死の舞踏 1
少女達は闘いに飢えていた。
特にここ最近ではその飢えが治りきらない状態までなるほどに。
今まで闘ってきた相手が弱かったわけではない。
中には名だたる戦士達が多くいた。
全てを斬って、斬って、斬って、斬り捨てた。
だが、それでも彼等では彼女達の渇きを満たすことはできない。
一時は潤うもののすぐにまた渇く、飢えてしまう。心の奥底でどうしても足りないと感じてしまう。
そして、少女達は何も目的がないまま、歩み続けた末に国一番の都市に辿り着く。
そこでも少女達の渇きを、飢えを満たしてくれるものはいない。
失望した、と言えば嘘になる。
何故なら、少女達はどこかで理解していたから。自分達が人々から『化け物』、『怪物』と呼ばれる類いであるということを。
だから今回もいなくて当然、そう自らを納得させた時だ。
少女達は一人の少年を目に映す。
この世界では珍しい黒目黒髪、ただそれだけの普通の少年。
だが、一目見た瞬間に少女達は本能的に理解していた。
少年の肉体が、存在が、心が、魂が、纏うモノに。
ソレは鬼の道へと至った者のみが纏うことを許されるモノ、人であることを捨てても得られるかどうか分からない。
それほど深く、昏く、ドス黒い何か。
少女達は生まれて初めて恐怖を覚え、
同時にこう思った。
この少年ならばもしかして、と。
「覚えておけ、俺の名前はーーーカムイだ」
カムイは自らの名を名乗ると柄に手を置き抜剣。
鈍い光を放ち愛剣がその姿を現す。
この剣に名前なんて高尚なものなんてなかったがカムイにとっては幾たびの危機を乗り越えた唯一無二の相棒だ。
「ふふっ、ふふふふふ。カムイお兄さんでいいかしら?今日は昨日よりずぅっと強い気配‥‥本気になってくれて嬉しぃわぁ」
「‥‥‥そうか」
エルゼが喜ぶ反面、カムイの表情は顔の上半部を覆う仮面から覗く瞳には何の感情もない。
代わりに放たれるのは昨日にはなかった剣気と殺気。
「そのゾクゾクするような殺気‥‥‥今すぐここで斬り合いたくなっちゃう」
エルゼはそう言ったが同時にこうも考えていた。
互いにこれからの舞踏会にもっと相応しい場所があるだろう、と。
「でも、ここじゃダメ。着いてきて」
エルゼはカムイに背を向けると、その膂力をもって跳躍、建物の上へとあがっていく。
「‥‥‥‥」
カムイはその様子を見つめながら同じように跳躍する。
カムイとしてもこの場で闘うのは好ましくない。
それにエルゼについて行けば、誰の邪魔も入らない場所を選びエルゼの様子を見る限り罠もないだろうと判断し、後へ続く。
いくつもの建物と建物の間を飛び越え、夜の街を駆け巡ると開けた場所に出た。
「ここは‥‥?」
周囲を見渡せば古びて錆び付きひび割れているもののかつては華やかに作られていたことが微かに分かる建造物。
ドーム状に作られてはいるが遮る物がないため月光で満たされたこの場所は一種の神聖を感じるものだ。
「ここは貴族制度があった時代に貴族によって作られた闘技場よ。そう、かつてここでは多くの人々が互いを賭けて闘い、栄光を手にし、そして華々しく散っていったの‥‥まさに私達の命を賭けた今宵の舞踏に相応しくないかしら?」
錆びた闘技場の中央、エルゼはクルリと一回りする
その姿は、儚き妖精。
しかし、その本性は悪魔のそれだ。
「互いの命‥‥‥さしずめ、死の舞踏会といったところか。いいだろう」
その言葉にエルゼは笑みを零す。
その笑顔は狂気に塗れた笑顔ではなく純粋に嬉しさを現しているように見える。
「私はエルゼ。魔剣を振るいし魔性にして一つの剣。行くわよカムイお兄さん」
一人はその飢えと渇きを満たすため魔性に狂いし剣とともに歩む剣。
「我が名はカムイ。かの『主』に仕える『鴉』の一羽、『虚無の仮面』。来い、エルゼ」
もう一人は過去を捨て仮面にて偽つわりの道を歩む者。
年齢、立場、想い、あらゆるものが違えどここに居るのは二人の剣士。
さぁ、互いに名乗り舞台は整った。
後はかつての戦士達のようにここで武を振るうのみ。
お互いに得物を構え、舞台の幕が切って落とされた。
