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COTAROSTA’S ADVENTURE  作者: Ryo Yoc
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世界の布

 読んだ人がどう感じるのか知りたい

花 道。巨大な花が天に向かい咲く。大きな花瓶が地平線まで並ぶ。花粉がたくさん舞う。コタロスタがすたすた歩く。綿毛が胸と肩と肘と膝を包んでいる。陶器で出来た鞘の中には金属の鋭い針が入っている。


世界の布はずいぶん大きく綻んでいる。一つ一つの繊維である生物たちは今までにない門出に立たされた。するすると解き放たれて自由に空を舞う生き物。うまい具合に他の繊維を束ねて自分の好きな形に変える生き物。布を織りなしていたのが一つ一つの生物だったと知って戸惑うもの。宇宙に広がるたなびく布の両方の端は、どちらかが世界の始まりに繋がり、一方が世界の終りに繋がっている。どちらかが懐かしい夢に繋がり、一方がやがて来る現実に繋がっている。


布は今ではずいぶん空の高い所に見える。今まで生物は布のようにまとまって生きてきた。今では布から離れて一つの繊維として生きられるようになった。破壊者が生まれ、技術者が育ったからだ。


赤、橙、黄色の花は光に縁どられている。コタロスタの肌は花粉と汗の混じった匂いがする。オレンジと黄緑の草に覆われた小高い丘には一台のミシンがある。鉄が茶色く錆びている。

使える人が使えば世界の布のほころびを塞ぐことが出来る。コタロスタは小高い丘に向かい歩く。


コタロスタが小高い丘を登ろうとすると黒い羽根に赤い円の模様のある丸い虫がぞろぞろと道を塞いだ。

コタロスタが一歩も前に進めないようにがっちり塞いだ。丸虫の群れはコタロスタを攻撃するわけではないが道からは退かない。

コタロスタは丸虫を押すように前進を試みる。丸虫の頭が持ち上がりわしゃわしゃする足が空回りする。コタロスタは更に虫を押した。頭部が天を向くまで押すと、身をひるがえして後方へ払いのけた。

一匹分前進しようとするコタロスタの前に別の丸虫が這い出た。コタロスタは同じように丸虫を後方へ払いのけた。別の丸虫が空いた一匹分の空間へ前進した。

コタロスタは丸く盛り上がっている丸虫の背中に飛び乗った。背中は油でてるてるしている。コタロスタは上手く立位を保てず手足をつるつる滑らせて地面に転がった。


コタロスタは別の場所から小高い丘に登るために、その場を離れ、一面に小さな黄色い花の咲いた野を歩いた。

黄色い野は蜂蜜を撒いたようにオレンジ色と混じった。黄色い野の果てにダークブルーが一筋よこに広がった。

コタロスタは再び丘に近付いた。丘のふもとにはナイフの刃のような二枚貝がびっしり張り付いている。貝の側面はゆるやかな波形をしている。

コタロスタが貝に近付くと、貝はゆっくり開いた。貝の中から薄ピンク色の光が漏れる。ピンク色の光を見たコタロスタの目から全身に快感の波にさらされた。コタロスタは目を逸らそうとしたが、かわりに貝の中を覗き込んでいた。どこまでも脱力した生き物たちがいた。貝の柔らかい肉ひだと、その上で転がる生き物たち。快感に痺れ果てている。

コタロスタはピンクの光に触れてから徐々に確実に快感のパルスが膨れていっている。全身が鼓動している。全身が快感の波となっている。脱力した生き物は時折体や手足を反らした。

コタロスタはもう身をゆだねようとした。一方で大きな流れを見ようとした。コタロスタは快感を喜んだ。コタロスタは大きな流れが、自分の中の川と違うと気付いた。コタロスタは貝の中へと歩く。一歩進む足から頭へつきぬけて天に抜けるように快感が駆ける。

コタロスタは金属の大きな針で歩み出した足を貫いた。痛みが前頭葉を目覚めさせた。痛みを手に入れて大きな流れに触れた。自分の中の川が流れていく方向を掴んだ。痛み、血の流れる足でコタロスタは貝から少しづつ離れた。


貝の光が届かない所まで歩くとコタロスタは小さい針と糸で左足の穴を縫った。縫い終わると一日分の疲労が細かい波になって体を巡る。コタロスタは瞼が鋼鉄のように重くなって、閉じた。

ミシンが宙に浮いて、貝が体中を快感で痺れさせた。丸虫が体を踏んで行った。紺色が天で波紋のように波打つ。金色の星が天を回転する。短い黄緑色の草原から銀色の卵型の虫たちが飛びまわる。黄金の帯を見た。帯はすごい音の集合のように感じる。勢い、エネルギーを感じる。拍動し巡っている。それは巨大な円を成している。


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