主
ただひたすら暗い空間を歩き続けると一筋の光が見える。
その光へと仮面と青年向かって進むと大きな見覚えのある広間へとたどり着いた。
『蓮天城』回路の間。
「ふぅ‥‥」
広間着くと仮面の男が溜息を吐きながら早々にその仮面を外す。
その仮面の中から現れたのは一人の少年であった。
「今日の任務はなかなか大変だったなカムイ」
「笑いごとじゃないですよ、エルさん。いくら小国とはいえ一国の騎士団を相手しろってどんな無茶振りですか‥‥」
「ふっ、別にいいじゃないか。現にその無茶を傷一つ付けずにやってのけているんだからな」
「まぁ‥‥そうですけど」
仮面の男、もとい仮面の少年の名はカムイ。そして、銀髪の青年の名はエルヴェルトといった。
彼らの共通点は一つ。とある組織に属していること。
名は八咫烏。
巷では結社であったり鴉と呼ばれている比較的小規模な組織である。
しかし、小規模とはいえそれは構成人数の話。
今、二人がいる広間を見てもその大きさは一目瞭然。人数とは裏腹にその力が伺える。
二人がそうして広間で暫く話をしていると侍女の格好をした一人の女性が歩いて来る。
言うまでもなくこの女性も組織の構成員である。
「お帰りなさいませエルヴェルト様、カムイ様。任務お帰りの所、大変申し訳ございませんがクレロード様より言伝が。謁見の間にて『主』がお二人をお待ちしております。お急ぎを、とのことです」
「『主』が?何の用だろう?」
「大方、任務の報告をしろということだろうな。わかったすぐに向かおう」
侍女は二人に一連すると部屋を出て行く。
カムイとエルヴェルトもそれに続くように部屋を後にした。
結社八咫烏。
その活動目的はその構成員でさえ詳しく
知っているのは極少数のみ。
ただ、一つ全員が分かっていることは『主』と呼ばれる組織のトップの命令で動くということ。そして、組織の実働メンバーは一人一人が小国の騎士団などに匹敵しうる戦力を持っていることだ。
そして、カムイとエルヴェルトが呼ばれた謁見の間。
『蓮天城』と言う名の通り巨大な城であるこの拠点の最上階に位置し『主』と唯一対話することが可能な部屋である。
その性質上、任務の報告などがない限りは普段は立ち入り禁止となっている。
ある人物を除いて。
「よく来ましたね。エル、カムイ。此度の任務、お疲れ様でした」
謁見の間に入るなり傅くカムイとエルヴェルトに声が掛けられる。
それは彼らの『主』の声であった。
その姿こそ白いヴェールに包まれて見えないものの間違いはなかった。
そしてその主の隣に立つ人物。
ウェーブがかかった純白の髪にに白い鎧。
すれ違えば、振り返らずにはいられないほど綺麗な女性‥‥で、あるが纏うものは数多の死地を潜り抜けた猛者のそれであった。
『超越者』クレロード。
結社の名実共に結社最強のNo.2であり
『主』の右腕としても結社内で伝わる人物である。
そしていつもこの人物を見るたびにカムイはこう思うのだ。
ーー相変わらず凄く怖い、と。
「ありがたきお言葉。ですが、全ては我らが『主』のため。この程度の任務など負担にもなりません」
だからだろうか、さきほどまで文句を言っていた人間とは思えない発言である。
「カムイの言う通りです、『主』。これも私達の望んだことですので」
カムイの言葉にエルヴェルトも同意する。
「ふふっ。そう言って頂けるとこちらとしても気が柔らぎます。して、任務の報告をして貰えますか?」
「はっ。此度の任務目標である『災禍の杖』は無事確保。死者はゼロ」
『主』に報告をしながらエルヴェルトは先程の任務で持っていた杖を差し出す。
「クレロード」
「かしこまりました」
すると今まで静寂を貫いていたクレロードがエルヴェルトの杖を受け取り『主』の元へ持っていった。
「ありがとう、クレロード」
「もったいなきお言葉」
クレロードは『主』に一礼すると再び元の位置へと戻る。
「両名共改めて任務遂行、お疲れ様でした。今後については後日にまた。今日はゆっくりと身体を休めて下さい」
「「はっ」」
こうして、カムイとエルヴェルトは謁見の間を出て行った。
「ああ、緊張感した」
「ふっ、『主』の前だ。仕方ないことだろう」
謁見の間を出ると溜息を吐くカムイ。
今日は溜息ばかりだと思ってしまう。
「今日はこれからどうするんだ?」
「とりあえず自室に帰って寝ようかと」
『蓮天城』には各メンバー全員に一部屋ずつ部屋がある。
カムイらさすがに一国の騎士団を相手にして身体も疲れていたので早々に寝ようと思っていたのだ。
「そうか、夕食に誘おうかと思っていたんだが疲れている身体を無理に動かせば今後に響く。これはまたの機会にしよう」
「あ、すみませんエルさん」
「なに、気にするな」
そう言うとエルヴェルトは手を振りながら去っていく。
「疲れた‥‥早く戻ろう」
カムイはふらふらしながら自室へと戻っていった。




