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仮面と少女の想い、影

人斬り魔。

それはこの世界の噂、というよりも御伽噺のようになってしまった話に出てくる名前だ。

内容は地方によって少しの違いはあるものの大部分は変わらずよくある怪談のようなもので、かつて呪われた剣に見初められた一人の男が次々と人を襲い、斬り殺し、身体をバラバラにしていくといったもの。

実際に存在した人物の話だったそうが時が経つにつれて次第に風化し今では親が子にいい聞かせる時に使われるようになってしまっていた。


「ーー人斬り魔か。一応、有名だから知ってるよ。でも、それが何と関係が?」


「いえ、それがですね。最近、出るんですよ王都に人斬り魔が」


「王都に人斬り魔が、ねぇ」


「はい」


カムイがユリアに詳しく話を聞いていく。

事件はなんでもここ一カ月程度、王都で殺人が頻繁に起きているらしい。

時間帯は夜。斬り殺された者に共通点はなし。明らかに常軌を逸した力によって殺されており犯人は捕まらず。

王都の住民はそんな犯人を指してこう読んだそうだ。

ーー現代に甦った人斬り魔、と。


「さしずめ、異世界版切り裂きジャック、といったところかな」


ユリアの話はきいてカムイは前世で有名な事件を思い出した。

カムイの言葉に首を傾げるユリア。


「いせかい?キリサキ?ジャック?」


「うん。俺の知ってる昔話の中に切り裂きジャックっていうのがあってね。そっちの方が似てる、と思ってね」


カムイの話を聞く彼女は相変わらず疑問の表情だ。

前世ではなかなか有名な話ではあったけどさすがに異世界の人間じゃ知らないか。

そう思うとやはり異世界にきたんだなぁと思うカムイだった。


「キリサキジャック‥‥ですか?王国だと聞かない話です。カイムさんの故郷の話なんですねっ」


故郷という言葉に頭の中で思い浮かべれのは元いた世界では三年前まで自分がいた村だ。

自分が生まれ変わって暮らしていた場所。


「故郷‥‥故郷か。まぁ、そうなるかな」


「へぇー。そういえばカイムさんって黒かなんで気になってたんですけど、ヤマトの生まれなんですか?」


「ああ、ちょっと違うかな。両親がヤマトの生まれで俺は帝国の生まれなんだ」


和の国ヤマト。

小国でありながら独自の文化を築いている国だ。場所は帝国の東に位置し、ヤマトの民は黒目黒髪が大半を占める。

偽装して黒髪にしているカムイはそう見えても仕方ないことだ。


「そうなんですか‥‥‥そうだっ、もう休憩も終わりにして行きませんかっ?」


「ん?ああ、そうしようか」


ユリアはまるで何かを隠すように提案すする。

彼女の言葉に外を見ると日がだいぶ落ちてきている。

少しだけ見えたユリアの暗い表情が気になるカイムだったが自分は任務にきたことを考えると早く動くに越したことはない。ユリアの提案に乗ることにした。








店を出ると外を出歩く人々は店の中と違って多い。

まるで人斬り魔などいなようだ。

そう思うカムイだがユリアに尋ねたところ


「これでも人が少ない方なんですから。本当なら道も通れな位くらいにいっぱいいるんです」


とドヤ顔をされながら言われた。

なぜ、ドヤ顔をしていたのかはわからないが。


とりあえず二人であちこちを見て周る。


「ここは王都でも有名な鍛冶屋なんですよ。大抵の高ランク冒険者や騎士の方々はここで剣を作るんです」


「今度、俺も作って貰いたいな」


それは有名な鍛冶屋であったり

‥‥‥‥‥。




「ここは王族御用達の魔道具店です。戦いに関係ない魔道具も作ってたりしてて、ちょっと高いですけど美容に効果的って噂なんですよっ!」


「へ、へぇ。随分凄いんだなぁ。というか少し落ち着こうか」


大きな魔道具店であったり


‥‥‥‥‥。




「ここは皆知っての通り、王城です!」


「さすがに目の前で改めて見ると立派なものだ」



王都の中心に建つ城だったりした


‥‥‥‥‥。







「最後に、ここが王国一大きい冒険者ギルドです」


もう、日も暮れる頃。

最後に案内されたのは冒険者ギルドだった。

カムイの知る冒険者ギルドは建つ場所であったり国であったり違いによって規模や形も様々であったが王都の冒険者ギルドほど立派なものではなかった。


「さすがに王国の中心都市ともなると冒険者ギルドも豪勢に造られているね」


「そうなんですよ‥‥で、少し申し訳ないんですがカイムさんから頂いた魔石を失くさないうちに交換してきてもよろしいでしょうか‥‥?」


本当に申し訳なさそうに言うユリア。

カイムが出会った時に渡した魔石を案内をし終えた後に換金しようとしたのだろう。

カイムは気にしなかったが、彼女は彼女なりに考えがあったのだろう。


「ああ、ここで待ってるから行ってきていいよ」


「すみませんっ、すぐに戻りますので!」


ユリアは頭を下げて駆け出していく。

道の途中で躓いていく彼女カイムは笑って彼女を見送った。



「ふぅ」


ユリアが冒険者ギルドに入って行くのを確認してからカムイは溜息を吐いた。

