馬の彫刻
コタロスタはレンガ造りの道を歩いている。暗茶色のカーブした道。歴史ある背の高い建造物が道沿いに並ぶ。道を挟んでレンガの階段が海へと伸び海中深くまで続いている。海の中には美しい馬の彫刻が連なる。黒い大理石や、ブロンズで出来ている。中には首から上が壊れたものや、足の欠けているものがある。彫刻の馬は透明の海中を駆けているようにも見える。
キートーカーはお金を流通させることで利益を得ていた。リンゴから珊瑚、少女から淑女、音痴から大地、ミラーからカラー、柵から核、だるまから車、あらゆるものに値を付けて売買した。人口が増加し資源が枯れ、ゴミと毒が生命維持に必要な自然を破壊した。キートーカーは素晴らしい計算屋だ。キートーカーは知っている。自分たちに必要な金が手に入りにくくなったことを。キートーカーはやめられない金を手に入れることを。道は大きく二つある。今のエクスタシーと希望のエクスタシー。破滅を知った上での快楽と、未来を夢見る禁欲。
ワーカーは働いた。生活のための金のため。月の給料をもらい。次の月までの生活費を出した。金が手に入りにくい時代なので、休みや、考える時間を労働力にあてた。子育てや介護の時間を労働力にあてた。恋愛や旅する時間を労働力にあてた。トップヘッドがそれを押しつけた。ワーカーはそれでも反抗しなかった。トップヘッドはどこも似たり寄ったりだったから。
トップヘッドはそうなるために育てられた。トップヘッドになるための教育を受けた。トップヘッドは冒険したい。しかし、トップヘッドは冒険を避ける教育も受けた。金が手に入りにくい時代なので細く長くトップヘッドであり続けるしかなかった。ワーカーにたくさん金を与えて仲良く交流できる時代ではない。ワーカーにささやかな金を渡し、今の時代を理解してくれることを望んでいた。
兵士は金が無かった。教育のために支払ったからだ。学生の稼げる金は教育費にとうてい届かなかった。借金返済のため兵士になりたくさんの金とボーナスをもらう必要があった。兵士は国を守るために合法的に殺人をしなくてはならない。
国は自国民を守るため他国の攻撃に備えて兵士を雇った。自国民の資源と暮らしを守るために。
国はキートーカーによって動かされている。金が無いと兵士を雇えないし、キートーカーは金を手に入れるのが一番上手だから。
コタロスタはアーティストだ。コタロスタは見た。豊かさが死んで行くのを。言葉が死に。芸術が死に。家族が死に。自然が死に。キートーカーの造った円環に閉じて行く命を。コタロスタは服を造っていた。コタロスタは地中から顔を出す精霊のような服を造りたかった。時にそれに近いものを造り出すことが出来た。100人中1人でも気に入ってくれればそれで良かった。コタロスタにとって生きるとは、それだけで良かった。コタロスタはしかし生きなければならなかった。生活のためにワーカーになった。毎日大量生産の服のボタンを取りつけた。安定した収入が自分の服作りを支えてくれるはずだった。コタロスタの中で霧がかかった。コタロスタの中の何かを覆い隠した。霧は何も見えない代わりにコタロスタを包み安心させてくれた。コタロスタは霧に癒されさえした。コタロスタは服の造り方を忘れた。




