす威力の爆発が何度も起こった。

 

『グ、ガアアアァッ!』


 初めて、悪竜が苦悶の叫びを上げた。長い首をしならせ、巨躯がぐらりと傾く。しかし踏ん張ると、七つの尻尾のうち五つをマリーへ向けた。

 ただでさえ太くて壁みたいなのに、隙間がないほど細やかに、正確に動かしてマリーを襲う。

 

「ふっ!」

「ほいほい、ですわ!」


 ところが、マリーはするするとわずかな隙間を縫って尻尾の攻撃を躱していく。ミリアリアは相手の攻撃を予測したように道を作り、その道が作られることがわかっているかのようにマリーは駆けた。

 

 まあ、当然だ。

 実際、彼女たちは悪竜の攻撃を(・・・・・・)見抜いている(・・・・・・)

 

 二人だけじゃない。

 リザがタイミングよく防御魔法を使えているのも、クララが間隙を縫って攻撃できているのも、すべて相手の動きを読んでいるからだ。

 

 それを可能としているのは、俺の後ろで祈るように念じているシルフィのおかげ。

 

 彼女の能力は〝口寄せ〟――死者や神々をその身に宿すこと。

 しかしその本領は、『心をつなぐ』ことにある。

 

 今、彼女は俺たち全員とつながっている。

 俺が読み取った情報を、並列処理して各メンバー個々に必要な分だけ渡していた。『悪竜の瘴玉』の力もあるが、実のところ女神たるペリちゃんのアシストで実現できている。

 ペリちゃんはシルフィの補助をしつつ、悪竜が放つ瘴気から俺たちを守ってもいる。戦況に応じて防御や助言もしてくれていた。

 

 ペリちゃん、初めて女神様っぽい活躍を見せる!

 

「何か失礼なことを考えていないかしら?」


「気のせいです。それより集中しましょう」


「……余裕ぶっこいてる場合じゃないでしょう? あなたこそ集中しなさい。大口を叩いておいて『できません』なんて許さないからね」


 怒られてしまった。

 さて、攻撃にも加わらずに俺は何をしているかと言えば、悪竜の情報をひたすら読み取っている。

 俺ともつながっているシルフィはそこから勝手に必要な分を取り出し、うまいこと処理して各メンバーに渡す。でも、俺の役目はそれだけじゃない。

 

 悪竜を倒すには、その弱点をさらけ出す必要がある。そこまでは読めた。今は、ただ必死にその弱点を探っているのだ。

 

 ああ、頭痛い。てか、全身が痛い。

 実は声を出すのも苦痛で、軽口を吐いている余裕すら本当はなかった。

 

 人の身で、〝神〟を読み取るのは無理がある。

 さんざん言われていたけど、今はそれに縋るしかない。

 

 みんな、頑張っている。

 誰も倒せなかった悪竜ファブス・レクスを、追いつめるほどに。

 

 でも、まだそれだけじゃ足りない。

 だから俺も頑張るのだ!

 

 見る。

 

 俺は『鑑定』スキルEX――〝神の眼〟を持つ男。

 

 見る。

 

 他者の情報を読み〝盗って〟その力を自分のモノにできるけど、それはあくまで付随効果。本質的な部分じゃない。

 

 見る。

 

 俺の本質は、ただ見ること。相手の情報を読み取ること。

 

 見る。

 

 たとえ相手が神様だろうと。

 

 視る。

 

 そのすべてを暴き出す!

 

「メルくん!」


 シルフィの声が遠く聞こえた。何か慌てた様子だが、今はちょっと待ってほしい。

 

「やめなさい! これ以上は持たないわ!」


 ペリちゃんも何か言ってるけど、やめるも何も、もう終わった(・・・・・・)よ。

 

 俺は『聖騎士の盾』を突き立てたままその場に置き、『勇者の剣』を抜いた。


「行くぞ、ファブス・レクス!」


 天高く飛び上がり、そのまま空中を駆けた。ミリアリアが風の道を作ってくれたその上を。

 

 ただひたすらに走る。上へ、空高くへ。

 

 そうして二百メートルに迫る悪竜の頭上に来ると、その眉間をめがけて飛び降りた。

 

 悪竜ファブス・レクスの弱点。それは額にある。バカでかい体の奥底にあったら面倒だったが、わりといい感じのとこで助かった。

 

 マリーやクララたちのおかげで、頭部の防御はおろそかだ。

 

 ぎろりと、悪竜の眼が俺へと向けられた。

 俺はそれを睨み返し、

 

「うらあ!」


 双眸の中心。眉間のど真ん中に、『勇者の剣』を突き刺した――。

 


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