空を見上げると星が度々見える。


「結構時間喰ったなぁ。まぁ、楽しかったけど」


自然とそんは言葉が口に出た。


「っといかんいかん。あくまで任務できているだけだ」


素で任務を忘れかけていた自分に気付き戒める。

一応、王都の案内を受けながら周囲の人々の話に耳を傾けていていたがこれといって魔剣に繋がりそうな情報はなかった。あるのはやはり人斬り魔に関する話ばかり。

奇跡的に助かった人がいたらしくその人斬り魔の見た目は小柄な少女だった、なんて話もあった。


「‥‥まさかね。ってまさか馬鹿馬鹿しい話に惑わされてる場合じゃない」


思い出した話を頭の中から追い出しながら首を振る。

だが、それ以外に特にこれといって有益な情報がないのも事実。


「少し、調べてみるか‥‥」


誰もいない空間にカムイの呟きが響いた‥‥‥。







しばらく待っていると手に麻袋を持ったユリアが戻ってくる。


「はぁ、はぁ、すみませんお待たせしました‥‥」


「そんなに待ってないから平気だよ。それよりもちゃんと替えられた?」


「はいっ、カイムさんのおかげ様で。なんでもあの中に群れの中心魔物が混じっていたみたいで沢山のお金になりました!でも、そのせいでギルドの人に『どうしたんだこれはっ!』って色々、聞かれて待たされてしまったんですけど。その、私って弱い冒険者なんで」


「ははっ、そうだったんだ。それなら良かった」


麻袋を持ち上げて苦笑いするユリアに思わず笑みを浮かべるカムイ。

彼女の話を聞く限り、あの中に少しばかり強い魔物がいたらしい。

それよりもカムイは彼女が冒険者ということにも少し驚いていた。

ユリアの格好は少しばかりヨレヨレだが貴族かそれに準ずるものを感じる格好だ。ユリア自身が美しい顔立ちをしていたのもあって、てっきりどこかの商家の娘だと思っていたのだった。


「本当にありがとうございます。それで、相談なんですけどーー」


しかし、あえてそのことには触れないで彼女と会話するカムイ。

ユリアが冒険者をしているのには理由がある、そう思っているカムイだがそれを問う理由がない。

それを聞くことはユリアに一歩踏み出す行為だ。自分は仮面を被り偽る存在、存在しない者。

彼女の悩みは別の人間が聞くべき、そう判断してのことだった。


そして、会話の中で今夜泊まる宿を尋ねた所、ユリアの泊まっている宿を勧めらたのでそこに向かうことにした。





月に照らされた道をカムイとユリアは歩いていく。

人斬り魔のせいか辺りを歩く人影はない。

なぜか、あれから冒険者ギルドを出てから会話がなく。

自然と辺りを静寂を包みこんでいた。


「つ、月が綺麗ですね」


「ああ、そうだね」


‥‥‥‥‥。

会話がまた途絶える。

そのまま黙って歩いて数分。

不意にユリアが口を開いた。


「何も、聞かないんですねカイムさん」


「うん?何を?」


カムイはあらかた予想は出来たがわざとらしさを感じならがらもとぼけた。


「その、私のことです。こんな格好しててなんで冒険者やってるんだ、とか」


ユリアはカムイのとぼけにも特に気にした様子もなく言葉を続ける。


「私ってこう見えて昔は裕福な商家の娘だったんです」


「‥‥‥‥」


カムイはユリアの言葉に沈黙しながらただ静かに聞いていた。


「でも、お父さんとお母さんとが死んで一人になってしまって‥‥けど生きなきゃって思って運動苦手だから魔法覚えて冒険者になって、って急になに言ってるんですかね私。迷惑、ですよね。えへへ‥‥‥」


ユリアの表情は闇に隠れてよく見えないがカムイには彼女の笑いに寂しさを確かに感じていた。


「別に大丈夫‥‥でも、なんでそんな話を俺に」


「カイムさんって私の兄さんに似てるんです。話し方とか優しい所とか。‥‥だから‥‥‥」


その言葉を最後に再び静寂が訪れる。


「じ、じゃあ!宿に向かいましょうかっ!」


その空気を変えようとユリアは声を出してカムイの先を行こうと足を進める。


カムイはその場から立ち止まったまま動かない。


ユリアがカムイに近づいた時だった。


「‥‥‥‥え」


ユリアの腕を引きカムイはユリアを抱きしめ、ユリアはカムイに抱きしめらた。


「ど、どうしたんですかっ?」


「‥‥‥‥」


カムイは変わらず何も喋らない。


「あ、あう‥‥」


ユリアは赤面し、カムイに身を任せた時ーー。


「危ないっ」


不意になる金属音。


「え、え?」


突然の事態に思考が追いつかないユリア。ユリアがカムイを見上げるとカムイは道の先から目を逸らさず睨みつけていた。


「お前は誰だ?」


ユリアの知る声とは違うカムイの冷たい声。声に込められていたのは明確な敵意。


隠れていた月が雲から出て辺りを照らす。


ユリアの目に映るのは白銀の髪を肩口で切り揃え、白いゴシックドレスに身を包んだ小柄な少女。

しかし、その手には少女の格好とは正反対の黒い水晶のような刃の剣。




少女は薄く笑うとこういった。





「お兄さん、私達と遊びましょう?」



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