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40◆デリノ襲来


 デリノが妖精の国へ現れたのは、悪竜と密会した翌日の夕方だった。

 

 やつは〝境界〟を伝って様々な場所に移動できる。新型とおぼしき『悪竜の瘴液』を入手したから、その日にもここへ侵入してくると思ったんだけど、意外にも時間がかかったようだ。

 

 デリノの目的は妖精王ウルタ――ウーたんを殺し、悪竜の封印を緩めることだ。


 それを防ぐために、俺たちは玉座の間から動けないウーたんを守るべく、玉座の間に集まった。


 デリノは王宮のすこし離れたところから、まっすぐに玉座の間を目指して進んでいた。

 

 やがて玉座の間に立ち入ったとき、やつの傍らには見知らぬ男がいた。

 

 陰気でひ弱そうなその男は、どこぞで囚われていた殺人犯らしい。

 〝大金が手に入る〟とそそのかされ、ウキウキしてやって来たその男はしかし、

 

「ウガアアァアアアアァアッ!」


 さっそく『悪竜の瘴液』を浴びせられ、見る間に姿を変貌させた。

 華奢な小躯が二回りほど大きくなり、細身だが筋肉質の見事な体に成り変わった。

 

=====

体力:A+

筋力:S

俊敏:S+

魔力:A+

精神力:S

=====


 ステータスはこんな感じ。

 『拳の勇者』ジェイク・リードの能力を得たらしい。

 俊敏がS+で、それをさらに向上させる固有スキルを持っている。ついでに『硬化(金剛)』のランクBまである。

 肉弾戦に特化し、スピードで翻弄するタイプの勇者だ。

 

 けど、おかしい。

 

「ゥ、ゥゥゥ……ガアアァッ!」


 男の理性はすでに崩壊していた。

 こいつが浴びせられたのは、従来の『悪竜の瘴液』だったのだ。そのため、自我は失われ、悪竜の〝動くものを殺せ〟という命令に支配されている。


 従来型をあえて使った理由。

 それ以外にもいろいろ奇妙な点がある。

 

 もろもろ明らかにするには、デリノの企みを読み取る必要があった。

 

 デリノは男の斜め後方――男の視界に入らないところに立っていた。


「けっ。ちょいと予定が狂っちまったが、まあいい。コレでオマエらは終わりだ」


 予定が、狂った?

 

 訝る俺を見て、デリノは口の端を持ち上げる。薄汚れたローブから出した手に、小さなガラス瓶が握られていた。

 

 あれは、新型の『悪竜の瘴液』。

 浴びた者の自我を残すよう、改良が加えられている。

 

 そうか。そういうことか。

 

「おいデリノ、もうやめろ」


 俺は腰の剣に触れられずにいる。

 

 瘴液を浴びた男はいまだ苦しんでいて、首をかきむしっていた。まだ襲ってきてはいないけど、俺が剣を抜けば即座に敵認定するだろう。

 そうでなくても、男が目の前にいる俺たちに飛びかかってくるのは時間の問題だった。

 

 わずかな時間でも、俺はデリノの説得を試みる。

 

「お前、わかってるのか? 瘴液それを浴びたら、もう死を待つしかなくなるんだぞ」


 デリノの企み。

 

 それは自我を失った男を俺と戦わせ、その間に新型の瘴液で強くなったデリノ自身が妖精王を殺すこと。

 

 本当なら新型で強くした『協力者』と連携したかったようだけど、〝予定が狂って〟今の策に落ち着いたらしい。

 

 連携しないとはいえ、勇者級の敵が同時に襲ってくるという状況には変わりない。

 

 2人を同時に相手するのは、想定していた。

 けど、一方がデリノ自身ってのが、ちょっと問題だ。

 

 ズキズキと頭の奥が痛んだ。

 

 デリノは妖精。神性を持つものを深く読み取るには、俺の体への負担が大きい。


「ふん。オレ様が死を恐れるとでも思ってんのか?」


 強がりを言いつつも、まだこいつは迷っている。

 

