日常的なもの
早いものでもう5月になった。桜も散ってしまいだんだんと暖かくなり夏へと近づいている感じがする。
伊織がいなくなってから1か月以上になる。伊織がいなくなってから感じていた違和感がだんだん薄れていくのが分かる。伊織のいないこれからの生活を考えると、この違和感はなくさなければならないものだと分かっている。でも伊織が好きだと気づいてから、この違和感がなくなるのを怖く感じるようにもなった。
話は変わり、学校の話をしよう。入学して約1か月、クラス内でも仲のいいグループができ始めている。僕にも新しく仲良くなった人がいる。隣の席の北条雅さんと、木之元さくらさんだ。(木之元さくらさん、北条さんの幼馴染である。)珍しいことだが、この学校は給食がないため、購買や学食、弁当で昼食を済ませる。僕は学食で食べるので席を離れるのだが、その間北条さんの隣の席の僕の席に木之元さんがいつも座って昼食を食べている。僕と和也が学食から戻ってきてから、4人でしゃべるのが日常的になっている。今日も今日とて変わらない日常を送っている。
「ねえ、私ゲームとかやってるとたまに思うんだけど魔法とか使ってみたいとか思ううんだけどおかしいかしら」
「まあ、ゲームとか人並みにやるけど、その中の魔法を使ってみたいと思うことはあったかな」
「そうよね、この世界でも魔法が使えればよかったのに」
「いや、魔法が一般に使われるのはあまりよくはないかな」
「えー、夢があるじゃない」
「たぶん聞いたことはあると思うけどクラークの三法則の一つに充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かないっていうのがあるんだけど、僕もそう思うんだよね。それに昔から魔法が一般に使われていたとしたら、化学が普及してない可能性があるんだよね」
「化学が普及していないとすると今の私たちでは不便極まりないわね。今の、科学が発達している世界がいいのか、魔法が発達していて化学が発達していない世界がいいのか、今の私たちからするとどちらを取るのかおそらく決まっているわね」
「そういわれると魔法が一般に使われる世界じゃなくてよかったというか、科学が発達していてよかったわ」
僕たちはこんな日常を送っている。放課後は基本的にはまっすぐ家に帰っている。そんなにいつもいつもほしいものがあるわけではないし、特に学校に残る用事もないからだ。最近、ゲームをやる時間が多くなった。木之元さんが面白いと言っていたゲームをやっている。僕もすっかりはまってしまった。
今の生活は充実しているし、楽しいと感じている。でも、一人になると頭の片隅で考えてしまう、今の生活の中に伊織がいてくれたらどれだけ楽しいのか、と。伊織、僕たちは付き合っていたわけではないし、好きだと告白したわけじゃないけれど、今伊織は僕のことを考えてくれているのだろう。でもそれはこれからもそうなのだろうか。まだ伊織が引っ越して2か月くらいだ。だから僕のことを考えていてくれるのだろう。でも、今の生活に慣れてきたとき、伊織は僕のことを考えてくれるのだろうか。そして僕もそうなってしまうのだろうか。