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機械仕掛けの幻想  作者: 若田悠成
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鍵と追憶

 楓月たちが特殊急襲部隊──SATの突撃の合図を聞いたのは、校舎から向かって右側の塀の外で待機していた時だった。

 近くなる喧騒と雑音に紛れながら、由香にワイヤーランチャーを撃たせると、頂上に金具を引っ掛け、二人で直角の壁を上っていく。

 無事、気付かれないまま頂上まで上りきり、跳び移って校舎三階に潜入することができた二人は緊張の糸を途切れさせること無いままフォーメーションを組み、階段へと身を隠すと、作戦を本格的に開始した。


 代行者養成特務学園──国立第二白浜高校は言わば要塞だった。

 囲むように作られたいやに高い塀。唯一の正面入り口にも監視カメラが五台。学校内だけで五十台近くあるという徹底ぶり。

 当然、常時警備員が配備されており、まるで政府による立ち入り禁止区域を彷彿とさせるような万全の警備体制だった。つまり、此処は制圧される筈がなかった。その筈だった。

 直接的な原因は、日頃の安全への過信から生じた、警備員たちの気の緩みだったらしい。

 最初は検問に立たされていた正面玄関の警備員二人。次に建物内部の受付にいた守衛五人。つまり全員。

 電話越しに伝えられた情報の最後は断末魔で締め括られたというのだから、警備員は全滅したということは誰もが想定できることだった。

 ただし、生徒たちは、全員がランチルームに立てこもれたらしく、犠牲が無いという情報が伝えられたのは不幸中の幸いだろうか。

 警備員たちの尻拭いという仕事に、多少の不満を感じながらも、表情には出さず、楓月たちは現在位置を再確認する。何時来るかもわからない他人の足音に気を配りながら。

「隊長。そっちからここ見えますか? 見えたら返事下さい」

「見えすぎるくらい見えてるよー。援護は任せてー」

 独特な間延びする口調に安心感を覚えながら、頭の中を整理する。

「あっ、やっぱり、すぎってことは無いね。うん。ていうか全然見えないんだけど。どーしようねこれ」

間延びする口調は、不安感をも指数的に増加させることを学んだ。

「此処って東館で合ってます? 地図をもう一回教えてくれると助かります」

 少しの間の後、開示されていく確かな情報と、楓月は自分の記憶を照らし合わせていく。

「そこは、東館で合ってるよ。要救助者は本館一階のランチルームに立て込もって応戦中。同じく本館には、裏側に位置するドーム型の吹き抜けエントランスに、主犯と思われる教団幹部の瀬良賢人、28歳が居座ってる」

 L字型に出来ている東館を見える範囲で観察し、本館の位置を頭に叩き込むと続きを促す。

「それから、東館からは二階の渡り廊下で本館に入るルートが最短ルートなんだけど、二階は監視カメラが多いから、校舎北側の階段から一階に降りて南東の渡り廊下すぐ近くの階段で二階へ。その後本館を制圧って作戦だけど、出来る?」

真後ろにある踊り場付きの階段が北階段であることを思い起こしていると、右耳に小さな違和感。

 即座に肯定。右足に力を込め、ナイフを抜く。腰を落として肺に溜まった空気を入れ替えるように深く息を吐き、呼吸を静かな形へ整えると、思考がクリアになる。やるべき事は簡単なはず。

「じゃあ、頼んだよ」

「了解」

 同時に神速の刺突。深く食い込む慣れた感触。予測通り。

「すみません。一人片付けました。死体は隠しときます」

「分かった。じゃあ行こう。他に失敗は?」

 目の前には足音を忍ばせてきたであろう、見回りの襲撃犯が一人。心臓を的確にナイフで貫かれ、致命傷を食らっていた。

 後方では、由香も愛銃であるアサルトライフルSIG SG550を構え終わっており、足を忍ばせたことが水泡に帰した事を悟った襲撃犯は、恨めしげな視線を向け、絶命した。

「有りませんよ。当然これからも。だって、その為の俺たちですから」

 相手が死んだことを証明するために、死体撃ち。何時の日からか通過儀礼のようにもなったその行動を終えると、楓月は、出来るだけ速く目標地点へ向かうことを決めた。

 由香とアイコンタクトをとると、下の階に一歩を踏み出す。同時に重心を左半身へとかけ、左手を真ん中の仕切りに手を突くとモンキージャンプの要領で飛び越え、一階まで落下。前転し衝撃を和らげると、武器を構える。幸運なことに視認出来る範囲内に敵は見当たらなかった。

 後続してくる由香に敵兵なしとハンドサインを送ると、合流してから直線廊下を疾走。曲がり角で一旦止まり、襲撃犯を確認。

 誰も居ないと知ると、出来るだけ足音を殺して走ることを即決する。

 だがこの時、楓月の頭を支配していたのは安堵でもなく、恐怖でもなく、焦燥と一抹の不安感だった。

 いくら表では戦闘中とは言え、それにしても無用心に過ぎると言わざる得ない襲撃犯達の警戒網。これが楓月の不安感を更に助長させ、新たに焦りを産み出し続けていた。

 当然ながら、追い込まれた状況下では思考力は低下する。それは雑念が次第に増える事と同義であり、また、楓月にある異変をもたらす要因だった。

 もう取り戻せない筈の、あの人の声。それは、唯一、思い出したくないとはっきり思える声。

 多くの思い出を、初めての恋を、かけ換えの無いあの時間を、全て孕んだあの語りが。

 それが、今、幻聴となって甦る。

「綻びはね、次第に大きくなるんだよ。また、誰か一人でも気付いた人がいたら、その綻びは急速的に大きくなっていくの。誰もが分かるぐらいに。それでね、大きくなった綻びは前回よりも強固に修復されちゃうんだ。だからね」

 楓月は未だに探している。言葉を発した時の、彼女の心境を。


「私は失敗なんてしないよ。当然これからも。だって、その為の私だから」

 きっとこれは、自分にとって、とても大事な言葉。


 そんな考えを巡らせていると、楓月たちはいつの間にか東館と本館を繋ぐ渡り廊下の前に着いていた。

申し訳ないです。

原因はスランプになっちゃったことと、リアルが忙しすぎて、身動きができないような状態になってたことにあります…。

楽しみにしていた皆さま、改めて申し訳ないです。

楽しみになんて誰がするかよ!って方も、(文章力、構成力の無さ)に申し訳ないです。

次も投稿するつもりなので、気長に待ってもらえればです。

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