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機械仕掛けの幻想  作者: 若田悠成
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存在意義

「いつまで精神統一してんすか。先輩」

「ん?」

 目を開けると、鉄製の無骨なデザインの壁面、壁に沿うように作られた長椅子、そして声色が表す通りの生意気さと天才性を併せ持つ、ボーイッシュな髪形の後輩──八雲由香の顔が息が触れ合うくらい近くに映った。

 先天的な戦闘センスを軍に買われ、まだ小さい一三歳の頃からこの仕事に就いている彼女も昨日、一六歳になったことを思い出し、通りで前よりも大人びて見える訳だと、楓月はぼんやり考える。

「まさかの雑念だらけっすかー? 恋愛系の考え事じゃないでしょうねー。下手に死亡フラグ立てられて、盾が減るのは勘弁です」

「それ絶対、先輩に対して使う言葉じゃないよな。せめて前衛とか攪乱役って表現しろよ」

「えー、またもや自分って変な子っすかー? 嫌ですよ。普通が一番。仲間外れにしないでくださいよー」

「安心しろ。もう、この班に普通なんて言葉は時代遅れだから。頼むから俺がかつて見た日常系への憧れの姿をもう一度思い描かせてくれよ。何でこうなった」

 由香は、楓月が起きたことを確認すると、向かい側の席に座りなおす。

 現在、彼女は自分流のお洒落によって改造された軍服を着ていた。楓月も同じく、由香によって改造の施された軍服を着ており、これが作戦開始一〇分前の状況ということに楓月は苦笑する。

 本当は、支給された戦闘服もあるのだが、可愛くない、動きにくいなどの理由から大変不評を買い、楓月の班では実用化に至っていない。

 そう。ここは輸送防護車の後部座席。楓月のいる部隊──チーム・マンティスの制圧作戦開始までの待機場所だった。

 暗殺、制圧などを専門にする楓月の班は、軍の中でも特殊な立場におり、よってアルファ、ブラボーなどの公式名称を与えられず、昆虫の暗殺者カマキリの意味を持つマンティスを班のコードネームとして与えられている。

 世界に侵略者──プランダラーが表れて以降、国家間の戦争は驚異の減少率を見せ、軍は本来の意味を無くし、逆にプランダラーを神格化するなどしてテロをたびたび起こす新興宗教などの対処にあたる制圧部隊、暗殺部隊などが増加の一途を辿った。楓月の班の実績は、現在、全国の暗殺部隊の約九〇隊中、三位。上位に食い込んでいるおかげか規則はかなり緩く済んでおり、よって今の状況の様な、多少の勝手は黙認されている。

「はーい。そこまでー。二人とも色気づいてないで早く配置に着きなさい。作戦一〇分前よ。上層部から叱られるのは誰だって嫌でしょ?」

「はい!? なんでスナイパーであるあんたがここに居るんです、みさき姉! 人に物言うときは、我が振り見てからにしようぜ!? はぁ……、きっと今頃、隊長が悲鳴上げてるよ……」

「珍しく先輩に完全同意でーす、みさき姉。早く配置に着いてください。私たちは配置地点まで距離がほぼ無いからまだいいとしても、スナイパーはそうともいかないでしょー」

 楓月は、唐突に声をかけられたことに対する驚愕とも呆れとも取れる、悲鳴を上げた。

 その叫びを聞いて満足したのか、みさき姉こと、今川美咲は楓月の左正面に立つと、出撃準備確認をし始める。

「とは言ってもねぇー……。何故か隼人君が狙撃ポイントに居ないんだもん。隼人君は隊長だよね? 隊長が狙撃ポイントに居なくていいの!? そしたらずっとイチャイチャできるのに」

「いや、隼人隊長の狙撃ポイントじゃなくて、自分の狙撃ポイント行けよ! ていうかさ、みさき姉、まだ隊長と付き合ってるって訳じゃねーだろ。好きなのは分かるけど、程々にしてやってくれ……。隊長の心労が、もう並大抵の言葉じゃ表せなくなってるからさ。あの人と二人の時、両者、酒が年齢的に飲めないのに、どれだけ飲みに誘われたことか……。激情の吐露が止まんないの。一本七時間コースだよ? あ、このままだと俺、死ぬわ」

「それなら、二歳年下の楓月より私を誘ってくれればよかったのにぃ。同い年のほうが話も合うのになぁ」

「そういうとこだよ」

 言葉にすることにより、自身の体験を本能的に理解し、同時に再実感した楓月は、これ以上被害を増さないと決意した。

 ──通りで途中から意識がないわけだ……。

「まぁ、弟たちに怒られたし、そろそろ狙撃ポイントに行くかなぁ。それじゃあね」

「それと、俺はあんたの弟になった覚えはないんだが。美咲さん」

「私は一人っ子だからね。生死を分かつ戦場の前くらい、憧れだった姉の気分を味わいたいのよ」

 その顔に表情らしき表情は無かった。

「……そうか。了解した」

 無表情。あの顔で言葉を発せられると、どんなくだらない言葉でも妙な説得力を持つ。きっと、それは「死ぬ寸前くらい」という、免罪符が出来るからなのだろう。

 そして、あの顔は、戦場に向かう瞬間のチーム・マンティス全員に共通する表情。

 世界を理解することを諦めた、社会を理解することを諦めた、人間を理解することを諦めた、そしてなによりも、敵を理解することを諦めた、圧倒的な人生においての敗北者の表情。エゴイズムを孕む唇と ニヒリズムを湛える眼差し。

