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29◆妖精のイタズラ


 白刃のきらめき。

 

 俺は『勇者の剣』を大上段に構えて飛び上がった。

 

 正面から迫りくるのは、身の丈5メートルを超える石の巨人だ。

 ストーンゴーレムは大きなこぶしを振りかぶり、俺を叩き落そうとしている。

 

「うおりゃっ!」


 相手がこぶしを突き出す前に、俺は剣を振り下ろす。

 

 切っ先が巨人の表面を撫でた程度。しかし、まるで刀身が倍に伸びたかのような切れ味で、巨人の体は真っ二つになった。

 

 着地し、前を見据える。

 

 げんなりした。

 

 二つに分かれた巨人はその場に崩れ落ちたものの、ずりずりと体が移動し、ぴったりとまたくっついたのだ。むくりと起き上がり、ガオーッと叫ぶ。とても元気。

 

 さらに、である。

 

「どんだけいるのよ?」

 

 視界に映る、巨人、巨人、巨人……。


 恋人との待ち合わせ場所へと急ぐかのように、ものすごい勢いでお花畑をこちらへ駆けてくる。大自然の景観が台無しだっ。

 

「リザ、クララ、シルフィを頼む!」


「任せておいてっ」

「兄さま、ファイトですっ」

「メルくん、がんばって」

「チップルはー? なにすればいいのー?」


 少女たちの声を背に受け、俺は走り出した。

 

「ねえっ! チップルはーっ!?」


 俺は聞こえないふりをして、バッタバッタと石の巨人どもを斬り伏せる。こいつらのステータス平均はA未満。勇者パワーを持つ俺の敵ではない。が、数が多いし、すぐ復活するので面倒この上なかった。

 

 これも幻覚の類かな?とも考えたけど、違う。

 けど、この巨人たちを深く読み取っていたら、攻略法はすぐに見つかった。

 

雷霆(ケラウノス)


 俺は雷撃を撃ち放った。まとめて十数体の巨人が粉々になる。

 

 と、俺は1体の巨人が目に留まった。

 

 壊されるのを恐れず突っ込んでくる巨人たちの中で、そいつは転んだために雷撃が頭上を通過し、難を逃れたのだ。

 けど、その転倒はかなりわざとらしかった。

 

 その巨人はさっきから、突撃してくる他の巨人たちの後ろをうろうろしているだけで、一度も俺に挑んでこない。

 

 俺はするするとストーンゴーレムの間をすり抜け、そいつに肉薄する。

 ぎょっと慌てる巨人さん。

 あからさまに挙動不審のそいつを読み取った。

 

 ストーンゴーレムは命のない傀儡。本体がひとつだけいて、他の巨人たちはそれを元にしたコピー品だ。

 

 俺は本体の胸に、剣を突き刺した。

 

「グオォオオォォォッ!」


 〝核〟を破壊されたそいつは、ぴかっと光って砕け散った。

 他のストーンゴーレムたちの動きがぴたりと止まる。本体と同じく、がらがらと崩れていった。

 

 天上から声が降る。

 

『見事であるっ。勇者ども、よくぞ第6……7だったかの? そのくらいの試練をよくぞ突破したっ。褒めてつかわす』


 例によって野太いおっさん声。ウーたんこと妖精王ウルタだ。

 妖精の国へ立ち入ってからすでに5日。

 1日に1回か2回の試練が俺たちを襲っていた。

 

 ま、今回もそうだけど、わりと俺の『鑑定』スキルで対処可能なので、さほど苦労はしなかったのだけど。

 

『褒美である。ぞんぶんに食らうがよいっ』


 お花畑のど真ん中に、恒例の鉄板焼きセットが用意されていた。

 すでにジュージューと香ばしい匂いを漂わせている。

 

「にしても、場所は選べなかったんですかね?」


 荒らされ放題のお花畑を見ながらの食事は、いつもより美味しくなかった。

  

『ここに咲く花は地中深くに根を下ろし、踏まれて強くなる。美しい花を咲かすには、ときどき踏み荒らさねばならぬのだ』


 俺たちの試練がそのついでと言わんばかりだな。

 まあ、強くあろうとする草花の話を聞かされると、俺も強くなりたいと食欲が増す単純な俺。

 もりもり食べる。

 

『うむ、よい食べっぷりである。よいぞ。褒美を与えた甲斐があるというものだ』


「ほらシルフィ、野菜も食べなきゃダメじゃないか」


「ぅぅ……、ピ、ピーマンは、ちょっと……」


 記憶が戻る前も後も、苦手なものは変わらないらしい。

 