まず先手を取ったのはエルゼ、ではなくカムイだ。
エルゼが距離を詰める前に自分から距離を失くし、手に持った剣を振り上げる。
「ーーシッ!」
エルゼの力任せの荒々しい一撃とは違い、カムイの放つのは一切の無駄を省かれ清廉された一刀。
破壊力、速度、全てに置いて昨日の比ではなく、太刀筋には一分の狂いもない、文字通り最高の一振り。
故に、反応が遅れエルゼは躱すことが出来ずに魔剣で受け止める。
「くぅっ!」
受け止めた腕に走る衝撃に思わず呻いてしまう。
しかし、カムイの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
受け止められた剣をすぐさま引いて次の攻撃へと移る。
「ーーハァッ!」
左斜め下から右肩にかけて逆袈裟斬りを放つ。
「ま、まだぁ!」
紙一重で左足を後ろに滑らせ、体を後ろに逸らすことで斬撃を無理矢理回避。
目の前をカムイの剣が通り、エルゼは冷や汗を流す。
太刀筋、体捌き、どれをとっても今まで闘ってきた相手とは格が違う。
ーーまるで、昨日とは別人のようだわ。
そう思いながらも当然だと思う。
何せ自分に生まれて初めて恐怖を感じさせた人物なのだ。
これでも、ほんの一部。
まだまだ先があるのだろう。
「ふふっ。これなら、どうっ!」
体を逸らした状態のまま反撃に出るため力任せに魔剣を振り上げる。
エルゼの一振りは暴虐の一撃。
当たれば体を打ち砕き、仮に防いだとしても得物ごと敵を吹き飛ばす。
「えっ?」
が、それは当てるべき敵がいてこその話。
エルゼが見た先には剣を振るうべき対象がいなかった。
気付いた時には遅かった。
「ーーフッ!」
背後に殺気を感じ、顔だけ振り向くエルゼの視界にはカムイの姿。
超人的な身体能力をもってしても視認すらできないその速度。
カムイは昨晩の一件から考えていた。
エルゼの一撃はカムイの実力でもまともに喰らえば命はない。
受け止めることは出来てもそれを繰り返せばこちらの剣が折れる。
ならばどうするのか?
ならば――反撃させなければいい。
これがカムイの出した結論。
エルゼが対応出来ない位の超速戦闘。
カムイの剣が上から下へと垂直に振り下ろされる。
「うっ!」
振り下ろされた刃は容易にエルゼの着ているゴシックドレスを裂き肌へと至る。
しかし、鳴るのは肉を斬り裂く音ではなく金属音。
昨晩の一戦でそれはカムイも承知の筈。
しかし、攻撃の手は緩めない。
垂直斬りから繋げて水平斬り、袈裟斬り、逆袈裟。
斬撃が通るたびに金属音が鳴り響く。
まさに怒涛の攻撃、斬撃の嵐。
何太刀浴びせたのか分からなくなった頃、胴に突きを放ちカムイはエルゼを吹き飛ばした。
「うあっ!」
吹き飛ばされて地面に体を何度も打ちつけながらようやく止まる。
エルゼのは体のあちこちに喰らった剣戟によってボロボロになり汚れたドレスの隙間から白銀の肌が見え隠れしていた。
「‥‥‥‥」
エルゼの体を無言で見つめる。
それはやましい目的ではなく、カムイには確かめたいことがあったため。
「‥‥うふふっ。カムイお兄さんはそんなに私の肌が見たかったの?」
あれほどの攻撃を受けながらも立ち上がるエルゼ。
しかし、カムイの表情には動揺は見られず、あくまで冷静だ。
「やっぱりそうだったのか」
エルゼを分析し終わったカムイはたった一言そう言った。
予想していた通りの結果を得られた、たったそれだけの言葉。
「何がやっぱりなのかしら?」
「お前の正体だ」
仮面から見える双眸がエルゼの視線と交差する。
「お前のその白銀の肌、それに超人的な身体能力。初めは魔剣の能力かと思ったがやはり違うーー」
「‥‥‥‥‥‥」
エルゼは黙ってカムイの話に耳を傾ける。鼻から彼女達に隠すつもりはない。
「お前の正体はーー」
まだ、二人の闘いは続きます。はい。
誤字、脱字、はたまたこれはどう?、ここはこうした方がいい、とかありましたら是非ともお願いいたします。
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