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43◆お宝情報は唐突に


 かつての最高神ファブス・レクスは天より堕ち、悪竜となった。

 元とはいえ神様を相手に人の身で打倒できると考えるのはおこがましいことなのだろう。

 

 だからペリちゃんこと、大地母神ペリアナ・セルピアは、悪竜を永久に封じる策に出ると俺たちに告げた。

 現界し、自らを鍵として、悪竜を地の底深く、永遠に。

 

 おそらくそれは、もっとも現実的な悪竜への対処には違いない。可能性は低くても。

 

 でも、誰かを犠牲にして得たものを、俺は『勝利』と呼びたくはなかった。

 

 同じ可能性が低いのなら、誰もが笑って『勝った!』と喜べるほうがいいに決まっている。

 

 そんなわけで、俺は客観的には無謀でも、なんとなくできそうな気がする『完全勝利』を目指すことにしました。(根拠レス)

 

 当然ペリちゃんには反対されたのだけど、封印するのと倒すのとで準備はほぼ同じ。彼女が現界する手伝いはすると約束したので、『勝手にしなさい』と言質は取れたのでした。

 

 で、ペリちゃんが現界する準備にも別の準備が必要らしく、そちらは人海戦術でどうにかするそうな。

 俺たちの出番はまだ先。

 なので、俺たちはエルフの国にしばし留まるのだった――。

 

 

 

 フィリアニス王国の都の外れ。

 もうすこし行けばキングトロールさんのお住まいがある平原に、金属音が響き渡る。

 

「ぐ、ああぁぁっ!」


 赤い目をしたマリアンヌ・バーデミオン――マリーが吠えた。

 固有スキル『狂化』で力を増した彼女は、大剣を容赦なく俺に撃ちこんでくる。

 

 俺は『勇者の剣』で大剣を払う。

 マリーは大剣を振り回して崩れた体勢を整えつつ、攻撃を試みた。

 避けられるけど、あえて受ける俺。

 互いに衝撃で後方に飛び、間合いが広がった。

 

「ぐ……ぅぅぅ……」


 マリーは肩で息をしている。

 『狂化』が発動してから10分近く。そろそろ限界かな。

 次のラッシュをいなしたら休憩にしよう。

 

 俺たちは今、持て余した時間を使って修行に明け暮れていた。

 

 マリーは激レアアイテム『グロウダケの護符』で得た限定スキルで、成長速度が大幅に高まっている。ここ数日、『狂化』でリミッターを外しての模擬戦によって、ぐんぐん力をつけているのだ。

 

 俺は勇者を読み盗って剣を振り回すだけで、素のステータスが上がっていく。

 わりと楽ちん。

 いろいろな勇者を読み盗って戦い方をマスターしようなんて余裕もあった。

 

 今日は『剣の勇者』メリス・バルキュリアス。

 めちゃくちゃ高スペックな勇者様だ。

 

 あらゆる剣技を体得したその強さは、マリーの竜巻じみた剣撃を涼風みたく受け流せる。

 固有スキル『武装強化(神権)』ランクSは、そこらの木の棒を伝説の武器並にできるし、魔法も最高ランクをバンバン使えるし、さすがは最強の勇者との誉れも高いだけはあった。

 

 でも、ですね。

 

「やっぱり『天眼』との相性が悪いな、俺……」


 マリーがやたらめったら振り回す剣を受けつつ、そうぼやいてしまう。

 

 『剣の勇者』の持つ固有スキル『天眼』のランクはこれまた最高のS。

 状況を瞬時に把握して相手の行動を先読みする様子は、まさしく『未来予知』と呼べるほどの代物だ。

 

 ところがこれ、俺の『鑑定』ランクEXの先読みと丸かぶりなのである。

 

 きゅぴーんと直感じみた感覚での未来予測は、ぶっちゃけ文字情報を読み取る俺の『鑑定』よりもわずかながら早い。

 だから『鑑定』も使うと『あ、やっぱりそうなのね』と、答え合わせ的な状況になってしまうのだ。

 

 だったら『鑑定』を封印すればいいやと思うのだけど、これに慣れてしまうと別の勇者を読み盗ったときに困りそうというジレンマ。

 今まで『鑑定』にどっぷり慣れてしまっていたから、修正も大変。

 

 素のステータスを上げる修行と割り切って使うという考えも、今の俺にはなかった。

 なにせ、現在進行形で俺を悩ませる問題があるからだ。

 

「おらおらおらぁっ! ちんたらやってんじゃねえ! ぶん回せっ、ぶっ叩けっ、ぶち殺せぇ!」


 大天使シルフィちゃんが乱心召されたっ!