 いや、死ぬ覚悟はできているけど、できれば瘴液をその身に浴びたくないと考えていた。


「お前は悪竜を使って世界を滅ぼしたいんだよな? で、それを眺めていたいんじゃないのか? それを浴びたら、ウーたんを殺したところで、お前もすぐに死んじゃうぞ」


「はんっ。無理してオレを読み取ったのかよ? お生憎様だぜ。オレは悪竜の呪い程度・・の苦しみは、うんざりするほど味わってんだよ。耐えてやるさ。この世界が滅ぶのを見るまでなあ」


「デリノ、お前……」


 激しい怒りが湧いてきた。頭痛を吹き飛ばすほどの怒りだ。

 

 止めなくちゃいけない。こいつは絶対に、止めなくちゃいけない、のに――。

 

「ガアッ!」


 瘴液を浴びた男が、俺へと襲いかかってきた。

 

 迅い。

 

 俊敏S+。固有スキルで上乗せされたそのスピードは、真っすぐ突き進んでいるのに一瞬見失ったほどだ。

 

 ガキンッ。

 

 顔面を狙ってきた拳を『勇者の剣』で受ける。

 だが続けざまラッシュを浴び、じりじりと後退した。

 

 回し蹴りをかがんで躱す。すぐさまもう一方の足が、あり得ない角度で俺の顎へ迫った。これもギリギリで避ける。

 

 嫌になるくらい迅い。

 相手の行動を先読みできているからどうにか防げているけど、手一杯で攻撃に回れなかった。

 同じスピードで動けたら、むしろ組みしやすい相手ではあるのだけど……。

 

 距離を空けた一瞬の間に、ちらりとシルフィへ目を向ける。

 

 強張った表情でこちらを見ていた。いや、これ、ムッとしてる? なに怒ってるんだろうね、まったく。

 

 まあ、現状シルフィには頼れない。

 そもそも俺が攻勢に転じてしまっては、デリノが最後の手段を使ってしまいかねなかった。

 

 というわけで、戦いながらやつの説得を試みる俺。

 

「デリノ、なんでだ? どうしてお前は、そこまでして悪竜に手を貸す? 世界を滅ぼしたいと思ってるんだ?」


「あん? オマエらに話して聞かせる気はねえよ」


「気がない、ねえ……。本当は話せないだけだろ?」


「んだとっ!」


 俺が男の攻撃を防ぎつつ、いやらしく笑ってみせると、デリノは激情を露わにした。

 

 あまり怒らせたくはないのだけど、デリノ自身の口から語らせなくちゃいけないのだ。

 だから俺は挑発をやめない。


「知ってるぞ。お前、見世物にされてたんだろ?」


「ちっ……。覗き趣味のクソ野郎がっ。ああ、そうだよ。オレはなあ、裏切られたんだ。親友だと思ってたのに、そいつはオレをはした金で売りやがった。ゲスな大人になあ!」


 デリノは怒りで顔を真っ赤にして吐き出す。

 

「オレを買ったゲスどもは、オレを見世物にしやがった。それだけじゃねえ。ちょっとでもヘマをすりゃ、こっぴどく痛めつけられたさ。そりゃあ、ひどいもんだったぜ。死んだ方がマシってほどになあ」


 だから、復讐するのだ。

 自分を貶めた者たちだけでなく、繋がりがあるすべての者たちに――この世界すべてに。

 

「なるほど。可哀そうにな」


「けっ。今さら同情なんかいらねえ。オレはもう決めたんだ。何があっても、この世界は滅ぼしてやるってな」


「いいや。同情するよ。だってお前――」


 俺は、怒りを押さえつけて静かに告げた。

 


「悪竜に騙されてるだけだからな」



 ぇっ?と小さな声が耳に届く。

 

