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死の舞踏 3

「がっ」


背中に感じる鋭い痛みに声を上げる。

黒のコートには大きな裂け目が出来、そこから溢れるように血が滴り落ちてくる。


千刃剣戟結界。

周囲に結界を張り、その範囲内ならば相手を如何様にも斬り刻むことができる凶悪なことこのうえない聖剣の能力。

その上、斬られる毎に敵の能力を大幅に低下させるというおまけ付き。

カムイは防戦一方だった。


「もう諦めたらどうでしょう?カムイ様。傷も増えて、当初の身体能力よりもだいぶ落ちてしまっているご様子ですし。これ以上は無意味だと思うのですが」


ボロボロになったカムイにレーゼはおもちゃに興味を失なった子供のような表情で翼を形取る剣を向ける。


「生憎、お前達を回収するのが仕事だ。それを為すまで諦めるわけにはいかない」


もう、立つ力がないのにもかかわらずふらふらになりながら剣を支えに立ち上がる。正直なところカムイには『浄化の聖痕』による能力低下によって本来の実力を発揮できずにいる。

そこに加えて、目に見ず距離も関係なく襲いかかる無数の斬撃。

本来ならまだしも弱体化された現状では対応は不可能。


ここ最近では一番と言っていい久々の強敵。


他に戦う味方はおらず。唯一頼れるのは己のみ。


だが今の自分では勝てないことだけは分かっている。


ならば、やることはただ一つ。


リスクを覚悟で、全力を、死力を尽くすのみだ。


カムイはふと目を閉じる。

イメージするのは透明な海。

魂の奥深く、カムイという存在の根底。水の中を潜るように先へ先へと向かっていく。


進んだ先に見えたのは一つの大きな扉。

あちこちに無数の鎖が巻かれたその扉はとてつもなく禍々しい。


穢外の扉。


カムイが『主』に話をしたところそう名付けられた。、この世の理から外れた穢れた扉。


久しぶりに扉へと触れる。


イメージなのだから感覚などない。

だが感じはずもないのに、不思議と冷たさを錯覚する。


扉は触れても意味はなく、開けて中へ入ることに意味がある。


そして今、鎖の何本かが音を立てて弾けカムイはその扉をゆっくりと開ける、少しだけ開けた扉の隙間からソレは溢れ出したーーー。







急に目を閉じたまま、それっきり動かず立ち尽くしたカムイにレーゼは戸惑いを覚える。


先程までは身に付けた実力を駆使してかろうじて戦い続けていた相手。

諦めたのだろうか。いや、先程の言動からはそんな気は一切感じなかった。

では、目の前の人物は一体敵を目の前にして何をしているのか。


ーー舐められたものですね。


動揺が消え、込み上がってくるのは怒り。半ば期待していたからこそその怒りはとても大きく、理不尽なものだ。


「ではいいでしょう。そのまま目を閉じたまま死ね」


丁寧な口調が崩れていることにも気付かず聖剣を頭上に掲げる。

初めて見た時の感覚はきっと気のせい、目の前の男は相応しくなかった。これを殺したら次はどこへ向かおう、そんなことを考えながら。


さようなら。

別れの思いを込めて振り下ろす。


聖剣がカムイの頭に触れる瞬間だった。


ーーバキッ。


「‥‥‥え」


何かが割れたような、無理矢理千切ったような音が聞こえて、レーゼは振り下ろそうとした腕を一旦止める。

注意深く辺りを探るが別段誰かがいる様子もなく、カムイも目の前に佇んだまま。気のせいだ、と割り切り前を向こうとしてレーゼは自分の手に聖剣がないことに気付いた。


「どう‥‥して?どこ、どこなの姉様?ああ、あんなところに」


情けない声を出しながら真後ろに姉が刺さっているのを発見する。そのことに安堵し、駆け寄ろうと足を踏み出すが足が動かない。


「なんですか、これは?」


足を見ると、黒い泥のような手が足を掴んでいる。

このままでは姉のもとへ行けないではないか、レーゼは手を外そうとして初めて理解する。ああ、聖剣が後ろに刺さっているのは自分の腕が斬り飛ばされたからだと。


ーー避けなさいっ、レーゼ!!


