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23◆『妖精の国』へのカギ


 悪竜に協力し、俺たちの邪魔をしているのは妖精たちだと大地母神様は確信した(確証があるとは言っていない)。

 

 そして俺は今、そこらを飛んでいた妖精を思わず捕まえてしまっていた。

 

 全身が緑色でうっすら発光している小さな女の子?っぽい何か。背中には昆虫のはねみたいな半透明なのが生えていた。

 

 彼らの真意を問いただす願ってもないチャンスではあるのだが、

 

「もしかして、愛の告白? やだ、どうしようー? チップル、困っちゃうー♪」

 

 俺の手のなかで、妖精さんはもじもじくねくねと照れまくりであった。

 

 とりあえず、妖精さんの素性を明らかにしようと思う。

 彼らは『神性』持ちで、下手に『鑑定』して情報を読み取ろうとすれば、俺の体には多大な負担がかかる。

 が、ちょろっと小出しにやれば、どうにかなるかなーとやってみた。

 

=====

名前:チップル

称号:妖精・遊び人

=====


 ものすごく下っ端臭がぷんぷんするぜっ。

 

 まあ、妖精は妖精。割り切ろう。下っ端でもいろいろ知ってるかもだし。

 

 俺は一度お湯から出る。片手で苦労しつつ、腰にタオルを巻く。

 今は体がぽかぽかしているが、話しこめば冷えるだろう。足だけ湯につけて岩場に腰かけた。

 

 さて。妖精相手でも、ちょっと読み取るだけなら頭がずきっとするくらいで、我慢はできる。

 ステータスとかは後回しにして、【状態】に記されたチップルなる妖精の考えを、ピンポイントで探ってやるっ。

 

 と、意気込んだものの、

 

「ふふ、熱っぽく見つめちゃって。でもー、そう簡単にOKしないからねー。うふふ、じらしてじらしてー、もーっとチップルを好きにさせちゃうんだからー♪」


 ……わざわざ読み取る必要なくない? 考えを垂れ流してるね。

 

 ひとまず普通に話すとするか。体への負担はなるべく避けたいし。

 

 会話は慎重に、と俺の直感が告げている。選択を謝るといろいろ終わってしまうのだ。たぶん。

 

「愛の告白では、ありませんっ」


 正直に言ってみた。

 怒らせてしまうかな?と内心ドキドキしながらも表情を崩さない俺。


 妖精さん――自称どおりのチップルさんは、目を眇めた。 

 

「へー、やるじゃない」


 なにがですか?

 

「チップルと恋の駆け引きをしようっていうのねー。うふふ、楽しくなってきたわー」


「……チップルさんは、ここへなんの用事があって来たんですか?」


「あら、さっそくチップルのことが気になってるのねー。これはチップルの楽勝かなー? チップルは、勇者がどんなやつか、見に来たのー」


「俺を見て、どうするつもりだったんですか?」


「そんなの決まってるじゃない。いい男だったら、誘惑してチップルの虜にしちゃうのー♪」


「…………可愛いですね」


 唐突なのは百も承知で、いちおう正直に褒めてみた。

 

 チップルさん、やれやれと肩をすくめて首を横に振る。

 

「事実をありのまま表現するなんてー、ホント興醒めー。ちょっとがっかりかもー」


「……チップルさんのことを言ったんじゃ、ありませんよ」


「なっ!? ももももちろん、知ってるわよー」


「髪型が、可愛いなって」


「ッ!? や、やっぱりチップルのことじゃんよーっ」


「……いえ、俺の友人の話です」


「ししし知ってたしー。な、なんなのー? この男、チップルにまったく興味ナッシング? うー、くーやーしーいーっ。ぜったいぜったい、振り向かせてやるんだからーっ」


 だいたい、わかってきたぞ。

 

 この妖精さん、質問にはあっさり答えてくれる。

 そして俺との話にはどうしても、恋愛を絡めたいらしい。

 

 うん、わかる。わかるよ。

 

 このまま進むと、そこはおそらく、地獄だ。

 

 彼女のペースで、下手に恋愛方面に話を絡めてはいけない。

 まかり間違って懐かれでもしたら、チップルさんはその隠密性と機動性と残虐性をもって、俺の近くにいる人たちをことごとく暗殺してしまいかねないのだっ。

 

「チップルさんは、悪竜に協力してるんですか?」


 ここは単刀直入に切り崩し、とっととお引き取り願おう。

 

 ところが、である。

 

「悪竜? なにそれー? チップルってば、デカブツはお呼びじゃないのよねー。せいぜい人間サイズ?」


「あれ? 悪竜を、知らない……?」


「ししし知ってるしー。あれでしょ? ドラゴンよね? 悪いドラゴン。うん、あれねー、うんうん」


 読み取らなくても、嘘は言ってないと感じる。

 