「具体的に言ってみなよ。デリノ、お前はその連中にどういう風に、どんな方法で、痛めつけられたんだ?」


「な、にを……。そんなの、話したく――」


「違うな。『話したくない』んじゃない。『話せない』んだよ。だって、お前を痛めつけた奴なんて、誰一人いないんだから」


「ぅ、嘘だっ! だってオレは、たしかに……ぁ、あれ……?」


 デリノがよろめいた。『悪竜の瘴液』を持つ手をだらりと下げ、もう一方の手で顔を押さえている。

 

「見世物にされるのは、屈辱だったろうな。それ以上に、友だちに裏切られたと思いこんでいたから、辛かったんだよな。そんなお前に、悪竜は付けこんだんだよ」


 ありもしない虐待の記憶を植えつけ、世界への憎悪に染まるよう仕向けた。

 

「友だちがお前を売ったってのも、誤解だ。お前はそもそも、その子がお前を捕まえた男たちと話しているのを見てないだろう?」


 その子はただ、自慢したかっただけだ。それも、身近な子どもたちだけに。それが巡り巡って大人たちに伝わり、デリノは囚われることになったのだ。


 見世物にした連中も、デリノを傷つけたりはしなかった。

 彼らが悪人であるのは間違いない。だから俺も彼らを庇うつもりはなかった。

 でも、彼らにとってデリノは大事な商品だ。傷つけて損はしても、徳をすることはないのだ。

 

「お前は、友だちへの疑心と屈辱を利用されたんだ。悪竜にな」


 デリノの友だちも、デリノの存在を誰にも語るつもりはなかった。デリノと約束していたからだ。

 でも、すこしは自慢したい気持ちはあったはずだ。

 自分は『妖精と友だちなんだ』と。

 

 そんな子どものちょっとした自尊心をどす黒く染めたのも、悪竜の仕業だった。


「違う……オレ、オレは……」


 よし。あとひと押しだ。もうすこしで、デリノは悪竜の呪縛から解放される。

 

 ところが、俺の考えとは真逆の反応が、背後から届いた。

 

「ふむ。これまでか。もはや手遅れであったらしい。残念だったな☆」


「ウーたん?」


「メルよ。そちのやり方が間違いだったとは言わぬ。が、アレは悪竜と接しすぎたのだ」


 妖精王はどこか楽しげに言う。

 

「妖精とは、享楽のために生き、死をも楽しむお気楽種族だ。そも復讐などという感覚を持たぬ。だがあやつは悪竜に付けこまれ、妖精の本質を見失った。その時点で、もう後戻りはできなかったのだ」


 見るがよい、と促され、俺は男の攻撃をさばきながらデリノを視界の端に捉えた。

 

 どす黒い霧が、小躯を覆っている。

 手にした小瓶から悪竜の瘴気が漏れ出し、デリノを侵食していたのだ。

 

「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ! みんな殺してやるっ!」


 デリノは自らの額に小瓶をぶつけた。割れた瓶の中身――『悪竜の瘴液』がデリノの体に振りかかる。

 

「さあ勇者メルよ、残念なことにそちの予測通りの展開と相成った。余を守り、悪竜の企みを阻止してみせよっ」


 ホント楽しいそうな王様だなあ。自分が殺されそうなのに。


「ひひっ、いてえ、いてえよぉ……。ぐるじぃ……」


 デリノの体が変貌する。

 大人サイズになって、体つきもがっしりとした。見た目は肉弾戦を得意としそうだけど、その正体は――。

 

「『氷の勇者』ツルバ・ノール……」


 氷にまつわる剣を振るい、氷系魔法を自在に操る、氷属性に特化した勇者だ。

 素の戦闘能力も高いけど、剣を持たない今、やつの最も強力な攻撃手段はやはり、魔法だった。

 

「死ねっ。死ね死ね死ねぇ!」


 デリノは呪いの苦痛で半狂乱になりながら叫んだ。

 やつの周囲、虚空に氷の塊が無数に現れる。それらを引き連れ、デリノが大きく跳躍した。広い玉座の間の天井すれすれにまで飛び上がり、氷塊を撃ち下ろす。

 

 俺は男の攻撃の力を利用し、後ろへ弾かれたところで床を蹴った。

 