 

 俺が『剣の勇者』を読み盗るには、〝口寄せ〟ができるエルフの姫、シルフィーナ――シルフィの協力が必要だ。

 で、その勇者様はあのように、とても口や態度が悪くていらっしゃるのだ。

 

「あんた、ちょっと黙っててよっ」


「あん? うっせぇぞ、ジャリクソが。アタシの能力ちからを読み盗ってんなら、もちっとマシに動きやがれってんだ」


 これが最強の勇者だというのだから、昔は大層おおらかな時代だったんだなあ。

 女性でありながら悪竜と戦うくらいだからお淑やかにとは言わないまでも、常識的な言動をしてもらいたいものだ。


 もうヤダ。

 俺が耐えられない。

 シルフィの純真無垢なイメージをこれ以上壊さないでっ。

 

 よっぽどのことがない限り、メリス・バルキュリアスさんの力は二度と借りないと心に決める俺でした――。

 

 


 体を動かすとお腹が空く。

 というわけで、すこし早めの昼食を取ることにした。

 

 青々とした草の上にシートを敷き、ランチボックスを真ん中にして輪を作る。

 

 俺とシルフィ、それにマリー。シルフィの頭の上には付属品じみた妖精――チップル。

 これで全員、と思っていたのだけど。

 

「いただきますっ、ですわっ」


「なぜ、君がいるのかな?」


 とんがり帽子にローブをはおり、目をランランに輝かせるのは魔人族のミリアリアなにがし(長くて覚えられないけど読み取ったところ『ミリアリア・ドールゲンマイヤット・エル・ホイントハールマン』とのこと)。

 

「たしかペリちゃんから、現界に必要なアイテムを集めたり作ったりをお願いされてたんじゃ?」


 ロリっに見えて何百年も生きてる魔法のスペシャリストだから、かなり魔法知識に長けているのだ。


「アイテム集めはエルフの皆さまにご協力いただいていますの。わたくしは魔法工房にこもってアイテム作成に注力していますのよ。ただ、一人で黙々と作業していましたら、あの塔に閉じこめられていた忌まわしき200年を思い出して……わたくし、わたくしっ、もう耐えられませんのっ!」


「要は気分転換したい、と?」


「いけませんの!?」


「涙拭こうか」


 ミリアリアは涙目でランチボックスに手を伸ばし、サンドイッチを頬張って幸せそうな顔になった。

 食べている間は静かなものだろうと、俺たちは彼女を気にしないことにする。

 

「やっぱり『狂化』を使うと性能が段違いだね」


「ですが、やはりスピードの差は歴然です。それに、『天眼』を生かせるほどには理性が保てません。もっと『狂化』のランクが上がれば、多少はマシになるのでしょうが……」


 『グロウダケの護符』の効果や、勇者級の相手との模擬戦で、彼女の力はめきめき上がっている。

 でも、今はランクがD。しかも上がったばかりだ。

 彼女が求めるAには数年かかるだろう。

 

 となると、まずはステータスの底上げが急務。

 それもなかなか難しい。

 これまたものすごい勢いで成長はしているのだけど、ステータスのひとつでもSにするのは、そう簡単じゃないのだ。

 

 素のステータスを勇者並みに上げるのは、俺にとっても必要なことだ。

 

「なんかこう、もっと楽に強くなれる方法はないものだろうか?」


 俺のぐうたらなつぶやきに反応したのは、ミリアリアだ。

 もぐもぐごっくんとしてから、

 

「ありますわよ」


「マジで?」


「ええ。それですわ」


 言って、指差したのは、俺が腰から抜いて地べたに置いた『勇者の剣』だ。

 

「これに強くするような特殊効果はないよ?」


 無敵になるという破格の性能はあるのだけど、俺自身を強くするような効果はない。

 

「正確には、そういった効果を有した伝説級の武器や防具のことですわ」


 なるほど。『勇者の剣』に唯一無二の特殊効果があるように、他の武具にも別の――それこそ使用者のステータスをアップさせるような特殊効果が付属したものがある、と。

 

「でもそういうのって、そこらに落ちてるものじゃないよね?」


 俺の『鑑定』は世の中全部が見渡せるけど、情報が膨大過ぎて、探し当てるには何かしらのヒントが必要だ。

 

 と、ここで。

 サンドイッチをはむはむしていたシルフィがつぶやいた。

 

「聖遺物……」


「なにそれ?」


「かつての勇者や賢者、もっといえば現界した神々が使っていたモノだよ。わたしの〝口寄せ〟には、初回はそういうのが必要になるの」


 これまで彼女が〝口寄せ〟してこられたのは、『悪竜の瘴液』で一時的に勇者本人が憑依したのを『直接目で見た』からだった。(ペリちゃんとアース・ドラゴさんは除く)

 そういえば、『盾の勇者』はシルフィが記憶を取り戻す前だったけど、体が覚えていたとかそんな感じなのかな?


 さておき、シルフィの言葉をミリアリアが受ける。

 

「聖遺物と呼ばれるものは、何かしらの伝承が残っているものですわ。それをヒントに所在地を特定するのは、そう難しくないと思いますの」


 そこで俺の『鑑定』スキルの出番だな。

 

「聖遺物ってのをたくさん見つければ、シルフィが〝口寄せ〟できる偉人や神様も多くなるから、無駄にもならないか。むしろ一石二鳥ってやつだ」


 となれば、えり好みせずに集められるだけ集めてしまおう。

 

「まずは何でもいいから試しに探してみよう。情報プリーズ」


 一同を見回して尋ねる。

 年増もとい年長者のミリアリア、聖遺物とやらに詳しそうなシルフィに期待していたのだけど、意外なところから手が挙がった。

 

「それってー、要するにお宝のことでしょー?」


 シルフィの頭にのっかった妖精チップルがのほほんと言った。

 

「知っているのか、チップル」


「なんかー、北のどっかの国に行ったときにね、聞いたんだけどー」


 チップルはころころと楽しそうに、とんでもない情報を俺たちに叩きつけた。


 

「ドラゴンを真っ二つにしちゃう剣があるんだって」



 悪竜の打倒を目標とする俺たちにとって、それって最終兵器リーサルウェポンと言えなくないですかね?

 

 

 

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