鴉と仮面
これはよくある物語の一つ。
一人の転生者の少年の物語。
少年は自らを偽る仮面を身に付け、世界を闊歩する。
自らの歩む道が正しいのかさえ分からずに。
ただがむしゃらに歩き続ける。
ーーーこの世界に来た意味を求めて。
「まぁ、こんなところか」
空には星が広がる時間にその人物は何かの山の上に腰を据えながら呟いた。
黒いコートに黒の仮面、声からして男性だろうか。
だが、男性にしろ女性にしろ、どっちにしたところで、怪しい人物には違いなかった。
「‥‥‥」
その黒コートの仮面は誰もいない虚空を見続ける。
いつもの風景。
身に付けた昏き仮面は夜空を見上げる。
彼の下には沢山の傷つき倒れた人々が作る山。
彼らは自分からこの国を守るべき人物達だった。
しかし、彼らはその役目を果たせないまま眠りに落ちていった者達だ。
中には高名な者もいたのだろうが、結局は皆等しく倒れ伏す。
暫くすると手に杖のような物を持った一人の青年が仮面の元へやってくる。
長く伸ばした銀髪を一本に纏め、腰には剣を携えた青年。
「すまない。少し手間取ってな。遅くなった」
「‥‥目的の物はどうでしたか?」
「ああ、なんとか手に入れた。そちらはどうだ?」
「‥‥大方は片付けました。ですが、数人取り逃がしてしまって」
青年は仮面の男の仲間であり信頼を置く人物だった。それは、仮面の奥から聞こえる言葉遣いからも明白だ。
申し訳なさそうな様子に対して、青年の顔には下に倒れている者達には何の反応もなく、むしろ仮面の者の言葉の方に驚いていた。
「珍しいな、お前が見逃すなんて」
「ええ、彼らどうやら腕の立つ方を用心棒に雇っていたみたいで時間を稼がれて、数人が応援を呼ぶために離脱を」
仮面は、先まで戦いに思いを馳せる。
地面に伏す人々の山に紛れてしまったものの、なかなかの手練れの武芸者だった。
今日に至るまであらゆる努力をしてきたのだろうが、自分たちには到底及ばないーーこれもいつものことだ。
「そうか。怪我もないようだし、このまま仲間を呼ばれても厄介だ。目的は果たしたことだ、帰還するとしよう」
「そうですね、了解です。俺の不注意のせいですいません」
「なに、気にするな。それよりもゲートの方を頼む」
仮面が銀髪の青年に頷きながら、手をかざすと黒い穴が生まれる。
それは仮面の心を映し取ったようにただただ深く、昏く、黒い。
「‥‥‥‥」
常人なら恐れるような不気味な空間に躊躇うことなく仮面と青年が入る。
そして、意識持つ者が居なくなったその場には再び静寂が流れ。
その場には、傷つき倒れた人々が残った。
あらゆる種族が存在するこの異世界レメガルド。
彼の異世界が内包する大陸の一つ、トゥルジア大陸ではある噂が広がっていた。
それは都市伝説のようなもので存在するかどうかすら分からない組織の噂。
構成人数不明。
行動目的不明。
活動区域不明。
全てが謎に包まれた組織。
だが、時には国を巻き込む騒動を起こし、時には歴史の影で暗躍し、時には人の道を外れた者を処理する。
善か悪か、それすらも判断がつかない謎の集団。
ーーいつからか人々は彼らをを結社双頭の魔犬と呼んだ。