 迫りくる氷塊を斬り落とすも、すぐさま『拳の勇者』を宿した男に邪魔され、大半を撃ち漏らす。

 

 撃ち漏らした氷塊は、まっすぐ妖精王に、みんなが固まる玉座付近を襲い――――ことごとくが霧散して消え去った。

 

 玉座の周囲に、半透明の巨大な壁が現れ、氷塊をすべて防いだのだ。

 

「神位120%の守り。簡単に破れるとは思わないでよね」


 シルフィの愛らしい顔がにやりと歪んだ。

 

「だからシルフィの顔でいやらしく笑うなっ!」


「ひっ!? ごめんなさいっ!」


 おっと、また神様・・を怒鳴りつけてしまった。

 

「とりあえずペリちゃんはそのまま防御をお願いします」


「奇妙な愛称で呼ぶな!」


 シルフィの姿でぷんすか怒るのは、大地母神ペリアナ・セルピア。

 ちゃんとした名前があったとは驚きだ。

 

 デリノが現れる直前、シルフィは大地母神ペリちゃんを〝口寄せ〟で憑依させていたのだ。

 

 シルフィの〝口寄せ〟は、俺の『鑑定』や『悪竜の瘴液』とは異なり、憑依した相手の力は得られない。勇者を降ろしても、シルフィの強さは彼女そのままなのだ。

 

 が、神様だとちょっとだけ状況が異なる。

 

 魔法とは違う『神力』と呼ばれる不思議パワーは使えるのだとか。

 以前、無理やりペリちゃんのほうからシルフィに接続して憑依したときも、制限付きながら使えていた。

 今回は正式な〝口寄せ〟なので、本来の神力ちからには及ばないものの、かなり堅牢な防壁を創ることはできるらしいのだ。

  

「いい? メル。神の名を気安く口にするものではないの。まして愛称で呼ぶなんて――」


「うらっ!」


「話聞きなさいよっ!」


 お説教は後で聞く。今俺は、勇者級を二人相手にしなくちゃいけないからだ。


 もっとも、デリノを気にしながら一人を相手にするよりも、ずいぶん楽ではあるのだけど。


「ぐ、ぅぅぅ……クソがっ! だったらまずは、オマエから殺してやるっ。メル・ライルートぉ!」


 苦痛に顔を歪めながら、デリノはさっそく俺を挟み撃ちにしようとする。

 

「勇者二人を相手に、いつまで持つかなあ? しかもオレは神性持ち。読み取り続けるのは苦しいだろぉ?」


 にやついているのだろうけど、苦悶に歪んだ顔では同情しか浮かばない。

 それでもやつは氷の塊を周囲に生み出し、展開する。

 

 デリノの言うとおり、これ以上あいつを読み取るのは文字どおり頭が痛い。でも――。

 

「とりゃっ!」

 

 俺は内心でほくそ笑みながら、デリノへと斬りかかった。

 

「バカがっ! 食らいやがれっ!」

 

 デリノが氷塊を一斉に撃ち放った。

 

 頭痛に耐え、それを先読みしていた俺はひょいと方向転換。そうすると、どうだろう?

 

「グガアッ!」


 氷塊は俺の後を追いかけてきた『拳の勇者』さんに襲いかかった。でもそこは勇者を名乗るだけはある。パンチの嵐ですべてを叩き落した。

 

「くそっ。読んでやがったか。ウゼえな」


 デリノはすぐさま次弾を俺へ飛ばそうと準備に入る。

 とても無防備に、俺を目で追った。

 

「いいのか? お前、狙われてるぞ」

 

「ああん? なにを――ッ!?」

「ガアッ!」 

 

 デリノに襲いかかったのは、『拳の勇者』を宿した男。理性を失い、動くものを殺そうとするそいつが、攻撃してきたデリノを見逃すはずがなかった。

 

 デリノはすんでのところで氷の塊を一か所に集め、男の殴打を防いだ。

 距離を取ろうと後退するも、男はすぐさま肉薄する。

 

 今のデリノは接近戦が行えない。そして『拳の勇者』を宿した男はスピードで大きく勝る。

 

 勝負は、火を見るよりも明らかだった。

 

 ズバッ!

