諦めてます
上司×部下の恋愛物語です。
恋をした。
生まれて初めて知った胸のざわめきに驚いた。
景色がばかみたいに輝いて見えて、同時に自分のことが少しだけ好きになれたように思う。
「どうした、アホ面になってるぞ」
恋をした相手が、からかってくる。
悪戯っぽい目で見てくる彼が格好よくて、文句の一つも言えなかった。
「何でもないです。ほら、今日は早く帰らないとだめでしょう。お疲れ様でした、宮治さん!」
宮治輝。みやじてる。
私の上司で片想いの相手だ。
彼は、大切な奥さんの元へと帰っていく。家庭があるのだ。
その背中を見送るのが辛くないわけではないが、私はこの恋をしてから覚悟を決めたのだ。
「そばにいるだけでいいんです 」
彼が愛しているのは奥さんただ一人だ。私の入る隙なんてないし、そもそも仕事ができて優しく人望もある宮治さんが、わざわざ好き好んで私みたいなガサツで可愛さのかけらもない女を好きになることなんてないだろう。
だから、せめて。
毎日顔を合わせられる今の状況で満足するだけにとどめる。
絶対に叶うことのない恋は、辛くて、でもそれ以上に宮治さんが存在してくれるだけで幸せになれた。
それだけでいい。
本の少しだけ、宮治さんのいる世界に関われたならそれだけで。
私の呟きに気づかない宮治さんが好きだ。
今日は結婚記念日らしい。奥さんと待ち合わせをしているから急いでいたのだ。
ただ今夜の7時。
12月の夜は寒いが、きっとイルミネーションがきれいに見える。
駅前にあるホテルでディナーを食べるのだ。
どこの店がいいと思う? そう相談を受けたのが記憶に新しい。
去っていく背中から視線を反らして、頬を軽く叩く。
「あー、1日が終わったあ 」
白石紗知は、脱力して壁にもたれた。
未熟者ですが最後まで書ききりたいと思ってます。