 博愛だからこそ、全てを同程度に嫌う。全てを同程度に愛すからこそ、比較対象を失い、無価値に感じる。

 あれは、自らの正義は悪だと認識した上で、自身を否定した上で、その否定する自分すら肯定した者の表情。

「じゃあ、そろそろ行くか」

 宣言し、楓月は席を立つ。

 もう、そこに感情など残っていない。大事なものは置いてきたとでもいうように。

「先輩、また、武装はそれすか」

「ああ」

「物好きですね。こんな時代に太刀一本とナイフ十数本だけって。あとは……やっぱワイヤーっすか」

 準備完了。楓月は外に出る。続いた由香はアサルトライフルを計三丁持っていた。

「由香、アサルトライフルは?」

「大丈夫です。先輩の分も一丁ありますよ」

「すまん。いつも助かるよ」

「そう思ってもらってるなら、この作戦後にでも何か奢ってことにします」

「了解した」

 目の前に広がるのは広大な敷地を持つ高校。国立の代行者育成専門高校。

 囲いのコンクリートは午後の太陽に照り付けられ、嫌な光を発していた。

「そういえば、由香。お前、今回の作戦内容覚えてるか?」

 由香はこちらを不思議そうに見た後、淡々と口を開く。

 だが楓月にとって、その不思議そうな顔の出来る由香は、まだ眩しかった。

「何言ってんすか先輩。あれでしょー。侵略者の人間たちを傷つける方法を唯一持つ、代行者たちのこの学校が過激派プランダラー信仰教団の奴らに襲撃されたから、制圧すればいいんでしょ?」

「そうだ。あの「籠の外のカナリア」とかいう新興宗教団体に襲撃された高校を、制圧する。だけど、そこに一つ付け加えとけ」

 そう言って、由香の顔を正面から見据える。

 由香はしばらくの間呆然としていたが、何かを察しると舌打ちし目を逸らす。そこには、苦い顔が浮かんでいた。

「上層部からの命令だ。あそこにはもうすぐ前線派遣予定がある、代行者の中でも凄まじい力を持つ奴がいるらしい。だから、自分の命と引き換えにしたとしても守れ、と」

 由香は唇を噛んでいた。よく見れば、少し血が出ている。だが、そこに有る、分かりきった由香の気持ちを楓月は感じ取らない。

「そーですよね。自分たちってほんと、意味ないんすよね。評価されないんすよね。結果を得るための道具にしかならないから。直接的に、誰もが分かるように何かを救ってないから。だから自分たちに正当な評価は下らない。分かってます……。分かってますよ……。でも、それでもッ!」

 楓月は由香の頭を軽く撫でる。

 痛いほど同調出来た。その言葉のあとに続く言葉も知っていた。だが、楓月はその同情を心の奥底にしまい込む。この作戦が終わったときに、もう一度、「まとも」に戻るために。

「分かってるから。だから、俺はお前に先輩として命令するぞ由香。代行者たちを、自分が出来る範囲で守り切れ。出来る範囲で、だ。責任は俺が全部取ってやる」

 由香はまだ眩しい。ならばそれを守り抜き、自分たちが汚れ役を引き受ける。楓月は、由香が班に配属された当初に隊長、美咲と共に交わした約束を思い出す。

 自分は今、あの時の約束を、先輩としての役目を守れているだろうか。

「籠の外のカナリア……かぁ。かなりの皮肉が聞いた名前っすね。プランダラーは神の使者達だから、人間関係や社会というしがらみから解放してくれるし、味方することでしがらみが無くなる。これじゃ、ほんとに自分、籠の中の鳥じゃないっすか……。そんな状態で放し飼いにされても困るっすよ。あはは……」

「気分は晴れたか? じゃあ行くぞ、由香。出撃一分前だ」

「……了解」

 インカムを装着。

『あ、ようやく繋がった。遅いよー。由香、楓月』

『すみません。隼人隊長』

『すいません、隊長。自分のせいです。申し訳ありませんでした』

 楓月と由香が謝罪の意を表明すると、隼人は苦笑いを響かせる。

『そこまでの話じゃないって。大丈夫、大丈夫。それより、覚悟は整った?』

 当然の肯定。

 作戦開始まで、二〇秒前。

『じゃあ、いこーか。……殲滅だ』

 ……ゼロ。楓月たちは混沌渦巻く校舎へと走り出す。


すみません。遅れましたね…。

何故?

で、データが三回ぶっ飛んだです。

占い最下位の日は、無理しないようにしよう…(戒め)

次の投稿も、遅くなりそうです。

ご了承ください。

出来るだけ頑張りますので。

では。


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