「悪竜に協力して勇者おれの邪魔をしようとしてる妖精さんがいるらしいんですけど、知ってます?」


「ねえ、さっきからなんの話をしてるのー? 他の妖精れんちゅうが何してるかなんて、チップル興味ないしー」


 こ、こいつ…………「使えねえなっ!」


「ひゃあっ!? な、なになに、なんなのー?」


 しまった。チップルさんはぷくーっと頬をふくらませ、涙目で睨みつけてきた。


「ごめんなさい。つい大声を……」


「ふんっだー。レディーを怒鳴るなんてサイッテー。もうあんたなんか知らないっ」


 チップルさんを怒らせてしまったようだ。彼女はぷいっとそっぽを向く。

 

「他の妖精たちのことは、どうやったらわかりますかね?」


 めげずに質問を続ける俺。

 

「ふん。妖精のことが知りたいなら、王様に聞けばいいじゃないっ」


 素直に答えるチップルさん。

 

 いいね。順調だ。恋愛話からも完全に離れたし。

 

「ん? 王様って……」


 『勇者の剣』の特殊効果の名前に、『妖精王』という言葉があった。エレオノーラ女王も『妖精の国』がどうとか言っていたし、勇者アース・ドラゴの遺体を持ち去ったのは妖精王だった。

 

「妖精王には、どうやったら会えますか?」


「しばらく〝こっち〟には出てないなー。『妖精の国』の王宮に引きこもってるよー」


「じゃあ、話をするには『妖精の国』に行くしかないんですかね?」


「あんたじゃ無理ねー。チップルなら案内できるけどー」


 ふふん、と得意げなチップルさんに、「連れていってください」とお願いする。

 

「はあ? 嫌に決まってるしー」


 あっかんべーっと拒否されてしまった。

 

「どうすれば、連れてってもらえますか?」


「えー? そうだなー」


 チップルさんはぴこーんと何やら思いついたようで、にやにやしながら答えた。

 

「手を離してくれたら、いいよー」


 うん。さすがにわかりやすい。〝拘束を解かれたら飛んで逃げる〟気満々だね。

 

「そこをなんとかっ。お願いしますっ!」


 俺は無視して勢いで押そうとする。

 うっ、【状態】を読み取るのはけっこうキツイな。頭がずきずきする。

 と、油断した瞬間。

 

「スパークっ」


 ぺかー。チップルさんがまばゆく輝いた。

 

「うおっ、まぶしっ」


 怯んだところを、がぶりと噛まれる。

 

「いてえっ!?」


 俺は思わず手を緩めてしまい、

 

「へっへーんだー。ざまーみろー♪」


 くっ、まんまと逃げられてしまった。チップルさんは俺がジャンプしても届かない高さで小躍りする。


「他を当たるのねー。最近、みんなちょこちょこ〝外〟へは出かけてるしー」


 いい情報をもらったけど、できれば彼女を確保しておきたい。

 いつどこでどんな妖精に会えるかわからないし、何よりチップルさんは扱いやすいからっ。

 

 と、岩場の向こう側で声がした。

 

「なんですか? 今あっちが、ぱあって光ったですよ」

「ちょ、クララ! そっちはメルがいるんだってば。タオルくらい巻きなさいよっ」


 クララとリザの声だ。あっちは女風呂だったのか。

 

「あ、兄さまっ♪」


 クララがぬっと上体を現した。どきりとしたけど、リザがちゃんとタオルを体に巻いてくれたらしい。

 

「今、誰かとお話ししてたですか?」


「あ、ああ。そこに妖精が……」


 俺が虚空を指さすと、チップルさんがびくりと警戒した。俺ではなく、クララを見て怯えている。

 

「……そこに、なにかいるですか?」


 ほっと胸を撫で下ろし、俺にふふんと横目を流すチップルさん。

 どうやらクララには見えないらしい。

 俺は〝神眼〟があるから見えているのか。

 

「それじゃー、バイバーイ♪ もう二度と会うことはないだろけどー」


 いかん。このままでは逃げられてしまう。


 そこで、一計を思いつきました。

  

「く、くそうっ。でもよかった。さっきの光をもう一度食らったら、俺は立っていられないほど苦しんでいただろう。ああ、よかった。またあの光の攻撃がなくてっ!」


 チップルさん、にやぁっと悪魔的な笑みを浮かべる。

 

「あはははー。弱点発見っ。いくよー。スパークっ!」


 おお、まぶしいな。でも目を細めれば耐えられるくらいなんだよね。さっきはいきなりでびっくりしただけで。

 

「クララっ、光の中心に飛べっ! そして咥えろっ!」


「にゃー♪」


 クララ、なんの疑いもなくぴょーんと飛ぶ。

 

 かぷり。「ぷぎゃっ!?」

 

 見事、輝く妖精をゲットした。

 

 クララにはチップルさんが見えてないけど、技名『スパーク』による発光は認識してたもんな。

 

 俺は着地したクララの頭をよしよしと撫でながら、彼女の口からチップルさんを救出する。

 

 なんか、ぐったりしていた。

 

 外傷はなさそうだ。クララがうまいこと咥えてくれたみたい。食べられるとの恐怖で気絶してしまっただけらしい。

 

 とにかく、『妖精の国』へのカギは再び手に入れた。

 

 あとは、どうやって騙――なだめすかし、カギとして機能してもらうかだな。

 うん、気が重いよ……。

 

 

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