襲う影
「お兄さん、私達と遊びましょう?」
白いゴシックドレスの少女はそう言って笑う。
その表情は月の光に当てられ神秘かつ淫靡な空気、そして悍ましさを伴っていた。
「それは、ダンスかそれに準じたものへのお誘いかな?」
軽口を叩くカムイはさりげなく腕に抱くユリアを後ろへと下がらせる。
まず目に映るのは黒い輝きが凝縮したかに見える手に持つ剣。
その剣が放つのは殺気や闘志といった類ではなくもっとどす黒く昏いモノだ。
確実に目標対象の魔剣であることは間違いない。
「嫌ね、お兄さん。あまりレディを焦らすものではなくってよ。私の手に持つ魔剣が見えるでしょう?」
「まさか、いきなり本腰にあうなんて、ね」
白銀の少女の言葉が示すのは少女のいう遊び、即ち殺し合い。
ならばこの後の展開もまた必然と言えた。
「危ないから。ユリアは下がっていてくれ」
「は、はい‥‥」
ユリアは目の前の少女が放つ悍ましさに当てられまともな思考ができないまま。
このままだと危険と判断したカムイは彼女を下がらせ自らの剣を引き抜く。
途端にカムイから放たれる闘気、剣気。
少女は目の前の剣士から放たれる圧迫感にまるで大好物を与えらた子供のように笑みをこぼした。
「あはっ、やっぱり思った通り。お兄さんとぉっても強そう」
「それは‥‥とても光栄だね」
ジリ‥‥‥。
お互いの足音のみが場を支配する。
そして少女が闇夜を斬り裂くかのように、剣を軽く振り。
ーーーそれを合図を死闘が始まった。
「レーゼ!どう?楽しい?楽しいね!」
魔剣に話しかけるように叫びながら駆ける翔ける疾走る。
少女が翔け抜ける先にいるのは剣を構え佇む黒髪の少年カムイ。
先手は禍々しき剣を持つ少女。
一瞬で彼らにあった距離を詰める。
「あはっ。あはは、あはははは」
狂ったように剣を振るう。
技術も知識もなにもあったものではない単純かつ稚拙の一言に尽きる一撃。
しかし、単純、稚拙なればこそ他の余計な物を削ぎ落とした斬撃は一撃にして必殺。
少女の膂力ではありえない速度と圧倒的な破壊力。
それはただ疾く、そして重い。
並の戦士、否、達人であっても不可視の攻撃。
どのような者であれこれで大抵の者は斬り伏せてきた。
本来ならばこの一撃で終わりだった。
本来ならば。
「ーーーはっ!」
だが、カムイならばこの必殺の斬撃を受け止めることができた。
あのエルヴェルトに鍛えられたカムイならば。
また再び甲高い金属音。
黒き魔剣と愛剣がぶつかり合った音。
少女が放つ必殺防がれた証明。
そのまま叩きこまれた勢いを利用してカムイは少女に詰められた距離を再び引き離した。
「驚いたわ。お兄さん、強いとは思ったけどまさか本当にここまでなんて‥‥」
「それはこっちも同じだよ。そのスピードにパワー。とても君くらいの年の女の子が出せる者じゃない。それも剣の力なのかな?」
「知りたいの?でもそれはヒ・ミ・ツ。でも、どうしても知りたいなら‥。」
カムイの問いに少女は怪しく微笑み再び構える。
「戦いの中で知れ、ってことか」
カムイむ自らの愛剣を再び構える。
ーー今度はこちらからだ。
そう呟いて先程目の前の少女がやってみせたように一瞬で距離を詰め、愛剣で右上から左下、袈裟斬りを放つ。
「‥‥‥キャハハハ!」
少女は袈裟斬りを左足を引いて斜めに身体を逸らすことですんでのところで回避する。紙一重、ほんの少しでも遅れれば真っ二つのタイミングで、だ。
文字通り狂っていなければできない芸統だ。
ただ、これだけではカムイも終わらない。
避けられたのを確認すると同時に勢いを利用して回転し、再び少女に剣戟を見舞う。
遠心力を利用したそれは先程のものよりもスピードもパワーも上。
しかも少女は体制を崩したまま、確実に避けられない。
案の定、その剣戟は少女の胴に入り少女の身体を引き裂く。
‥‥‥はずだった。
「っ!」
なぜか、剣を叩きこまれた少女の身体から金属音。
「‥‥うっ」
叩きこまれた衝撃で少女も多少呻くがそれだけ。
ーーありえない。
今の攻撃は殺すことを覚悟した確実に仕留める一撃。
本来ならば胴体が斬られ身体が二つに分断されるはず。
だが、未だ少女の身体は繋がっているところか血すらもでていない。
「あはっ、酷いわお兄さん‥‥殺そうとするなんて‥‥‥」
斬られ地に伏した少女はユラユラと起き上がる。
今しがた殺されかけていたのにその表情はとても嬉しそうだ。
「なんで生きてる?君は、何者だ」
「ふふふ」
カムイの問いにも少女はただ不気味に笑うのみ。
その時、月ね光に当てられて少女のゴシックドレスの裂け目部分から斬られた部分が見えた。
「なん‥‥だって」
言葉が詰まるカムイ。
当然だろう、少女にはあるべき肌がなく代わりに銀色の鉄が見えたからだ。
鉄を仕込んでいたわけではない。
間違いなく少女の肌そのものが白銀で出来ていた。
その光景に思わず思考を奪われたカムイ。
しかし、それは戦闘時において致命的なスキ。
「余所見は駄目よ、お兄さん?」
カムイの目の前に現れた不気味な少女。
その手には魔剣が握られている。
「しまっ‥‥」
しまった、そう言おうとして言えない。
少女との距離はほんの僅か。
反応しようにも反応できない。
少女の膂力では今度は自分が二つに斬り割かれる番だ。
ーーあれをやるしか‥‥‥!