 

 そう。

 理性を失った相手が、注意を別に向けていたなら、スピードで劣る俺でも簡単に背後を襲える。そして、勝てるのだ。

 

 胴を両断されたどこぞの殺人犯は、うめき声を上げながら黒い霧となって消えていく。その表情は、どこか安堵したようでもあった。

 

「残るはお前だけだ。デリノ」


「ひ、ひひっ……。殺す……殺してやる……」


 いくら自我を残そうとも、悪竜の呪いを身に受けて正気を長くは保てない。もとがお気楽種族の妖精ならなおさらだ。デリノの心は壊れる寸前だった。

 それでも俺を倒そうと、氷塊を周囲に展開する。

 これまでとは比べ物にならない大きさ、そして数。力を振り絞っての最大の攻撃だ。

 

「シルフィっ!」


 俺が叫ぶと、大地母神の〝口寄せ〟を解除したシルフィが言の葉を紡ぐ。

 

「降りたまえっ。『盾の勇者』ガラン・ハーティスっ!」


 これで最後。疲れでふらつきながら、シルフィは『盾の勇者』を呼び寄せる。

 

 俺はそれを読み盗って――。

 

「突進っ!」


 デリノへ突撃した。

 

「はっ! 固有スキルの『硬化(金剛)』でどれだけ耐えられるってんだっ。死ねっ!」


 構わずデリノは氷塊を撃ち出す。

 

 やつの言うとおり、いくら『盾の勇者』でも――固有スキル『硬化(金剛)』を使っても、特大の氷塊をいくつも受ければひとたまりもない。

 が、俺は『勇者の剣』の特殊効果で無敵となり、

 

「うおおぉぉおおっ!」


 氷塊を弾き飛ばしながら、デリノへ体当たりを浴びせた。

 抱き着き、衝撃を余さずやつの体に叩きこむ。


「ごぼぉっ!!」


 デリノは白目を剥いた。意識が飛び、ぐったりと俺へ体を預ける。

 

 死んではいない。

 殺すつもりがなかった。

 

 デリノだって被害者だ。できるなら、救ってやりたいと思う。でも……。

 

 俺はデリノを床に横たえる。

 

「もう、救えないのかな……?」


 つぶやきに反応したのはウルタだった。

 

「なに、やってやれんこともない。しょせんは呪い。解呪の法もなくはないからな。ま、時間はかかるがのう」


「えっ、マジで?」


「そこまでしてやる義理はないがな。今回、余の命を守った褒美である」


 ウーたんが言うと、デリノの体が光に包まれた。ふわりと浮き上がり、ウーたんのところへ移動していく……と思ったら、玉座の裏に隠れてしまった。

 

迷宮あそこに置くの? お掃除されない?」


「一時的な措置である。今は余の配下は出払っておるからな。あやつらが戻ってきてからだ」


 はたして妖精なんかに任せてよいのだろうか? 不安しかないので、知り合いの呪術師に今度相談してみようと心に決めた。

 

 ともあれ、デリノを倒して一件落着。みんなは緊張から解き放たれ、表情を緩ませた――のだけど。

 

 今一度、引き締める必要があった。

 

 俺は玉座の入り口を睨み、言う。

 

「おい、いつまで隠れてるつもりだ?」


 デリノが言った、『予定が狂った』元凶が、そこにいる。


「ん? もういいの? あー、よかった。正直、待ちくたびれてたんだよ。コレ、けっこうキツくてさ」


 開け放たれた入り口から、見知った男がのんびりした口調で姿を現す。腰に4本、背中にも12本のカタナを背負っていた。

 

「やあ、久しぶり。リベンジに来たよ、メル・ライルート君」


 男の名はムサシ・キドー。

 その長身の体躯からは、黒い霧がにじみ出ていた――。

 


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