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俺の『鑑定』スキルがチートすぎて ~伝説の勇者を読み〝盗り〟最強へ~  作者: すみもりさい
三章

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50◆尻尾の取り扱い


 フィリアニス王国の王宮の外れに、ひっそりと佇む古い小屋。

 木を組んで作られた小屋にはつたが絡まり、コケやらキノコやら謎の植物やらがそこらに生えまくって、長い年月放置されていたことを如実に物語っていた。

 

 ここは今、魔族のミリアリアが拠点とする魔法工房になっている。

 彼女はここに詰めて、大地母神の現界に必要な道具やらを作っているそうな。

 

 俺は普段、寄り付きもしないのだけど、シルフィがお手伝いに駆り出されたので、美味しいケーキをバスケットに入れて様子を見に来たというわけだ。

 

 コンコン、とノックして、「差し入れ持ってきたよー」と返事を待たずに扉を開けたら。

 

 

 ミリアリアが床に倒れていた。

 

 

「事件発生っ!?」


 彼女はうつ伏せに倒れ、ぐったりしている。

 

 すわ悪竜の尻尾チームが襲ってきたかっ!?

 俺が色めき立っていると、

 

「はっはっは、そう。いきなり不審者がやってきてね。彼女を殺害して出て行ったのさ」


 変な口調で、何やら作業してた様子のシルフィが言った。

 床の上にあぐらをかき、豆粒くらいの珠と細いペンを持っている。

 

「誰だお前っ!?」


「聞かずとも知っているだろう? 僕は『術の勇者』マール・ヘスターだよ」


 そうだった。

 魔法に詳しい彼を憑依させ、ミリアリアのお手伝いをシルフィはしているんだった。

 

「てか、性質の悪い冗談はやめてくださいよ」


「はっはっは、以前僕の語りを遮った恨みを、ささやかに返させてもらったのさ。というか、わざとらしく驚くのはやめたまえ。もう読み取ったようだが、彼女は根を詰めすぎて倒れただけだよ」


「それはそれで問題が……」


「今はぐっすり眠っている。そっとしておいてやるんだね」


 とはいえ、板張りの固い床で寝かしておくのは可哀そうだ。俺はよっこらせと彼女を抱き、ベッドへ寝かせた。

 

「ぶっ倒れるまでやらなくても……」


「失墜した種族の名誉を回復するために、彼女なりに一生懸命なのさ」


 ミリアリアは魔族だ。かつて悪竜を操ろうとして失敗し、滅ぼされかけた種族。その生き残りだった。

 

「ちゃんと『適度に休め』って注意してくださいよ。貴方はそのためにもいるんですから」


「注意はしたさ。というか、誰の忠告も聞かないから、何かあったときのために僕がいるんだよ」


「マールさんはちゃんと休んでますか?」


「もちろんさ。他人の体を使わせてもらっているんだからね」


 シルフィの姿をしたマールさんは、手にした小さな珠にペンで細かな模様を描きこんでいる。


「それって何やってるんですか?」


「君はさっきから、読み取ればわかることをいちいち訊くのだね」


「知らない人とかならまだしも、知ってる人とはちゃんと会話したほうがいいかなって」


「なるほど。意外に殊勝なんだな、君は」


「意外は余計ですよ。てか、邪魔でしたか?」


 話しながらも手を止めないマールさん。しゃべってなければシルフィが一生懸命作業をしている姿なので、ちょっと申し訳なくなってきた。

 

「構わないよ。というわけで先の質問への回答だ。これは首飾りを作っている」


 シルフィの横に小さな箱が二つあり、そこに同じような小さな珠がいくつも入っていた。一方は真っ白な珠が、もう一方はそれに模様が描かれたものが。

 

「神の現界手順は知っているかい?」


「いえ、見ても聞いてもいません」


「大雑把に言ってしまえば、この世界に神の肉体を用意し、そこに精神体である神を降ろすのだよ」


「神の、肉体……? それって……」


 俺はちょっと恐ろしいことを想像してしまった。

 

「死体を用意するのではないよ。もちろん生きている人間でもない。ま、材料は特殊だが、要は木彫りの人形だ」


 俺は、またもちょっと恐ろしい想像をしてしまった。

 

「木偶人形がしゃべったり歩いたりはしないよ。それを元に、神の力――神力で人と同じ肉体を再構成するのさ」


 装飾品には精神体とやらを降ろすのに必要な呪文を描くらしい。また、同じような呪文入りの服も用意して着せる。現界したらマッパでした、という事態を回避する意味もあるそうな。

 

「ところでさっきから思ってましたけど、心が読めたりします?」


「まさか。僕はこの娘に憑依しただけの存在だ。生前に持っていたスキルは使えない。魔法のひとつもね。シルフィーナの魔力をやりくりして、呪文に魔力を通すのがせいぜいだよ。で、君は平時に気が緩んでいる状態だと顔に出やすいのさ。覚えておくといい」

 

 そうだったのか。気をつけよう。

 俺が真摯に忠告を受け止めているというのに、マールさんはシルフィの姿なのにいやらしい笑みを浮かべ、

 

「というわけで。悩んでいるね、少年」


「いえべつに」


「……いや、そんなはずはないだろう?」


「悩みなんてありませんけど?」


「じゃあなんのためにここへきたんだっ!?」


「えっ、陣中見舞いですけど?」


 俺は床に置いたバスケットを指差す。ケーキが入ってますよ?