カムイが意を決した時だった
不意に響く、声。
「願うは盾、闇を払う光‥‥聖なる力よ今こそ彼の者を守りたまえ!レジストリフレクション」
声が響き渡ると同時、カムイと少女の間に薄い光でできた壁のようなものが現れた。
「‥‥‥うぁっ!」
少女は光の壁に触れると何かに弾かれりように吹き飛ばされる。
「‥‥‥なに、あなた」
吹き飛ばされた先で少女が憎悪を浮かべて見据える先にいたのは震えながらも何とか立ち上がっているユリアの姿。
「わ、私だって‥‥‥戦えます‥‥‥っ!」
今にも殺されてしまいそうな眼光に当てらながらも自らの心に、瞳に、闘志を燃やしてそう言い切る。
自分は魔法を使う冒険者。
不器用だがカムイのサポート位はできるはずだ、そう思っての行動だった。
がしかし、健気な少女にとってその思いは完全に悪手だった。
「あなた‥‥邪魔をするのね。弱そうだからほうっておいたけど‥‥そう。そうなのね。謝るなら許してあげる。でも謝らないで邪魔するなら、貴方は‥‥殺すわ」
今度は眼光だけでなく明確な殺気。
それは確実にユリアの息の根を止めるという意思に他ならない。
「ひうっ‥‥」
今更ながらに自分のしたことが少女を完全に怒らせてしまったことに気付く。
だか、すでに出遅れ。
少女の目標はユリア自身になってしまった。
少女の膂力をもってすれば一瞬だ。
魔法を詠唱するまでもなくこの身体はあの禍々しい刃の餌食になるだろう。
ただ、それでも意思は曲げない。
曲げたくない。
「私は、謝りませんっ」
「そう。なら死ね」
目の前に現れる少女。
剣を構え振り下ろす瞬間すら見えない。
来たるべき未来に向け目を瞑る。
が代わりに聞こえたのは少女の声。
「ぐぅっ」
閉じた目を開くと再び地に伏した少女とカムイの姿。
「余所見は駄目、なんだろ?」
お返しだと言わんばかりに口元を吊り上げるカムイの姿。
その姿を見てユリアは意識を失った。
「ふふっ、そうだったわ」
そういうがいなや、大きく距離を取り三角跳びの要領で建物の屋根の上へと駆け上がる。
「私としたことが怒りに我を忘れてしまったわ。今夜は邪魔が入ったから続きはまた今度。あと最後に私の名前はエルゼ。お兄さんの名前を知りたいのだけれど」
「カイムだ」
カムイが教えたねはあくまで偽名だ。
本名は決して晒さない。
仮面をつけてない自分はカイムだ。
「カイム、カイムお兄さんね。覚えたわ。次に会う時は2人きり。お兄さんも本気でお願いね?」
その言葉を最後にはエルゼと名乗る少女は闇夜に紛れ消えていく。
不穏な前振りを残して。
「次に‥‥か。本気じゃないってバレてたのか、参ったな」
困り顔のカイムの先には安心したように眠るユリア。
「この子に助けられるなんてなぁ」
そう呟いてユリアを抱え上げる。
カイムの表情にはエルゼとは違う、優しい笑みが何故か浮かべられていたのだった。
あけおめことよろです( ̄Д ̄)ノ
今作で初めてのバトルシーンなんで、ああしたら?とか、こうしたら?なんてアドバイスあれば是非ともお願い致す( ̄^ ̄)ゞ




