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44◆ドラゴンキラー


 俺が生まれ育ったグランデリア聖王国の北。山脈を超えたところに、小国があった。

 そこは人族が支配する国家だけど、亜人も多く住む。

 けれど他民族であるがゆえか、ここ数年でも小さな国内で種族間の小競り合いが何度か起こる不安定な地域だ。

 

 その国の比較的大きな街で情報収集をした俺たちは、山岳地帯へと足を運んだ。

 

 緩やかな坂になっている岩場に着くや否や。

 

「なんか不穏な空気がっ!」


 さっそく二つの軍隊が睨み合いしている現場に出くわしてしまった。

 

 一方は小国の正規軍。みな人族だ。千人規模の鎧姿の兵士さんたちが、横に長く隊列を組んでいる。

 

 もう一方は蜥蜴人族(リザードマン)

 こちらは300ほどだけど、一人一人が屈強な体躯を持ち、固い鱗で守られた彼らは、数で三倍以上の相手にもまったく臆していない。縦に細くなった瞳をぎらつかせ、鼻息も荒かった。

 

 大きな岩陰に身を潜め、様子を窺う俺たち。

 今回は俺とソフィ、マリーの三人だけだ。(移動手段として妖精のチップルにも同行してもらっているけど)

 

「どうしたもんかなあ……」


 俺が困った顔をすると、横に立つマリーも困り顔で応じた。

 

「止めるなら今でしょうね。戦いが始まってからでは、収拾がつかなくなります」


 とはいえ、ほいほい出ていっても話を聞いてくれるかは疑わしい。


 俺とマリーは片方の当事者と同じ人族で、ソフィはまったく関係ないエルフ族。

 リザードマンさんたちからすれば、国軍の応援と考えるだろう。


 人族の兵士さんに歓迎されるとも思えない。

 知らん連中が武器を持って現れたら警戒するのが当然なのだ。 

 

 俺たちが飛び出したとたんに戦闘開始。なんてことになったら本末転倒。

 できれば双方に『俺たちは敵じゃない』と理解してもらい、平和的な話し合いにもっていきたいのだけど……。

 

 実のところ、用があるのはリザードマンの側だ。

 

 彼らが先祖代々受け継いでいるという伝説の剣――『竜殺し(ドラゴンキラー)』を借り受けたいと交渉する(『くれ』とは言わない)ために、俺たちはここまで来たのだ。


 対応を決めかねているうちに、国軍から騎馬が一騎、かっぽらかっぽらと進み出た。

 

 やたら恰幅のよいひげのおじさんだ。

 見るからに鍛えていないふくよかな彼はでも、どうやら部隊の副官らしい。

 

「逆賊どもよ、聞けっ。これは最終通告であるっ。剣を捨て、降伏すれば良し。抵抗するならば、一族郎党女子どもの区別なく、断頭台に上ることになるっ」


 声がちょっと震えていた。『なんで俺がこんな役を……』とビビりまくっているらしい。

 

 さてリザードマン側の反応は?と固唾を呑んで見守っていると。

 

 ドンッ。

 

 大地を揺るがすような轟音とともに、リザードマンの部隊から一人が飛び上がった。 

 またもズドンと大きな音を立て、副官のおじさんの前に降り立つ。

 

 大柄なリザードマンの中にあって、さらに一回りは大きな巨躯。

 

 彼らの中でもっとも強く、信頼されている戦士だ。

 

 俺たちは目を見張る。

 彼の威圧感もそうだけど、その手に握られた巨大な剣に目を奪われた。

 

 漆黒の大剣。

 長さはマリーの大剣とほぼ同じ。しかし横幅は二倍もある。その切っ先は尖ってはおらず、弓なりに凹んでいた。

 『突く』用途のない、『斬る』、あるいは幅広の刀身で『叩き潰す』ための武器だ。

 

=====

名称:ドラゴンキラー

分類:武器


攻撃力:A

防御力:A

攻魔力:C

抗魔力:B

=====


 『勇者の剣』には見劣りするものの、一級品の攻撃力と防御力を誇る逸品だ。

 しかもこれ、大剣の持つ特殊効果により、伝説級の武器に変貌する。

 

=====

【特殊効果】

『竜殺し』

 竜種に対して使用した場合、攻撃力および防御力をランクSまで引き上げる。

 また、接触時には『竜の鱗』の防御効果を無効化する。


『竜殺領域』

 使用時に半径100m圏内に存在するすべての竜種に対し、30秒間、あらゆる能力を大幅に減少させる。

=====


 すげーっ!

 マジで竜を殺すことに特化した性能だ。

 

 特に『竜殺領域』とかいう特殊効果がすさまじい。

 30秒間、悪竜の攻撃力や防御力、魔法とかなんかもろもろすべてを『並』のドラゴン程度にしちゃうのか。

 『竜殺し』の効果と併せれば、一方的な虐殺タイムが30秒もいただけるという優れもの。

 

 でも、うん、なるほど……。

 

 これほどのぶっ壊れ武器を、悪竜が長らく放置していた理由。

 悪竜退治にまったく利用されなかった理由。

 

 それが、特殊効果の但し書きに記されていた。

 

=====

 ただし、これらの特殊効果を使用できるのは『神性』を持ち、かつ、竜種に属する者に限られる。

=====

 

 『神性』はいわゆる神様的な人たちのことだ。

 妖精も含まれるから、これだけなら対象者はそれなりの数いる。

 

 『竜種』というのも、ドラゴンの血を受け継ぐ種族――『龍人族(ドラゴニュート)』がいる。

 数は少なく、俗世にあまり関わらない種族らしいけど、変わり者が仲間になってくれるかもしれない。

 

 ところが、である。

 『神性』を持つドラゴニュートは存在しないらしい。

 

 ぶっちゃけ、この条件を満たすのって悪竜だけなんだよなあ……。

 

 少なくとも今の俺たちには特殊効果は扱えない。

 まあ、シルフィの〝口寄せ〟と俺の〝神眼〟で、どうとでもなるかも?