 

 マールさん、シルフィの顔でぐぬぬと悔しそう。

 

「まあ、気になることはあるんですけどね」


「それを言いたまえよっ」


 まったくもーとぷんぷんするシルフィ。じゃなかったマールさん。

 

「悪竜の尻尾の話は知ってますか?」


「ああ。尾を切り離して人の姿にし、暗躍させているのだろう? で、君はそのひとつを倒した」


 うん、そうなのだ。

 俺はアワリチアという名の尻尾のひとつ(一人?)を、倒した――はず、なんだけど。


 

「本当に、倒したんでしょうかね?」



「ん? どういうことだ? 実感がなかったという意味かね?」


「いや、倒しはしたんですよ。本人も『死ぬ』的なことを言ってましたし。でも――」


 俺は一度、同じように悪竜の尻尾を粉々に粉砕したことがある。

 

「悪竜の尻尾は7本なんです。うち一本が、そのままの姿で妖精の国を襲ったとき、俺はたしかに消滅させたはずなんです。なのに、人型になった尻尾は、7人なんですよ」


 そう、倒したはずのあいつ(・・・)は、また現れたのだ。

 

「ふむ。それは初耳だな……」


 アケディアが尻尾セブンの一人だとは、まだ誰にも話していない。

 

「もしかして、アワリチアも再生するんじゃないかなって」


「たしかに、その可能性はあるな」


「となると、わりと俺、無駄なことをしてるんじゃないかと」


 連中を捜し出してやっつけても、再生するんじゃ意味がない。

 

 マールさんは作業を続けながら、なんだつまらんとばかりに言う。

 

「僕は無駄とは思わないな。再生するにも瞬時とは考えにくい。一定期間、連中が絶望集めとやらができなくなるなら意味はあるさ」


 そういえば、アケディアは『再生中だから不完全』みたいな感じだったな。そのあたりは全部を読み取ってないから自信ないけど。

 

 マールさんの言うとおりなら、たしかに一時大人しくさせるには、十分に意味はあるんだろう。

 でも、うーん……。

 

「また顔に出ているぞ? 納得できない、とね」


「俺としては、完全に連中を黙らせたいので」


 いたちごっこを繰り返す間にも、連中の餌食になる人たちがいるわけだし。

 

「君は、面白いな」


 マールさんは肩をすくめて続ける。

 

「普通、敵の一人を倒したなら、すぐ次なる標的に意識を集中させるものだ。しかし君は一度立ち止まり、全体像を見直した。『常に大局を意識する』と言葉にするのは簡単だが、なかなかできることではない」


「いやー、それほどでも」


「そういう軽薄な態度は余計だがね」


 マールさんは作業の手を止めた。

 

「さて、そろそろ休憩にしよう。シルフィーネはどうやら、さっきから甘い匂いが気になるようだしね」


 マールさんがニヒルな笑みを作った直後、ハッとシルフィの意識が戻った。まぶたがお疲れぎみにとろんとなる。

 

「大丈夫か?」


「う、うん。〝口寄せ〟自体の負担は、それほどでもなくなったんだけど……」


「もしかして、作業中はずっとマールさんと話してたのか?」


 憑依中、シルフィの意識は表に出ないけど、憑依した人と意識下で会話できるのだとか。

 シルフィがげんなりした顔になる。

 

「ミリアリアさんは作業に没頭してるから、話しかけても反応しなくて……」


 だから相手に指名されたのか。

 さぞ、気疲れしたことだろう。

 

「そういうときは甘い物だ。ケーキを持ってきたぞ」


「ケーキ!? いただきますわっ」


 俺がバスケットを持ち上げると、ベッドからミリアリアが飛び起きた。

 シルフィも目を輝かせ、三人でティータイムとなった。

 

 

 お腹が満足するとすぐ、ミリアリアはすぐ作業に戻った。「ほどほどにね」との俺の忠告も右から左へ、またも作業に没頭する。

 

 アケディアからエリクサーを分けてもらおうかな、などと考えていると。

 

「メルくんは、どうしたいの?」


 シルフィがケーキにフォークを刺しながら、そう尋ねてきた。

 マールさんとの会話を、彼女は聞いていたのだろう。


 今後、悪竜の尻尾たちをどうするか。どうしたいか。

 

「できるかどうかは、わかんないだけど……」


 いや、たぶん無理だとは思ってるんだけど。

 

 

「あいつら、仲間にできないかな?」



 ぱっと思いついたことを言ってみたら、シルフィはうーんとちょっと考えてから。

 

「メルくんなら、大丈夫だよ」


 そう言って、笑ってくれた。



まあ、無理だろうけどいろいろトライしてみようっ。


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