突き刺さった聖剣から姉の悲鳴が響き渡る。

無理ですよ、足が動かないんですから。

そう姉に言おうとして背後に恐怖を感じて声が出なくなった。

確かに聞こえたのだ、聞こえてしまったのだ。地獄からの呼び声のように不気味なものが。自分達が恐怖を覚えたものが。今、起きたかのように。


オハヨウ、と。










最果ての世界に泰然と構える城ーー蓮天城。

『鴉』の拠点として機能しているこの城には決して多いとは言えないがの結社の人間が少なからず暮らしている。

任務に赴いていていない者もいれば、城内にて休息を取っている者もいる。


そして、今。

後者部類に入る、城の長い廊下を歩く人物が一人。

名をエルヴェルト・アレンツァ。

銀の長髪に灰のコートを纏いし結社でも指折りの実力者と知られている彼はある目的を持ってとある部屋へと向かっていた。


「‥‥‥ん?あれは‥‥」


ふと、窓の外を見ると城の庭で遊ぶ子供の姿。

また、誰かが何かしらの事情を抱えた子供を連れて来たのだろう。

この結社では珍しくない光景だ。

きっかけは何にしろ、共通しているのは幼いながらも人の世で暮らせなくなった者だということ。

だというのに彼らの表情は皆、笑顔だ。


「ふっ」


エルヴェルトは子供達を見て思わず笑った。本当に懐かしい。

自分が拾ってきた時は彼もあんな感じだっただろうか。

三年という月日が流れ彼もすっかり成長した。


ーーバキッ。


何かが折れたような音を耳にする。

ガラスでも割れたのかと辺りを見渡すがそんかことはない。


「‥‥今のは‥‥いや、まさかな。っと、そろそろ行かなければ」


今しがた聞こえた不吉な音に考えこむが、すぐに我に返って止めていた歩みを進めはじためる。今度はどこにも目をくれずただ目的の場所へと。


しばらく歩くと簡単にそこに着いた。


蓮天城ーー謁見の間。


エルヴェルトを含む結社の首領にして頂点に立つ『主』の空間にして、不可侵の領域だ。


「エルヴェルトです」


多少の緊張はしていたが躊躇なく扉をノックする。


「入りなさい」


待つことなくすぐ、『主』の許可を得て中へと入る。


「何用ですか、エルヴェルト。貴方には任務はなかった筈ですが」


部屋に足を踏み入れた瞬間に向けられた言葉と部屋を埋め尽くす圧倒的な覇気。

それは『主』の隣に佇む純白の守護者から放たれたものだ。

本来ならば、この謁見の間は『主』から呼ばれること以外には入ることも、近付くことすら許されていない。

規律を重んじ、何より『主』に絶対の忠誠を誓った右腕であり、守護を任せられているクレロードからしてみればそれも当然のことなのをエルヴェルトは理解していた。


「『主』に一つお聞きしたいことがあって、無礼であることは承知でここへ参った次第」


「『主』にお聞きしたいこと、ですか。何か『主』に不満でも?」


更に強められる覇の風。

気を抜けばすぐさま気を失いかける。

だからこそエルヴェルトとしても引くことはできない。

跪きながらもハッキリとした意志を宿して『主』を見上げる。


「おやめなさい」


声が凛と部屋に響くと部屋を満たす重圧が収まる、いや正確には消されたのだ。『超越者』と呼ばれるクレロードすら従える『主』の力にエルヴェルトは戦慄する。

これが闇を羽ばたく鴉の主。結社の頂点。


「申し訳ございません。出過ぎた真似を致しました」


「構いません、クレロードも私を想ってのこと。エルヴェルトも許してあげてください。して、私に尋ねたいことがあると」


「はっ。此度の任務について『主』の意志をお聞きしたく」


『主』に窘められ瞳を閉じるクレロード。ここから先は干渉しないという意思表示。はなから彼女にエルヴェルトを害する気はないのは分かっていたこと。

彼女について一言詫びると『主』は本題へと入る。

その声は先程の凛としたものではなくいつも通りの慈愛を込もったものだ。


「先程の任務‥‥さしずめカムイのことでしょうか」


「はっ。今までカムイには必ず同行者かが付いていました。先日には私が、それ以外でも必ず実働メンバーが。ですが今回の任務には一人。更に魔剣回収だと」


「やはり心配ですか?彼のことが」


「‥‥‥‥」


『主』に問われエルヴェルトは気恥ずかしくなって黙した。

端的に言ってしまえばそう心配。

自分が直に剣を教えた弟子であり、数々の戦いを共に乗り越えた弟分が心配なだけだ。


「はい。魔剣ともなればカムイは己の持つ力を使うざるえない。カムイのあの力は強大かつ危険なのはご存知の筈。それを承知でカムイを一人で行かせた『主』のお考えが知りたい」


「‥‥‥‥‥」


『主』は黙してエルヴェルト耳を傾ける。何かを思案するように。


「『主』、貴方には何がお見えになっているのですか?」


それを最後に謁見の間が静まる。

エルヴェルトの意志は伝えた。

あとは『主』次第だ。


「‥‥私には今、一つの透明な星が見えます」


「星?」


「ええ。その星は透明であるが故に今にもすぐ側に潜む暗闇に溶けて消えてしまうほど儚く、銀の星を始めとした様々な星に支えられて存在できている。そして、その星の近付く蒼い星が一つ」


「この星は寂しさを表す蒼の輝きを放っています、この寂しさは透明である星にしか埋めることはできない。そして透明と蒼の星、互いが受け入れ、支えることが出来たならーー」


「ーー透明なる星は自ら輝きを放ち、闇を払う道標となるでしょう」


『主』はこの言葉を最後に締めくくった。それは一つの予言であり宣託。『主』の見ている世界。

透明な星がエルヴェルトの知る彼なら、自分は銀の星。

蒼の星が本当に存在するならば、きっとそれはーー。


「ふっ。どうやら、杞憂だったようだ。『主』、お手を煩わせ申し訳ない」


「いえ、貴方が心配になるのも当然のこと。お気になさらず」


エルヴェルトは一礼して『主』に背を向けると灰のコートを靡かせて謁見の間を後にする。


エルヴェルトがいつもカムイに言っている言葉。


『守りたい者を見つけろ』


もし、蒼き輝きがそうなのであれば。


きっとそれはーー


「カムイ、それはお前にとってかけがえのない者になるだろう」


ならば何も心配はない。

自分がいなくても必ず誰かが止めてくれる筈だ。

ならば遠慮せず、恐れず、その力を振るえ。きっとそれがカムイ、お前の光となるのだから。


エルヴェルトは笑った。

ホラーっぽくなってしまったような‥‥。

あと、エルさんは別にホ◯とかじゃないからねマジで。


あ、ご意見とご感想、常にお待ちしてます。

こうしたら?とかここはこうじゃない?的なのでもご遠慮なく。


( ´ ▽ ` )ノ

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