「あたしがいっぱい食べるから、シルフィはお肉をどうぞ」


「こらこら、甘やかすんじゃありません」


「お肉はボクが食べるですっ」


「こらこら、君も野菜を食べなさい」


 とはいえ、苦手なものを強制するのは酷だな。野菜をそのまま食べさせるのは可哀そう。

 

 俺は半分に切ったピーマンに肉を詰め、妖精さん特製のタレをたっぷりつけてシルフィとクララに渡した。

 

「……これなら、なんとか」


「おいしいですっ」


「あたしもやってみよっと。……うん、いいわね♪」


 青空の下、みんなで鉄板を囲むこの幸せ。

 

『ほほう。余がのけ者になっておる感バリバリだぞ☆ おい、相手しろ☆』


 ウーたん、いたんだね。

  

「まだ試練って続くんですか?」


 ぐちゃぐちゃになった花畑の向こうには、真っ白な宮殿がそびえている。歩いて1時間ほどの距離に見えるのだけど、この状態ですでに2日経っていた。歩いても歩いても、ちっとも近づかないのだ。

 

『そろそろ直に会ってもよいと考えておる』


「え、マジで?」


『ぶっちゃけ飽きた』


 イラッとしたけど俺は不満をぶちまけるのを我慢した。が、妖精王にはお見通しのようだ。

 

『不満そうな顔をするでない。余の試練は、そちにとっても有意義であったはず。ステータスを確認してみるがよい』


 言われてみれば、力は増した気がする。ステータスも国境の宿で見たっきりだし。

 

 俺は自分のステータスを『鑑定』してみた。

 

=====

体力:C+

筋力:B-

俊敏:B-

魔力:C+

精神力:B

=====


 おおっ!? 俺のステータスに〝B〟の文字が入る日がこようとはっ。かなり上がってるなあ。

 ちなみに前のときはこんなだ。


=====

体力:D-

筋力:D+

俊敏:D+

魔力:E+

精神力:C+

=====


「でもこれ、偽勇者の2戦分の伸びが大きいんじゃ?」


『そこに気づくとはあっぱれであるっ』


 ま、多少なりとも妖精王の試練が貢献しているのは間違いないだろう。

 

「それじゃあ、そこに見えるお城というか王宮っぽい建物にまっすぐ行けばいいですか?」


『うむ。というか、訊きたいことがあるならこの場でもよいぞ』


 あ、それでいいんだ。

 ちょっと妖精王のご尊顔を見てみたい気もするけど、訊けることはここで訊いておくか。

 

「じゃあ、悪竜に協力する妖精について詳しく」


『ふむ、悪竜に与する妖精か。もちろん余は知っておる』


「どんな妖精さんなんですか?」


『ふつうの妖精じゃ』


「いや、ふつうって……。『悪竜の瘴液』をばら撒いて、世界を混乱させようとしている悪い奴ですよ?」


『我らにしてみればイタズラの範疇だ。靴下を片方だけ隠すのと大差ない』


「悪質加減が雲泥の差ですよっ」


『そちらの価値観ではそうだろう。が、我らからすれば手間暇の大小程度の違いでしかない。ふむ、そうだな。とても手間がかかっているという点では、その者は〝変わり者〟と言えるか。ふつうの妖精は、そんなまどろっこしいことはせぬ』


「どうして手間暇をかけてまで、悪竜の味方をするんでしょう?」


『さて、余は読心の術を持たぬゆえ、知りようはないし、知りたいとも思わぬ』


 ま、動機は本人に問いただせばいいか。

 

「それで、その妖精の名前は? 特徴もできるだけ詳しくお願いします。あとは拠点とか、今どこにいるか」


『おいおい、焦るな焦るな☆ まずその者の名であるが――む? なんだ、これは……?』


「ん? どうかしたんですか?」


 俺は上空に語りかけていたので、上を向いていた。だから、その異常に気づいていなかった。

 

「メルくん、あれっ!」


 シルフィが指差した先は、妖精王が住まう王宮だ。その真っ白い建物に、黒い雲のような、霧のようなものが覆いかぶさっていて――。

 

「ちょっと待てよ、おいっ。〝悪竜の瘴気〟だって!?」


 黒い霧を読み取ったところ、そう出た。


 どうして妖精の国に、悪竜が放つ瘴気があんな大量に?

 

『うむっ! これはマズい。非常にマズいっ。勇者ども、余を助けよ。余を含めて妖精とはか弱き者。戦うとか無理だぞ☆』


「ウーたん、いったい今そこで何が――」


『そちが『鑑定』で読み取るまでもない。悪竜が放つ瘴気がこの場に満ちているのであれば、事実は明らか』


 そうだ。ひどい頭痛を我慢してまで読み取る必要なんて、なかった。

 

 

『我が王宮に、悪竜が姿を現しおったわ』



 俺たちはすぐさま、王宮へと走った――。

 


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