コタロスタの服
コタロスタは考えた。コタロスタは、金色を紡げ、と言われたように感じた。コタロスタは服を造ろうと決めた。コタロスタは服を造っている時が、いちばん今を感じられる、脳全体、身体全体が金色に輝けると知っている。自分と似ているマイノリティーたちが金色になれるように服を造ろうと決めた。二足歩行をして両手が空いた人間が自然からずれた。空いた両手で弱い皮膚を守るためのセカンドスキンとして衣服を造った。コタロスタはマイノリティーたちが生き残られるように衣服を造ることを決めた。
壮大な夕日。空一面の朱色が海にも映って海の中の自分と自然の境目が分からないような、そんな生地をコタロスタは探した。夏の日の冷たく心地よい海で体を動かすたびに全身の肌に気持ちいいうねりを感じらあれるような肌触りの生地を探した。野原で遊んだ子供の汗をかいた頭頂部のような甘い花粉のような生地を探した。他者の事を考えない残酷な言葉に折られないような銀色のボタンを探した。手に耳に頬に胸に肩に腹に降りる恋人の髪のような、毛を探した。危険なものから強い力で守る父の手のような皮を探した。全身を柔らかい肌で包み込む母のような、心地よい弾力と保温力のある綿を探した。
コタロスタは親の顔を知らない子供が、その子供を一番愛おしいと感じた瞬間の表情、体温、血流を感じられるニットのカーディガンを造った。親を知らない子供が誰かを想うときに親から受け取っていたメッセージに気が付けるように。
コタロスタは放射能汚染した土地に住む子供たちが、外で走り回って放射能を含んだ空気や塵を大量に吸っても大丈夫なマスクを造った。国が逃がさない放射能汚染の土地に住む子供たちが放射の汚染の不安や恐怖から離れ、時間を忘れる金色に近付けるように。
コタロスタは劣化ウラン弾が使われた後から生まれてくる頭蓋骨の無い赤ちゃんのために頭蓋骨の不在を補える帽子を造った。無味無臭の放射能の影響が証明できず国が絶対に保証しない深刻な健康障害を持つマイノリティーが生きられるように。
コタロスタは子供のために働く大人がすべての時間を労働に使わなくてもいいように時間の外に出られる靴を造った。時間の外で10年でも休めるように、行きたいところを旅できるように。本当にやりたいことが見つけられるように、時間を忘れて金色になれるように。
コタロスタはベッド上で語ることが出来ずただ死をまつだけの老人が表現できるようなメガネを造った。老人が孤独のまま命を終えることのないように。メガネが発光し、老人の見ている景色が天井や壁に映される。医療従事者も無言の老人に対し健常者と同じように接する事が出来るようになった。
金色になれた人は素直になった。長い間、海でもまれ漂白した流木のようになった。誰に影響されるでもなく、誰かに何かを強いるでもなく、ただそこに存在していた。人の黒い憎悪は消えることが無いが、目的に向かい困難に立ち向かう覚悟を決めた人は金色の輝きがネガティブな部分をかすませていた。