 

 そっちは今後の課題にするとして、この『ドラゴンキラー』を、ぜひとも手に入れておきたい理由があった。

 

 この大剣を最初に手にした勇者がいる。

 その勇者は、『狂化』のスキルを持っていたらしい。使いこなしていたようなのだ。

 

 シルフィの〝口寄せ〟で彼を呼び寄せれば、マリーの相談に乗ってくれるんじゃないかしら?

 大剣という武器も彼女にぴったりだし。

 

 そんなわけで、『ドラゴンキラー』をどうにかしてお借りしたい。

 

 羨ましそうに眺めている間にも、話はどんどん進んでいく。

 

 大剣を持ったリザードマンの戦士が叫ぶ。

 

「逆賊だと? 我らは貴様らに隷属した記憶はない。貴様らこそ、我らの安寧を脅かす外敵ではないかっ」


「なにおぅ? お前たちが安寧を享受できていたのは、国家の庇護があってこそ。恩義に感じないどころか、国の――いや、世界の脅威に与するとは何事かっ。今すぐ、その『ドラゴンキラー』を捧げ、降伏しろっ。そうすれば族長の首ひとつで許してやる」


 なんか上から目線が気に入らないな。あれ? でも『世界の脅威』って、まさか……。


「おのれっ、言いがかりも甚だしいぞっ。しょせん人族どもは我ら亜人を見下し、隷属させたいだけ。我らは何者にも屈しないっ。徹底抗戦あるのみだっ」


 戦士が大剣を高々と掲げると、リザードマンの兵士たちが雄叫びを上げた。

 空気がびりびりと震え、副官のおじさんもその馬も大慌て。

 

 マズいな。

 俺たちが出ていかなくても、戦闘待ったなしの状態だ。

 

 仕方がない。ここは割り切ろう。

 

 俺は『勇者の剣』を腰から抜くと、岩陰から飛び出した。大きな岩を足場に飛び上がり、リザードマンの戦士――略してリザード戦士さんをマネして二人の間にシュタッと降り立つ。

 

「な、なんだ、お前はっ!?」と副官のおじさんは困惑。


「ふん、白々しい……新手かっ!」


 リザード戦士さんは予想どおり大剣を構え、俺に敵意を向けてきた。それを――

 

「ほいっ」

 ガキィンッ!

「ぐあっ!」


 俺は横薙ぎに剣を振るう。リザード戦士さんは大剣を盾に防ぐも、衝撃で吹っ飛んだ。

 

「おおっ、味方だったか。よし、そのまま連中に正義の鉄槌を――ぐぇ?」


 俺はぴょんと跳び、なんか言い始めた副官のおじさんの首根っこをつかんで、彼らの陣営に放り投げた。

 馬は主とは別方向に走り出す。

 

 とりあえず邪魔者はいなくなったので、本番といこうか。

 

 

「聞けぇい!」



 『勇者の剣』を高々と掲げ、叫ぶ。

 

「俺は『勇者の剣』に選ばれし、当代の勇者メル・ライルートだっ。この戦いは俺が預かる。双方、いったん引いてくれっ」


 ざわめきが生まれた。

 主に『勇者』という言葉に反応した国軍側から声が上がる。

 

「当代の勇者だと……?」

「あんな小僧が?」

「しかし、グランデリア聖王国で『勇者の剣』が抜かれたのは事実だぞ」

「噂は広まっているからな。自称勇者はそこらにいるだろうさ」

「だが、あの身のこなしは……」


 うーん。さすがに突然俺みたいな小僧が勇者を自称しても、『はいそうですか』と帰ってくれるわけないか。

 なので――。

 

 俺はぴょんと飛び上がり、大地へ向けへ剣を振り下ろした。


 目にもとまらぬ斬撃は、空気を斬り裂き、衝撃波を生む。

 突風が両陣営を襲い、轟音とともに大地に長い線が刻まれた。

 両陣営の間を分かつ線だ。

 

「この線を超えようとする者は、俺が相手をする」


 続けざま俺は、『雷霆ケラウノス』を撃ち放つ。

 遠くにあった巨大な岩へ命中。粉々に砕け散った。


「命が惜しくない者だけが、押し通れ!」

 

 俺は線をまたいで立ち、剣をリザードマン側へ、睨みを人族側へ向けた。

 

 呆然とする皆々様。

 

 殺気立った人たちの間に入って、平和的に話し合いをするのを諦めた俺は、第三勢力として武力を誇示することを選んだ。

 敵対するつもりはないけど、『味方ではない』と知らしめての牽制だ。

 

 さあ、どう出る?

 

 先に反応したのは、国軍側だった。

 

「な、なぜ、勇者が、このような……。えぇい、引け、引けえっ。陣まで戻るぞっ」


 司令官らしき人の声のあと、人族の部隊は踵を返して坂道を下って行った。

 俺たちにとってはお邪魔なほうが先に動いてくれて助かった。

 

 しんがりの背を見送ってから、俺はリザードマンたちのほうへ顔を向ける。

 

「驚かせてすみません。ちょっとお話があるんですけど、代表の方は……」


 さすがに決まり悪くて声が小さくなる俺に、野太い声が応じた。

 

「人族の勇者が、我らになんの話があるっ」


 困惑気味のリザードマンたちが二つに分かれ道を作った。

 そこを通ってやってくるのは、さっき俺が吹っ飛ばした大剣の戦士さんだった――。

 

 

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