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王都ライテル

ーー少しばかり面倒なことになったのかもしれない


そう思う理由は一つ。

つい先刻まで、一人で任務に向かっていたカムイだったが今は隣に人影があることだ。


「えへへ、カイムさん‥‥カイムさんですか‥‥」


「あー、うん。まぁ、そうだけど」


カムイの文字の順列を変えてカイム。

単純かもしれないが一応、任務上の偽名ではある。

ユリアという名乗る少女にも当然、偽名の方を名乗ったカムイだったが、嬉しそうにカムイの名前を呼ぶ彼女の表情を見るといささかこちらの方が罪悪感を覚えて思わず顔が引きつってしまう。


「どうしたんですか?カイムさん」


「いや、別になんでもない。それより、もうすぐ王都だけど。本当に無理に案内しなくても大丈夫だよ?」


「いえっ、私がやらせて欲しいんです!こう見えても王都については詳しいんですからっ!それとも‥‥やっぱり迷惑ですか‥‥?」


「そんなことないよ。是非とも‥‥頼むよ。うん」


「はいっ」


カムイの言葉にまた嬉しそうな表情で張り切るユリア。


ーーつくづく俺は甘い人間だよ。


カムイは自らをそう思わずにはいられない。


これもいつものことだ。


長期に渡る任務で人との接触は避けられないものだとしてもあまり不用意に他人を近づけるものではない。

仮に近いてくる人間がいたとしても最悪、斬って殺してしまえばいい。見捨ててしまえばいい。

だがどうしてもカムイにはそれが出来なかった。

それが、自分の前世の記憶のせいなのか、この世界に来てエルヴェルトに救われたからかは定かではない。

罪無き人が命の危機に瀕しているならできることなら助けたいと思う、殺生は好まない。

この考えは組織に所属する人間としてはあまり褒めらたものではない。

現に、『鴉』の中では自分に近づく人間は全て近づけさせない、または排除しようと考えている人間もいる。

『主』は基本的に無闇な殺生は好まないため抑えられてはいるのだが。


「はぁ‥‥‥」


カムイは空を見上げ今日何度目か分からない溜息をつく。


「ど、どうしました?やっぱり旅のお疲れが⁉︎このまま一旦、宿へ案内しましょうか?」


「大丈夫、平気だから。とりあえず王都内を全部見ておきたいんだ」


そう言ったカムイの目の前には大きな門とレフェリア王国を象徴する剣の紋章の旗。

王国軍の制服を着た騎士達。


ユリアはカムイの前に出て振り返り、彼女の茶色のサイドテールが揺れた。


「ようこそっ、王都ライテルへ!」



王都ライテル。

紆余曲折があったが遂に到着したのだった。








王国軍の警備に軽い身体検査と身分証明を行って王都に入る。

当然、偽装は完璧だ。


「意外とあっさり入れましたねカイムさん」


「ん?まぁ、そうだね。というか入れないと思ってたの?」


「はい。大抵の人はあれに乗ってきますから。それでカイムさんも旅の人かなって思ったんです。旅の人ってあまり自分の身分証明できる人が、その、いないかので」


喋りながらユリアが指を指す。

その方向に目を向けると一段の列車があった。


魔導制御列車。


この世界に存在する主な移動手段の一つ。

名前の通り列車だ。


数十年前。

天才科学者ヘルナンド・R・ルグライトによって設計し作られたこの世界の技術力を遥かに超えた代物だ。

動力源は魔物の死骸から生み出される魔石から魔力を抽出して動かしている。

線路は王国全土というわけではないが大抵の都市には繋がっていて、王国民はこれを使って移動をする。

使わないのは金がない旅人か、国境が関係ない冒険者しかいないだろう。

設計された魔導制御列車は三台しかなく、各三大国家が所有している。

現在、ヘルナンド・R・ルグライトは行方を眩ましており、あらゆる勢力が探している。が、見つかる気配はない。

彼が一体、何を考えて創り出し、姿を隠したのか定かではないが個人的に気になるところではあった。


「なるほどね。そう思うのも無理はないか。まぁ、こうして入れたわけだし案内お願いするね」


こういう場合は手早く終わらせるに限る。

そう判断しユリアに案内を促すが‥‥


ーーグゥ。


何とも言えない気の抜ける音。

赤面するユリア。

時間もだいたい昼過ぎ。


「‥‥その前にお昼にしようかな」


「‥‥‥はい」










「すみません。このリゾットとスープを。ええ、二つずつでお願いします」


気で作られたカウンター前に座って注文。

ライテルに着いてから数分後。

カムイはユリアが紹介した食事処に入っていた。

名は銀庭亭。


ユリア曰く、値段も高いわけでも低いわけでもなく味も良い。

ただ、立地があまり良くなく知る人ぞ知る隠れスポットらしい。

だからなのか、昼食時だというのにちらほらと人がいるだけだった。


しばらく待つと注文した品が運ばれてくる。

湯気がたっていて食欲をそそる匂いがした。配られたスプーンでスープを一口。


「‥‥‥うまい」


「お口にあったならよかったです」


そういってユリアもスープに口をつける。


「うん、おいしい」


一言感想を述べて二口目に移行するユリア。

そして、その後は二人共会話なく黙々と食べていった。






「ふぅ。結構食べたな」


「はい。ごちそうまでした」


手にとっていたスプーンを置いて一休みをする。

目の前には空の皿。

思わず任務そっちぬけで夢中になるくらいには美味しい料理であった。


「ここの料理は美味しいし、人も多くない。まさに隠れスポットって感じだね」


カムイが辺りを見渡すとちらほらといた客も今はカムイ達以外はいなくなっている。

こんな客足で大丈夫なのかと心配になるくらいだ。


「いえ、本当ならもう少し賑やかなんですが今はあの事件があったので‥‥」


「事件?」


「あっ、そういえば知らないですよね!すみません!」


「それは大丈夫だよ。それよりもその事件って?」


カムイの問いにしばし黙るユリア。

周囲を少し見渡して誰もいない事を確認すると恐る恐る口を開いた。





「人斬り魔って聞いたことありますか?」

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