手のひら革命
さえない僕はあの子に恋をした。
可愛いかどうかは好みの問題だろう。肌が白くぷにぷにしていてマシュマロみたい。今流行りのデブの子?太めと表現したほうがいいか?とは違いほんと愛くるしい感じだ。
向こうは多分僕のことを好きだと思う。
これは自意識過剰な僕だからこそ思うこと。
立場的なことを考えたらやっちゃダメな恋。
関係性が崩れてしまう。
ここは学校、僕はいつのまにか先生という立場になっていた。旧世代の先生たちは威厳があり、先生という言葉に似つかわしい。
僕はといえば‥。
子供が大人になったような。毎日寝坊ぎりぎりで起きて、早々に仕度をして学校に行く。
薄給で頑張ってやってるんだ、って気持ちが先ず悪いんだと思う。将来性ある子供達に教える立場にたつものとして失格という自覚はある。
だってこれはゆとり教育を強いてきた国が悪いんだよな。無差別に格差を広げて、で、商社を目指して有名どころの私立大学の社会学部に入ったのに内定はどこからももらえないし、で、一応教職取っといたからで公務員だし‥って。
残業ばっかりだし、何を血迷ったか文化部のそれも明日の日本を考える会というマイナーサークルに所属していた僕に野球部を任せるなんて頭おかしいに違いない。
7月1日、今日から生徒たちとの進学を考えた面談が始まる。ここは公立高校。こんなん所詮形式だけのパフォーマンスなんだけど。やらないとまたモンスターペアレンツ達がたちの悪いクレーマーの如くうちの子うちの子と言って吠えてくる。
3年目ともなると世間を知ってきてそこらへんは抜かりがない。世渡り上手とでも言ってもらえれば僕は喜びますです。
去年は酷かった。
今の学校は新卒時に赴任してきて1年目に1年生の副担任になった。右も左もわからないし、そもそも要領が掴めないまま言われるがまま、僕を担当してくれるY先生、一応個人情報なのでふせておく、が熱血漢で全部やってくれていた。うん、こんなんじゃ僕は伸びない。ゆとりは言われたこと以外はやりたくないんだ。何か困ればネットがあるし。で、激動の1年間であった、そして2年目では担当の先生がY先生からM先生に変わった、おじいちゃん先生で、おそらく出世競争から外れて万年平の先生といった感じで冴えないオーラだけは全開だ。その時そのじじ、おっとM先生の指令で面談をすることになった。
その時に面談した女の子が志望校選びに関して教えて欲しいということを言ってきた。
面談の場は密室であるが、期待したことは何もない。素直にパンツを履いたまま聞いて欲しい。
これから先のことを何も考えてないからどうしたほうがいいのか、という事だった。そんなん僕に言われても、ってそこで思って、うーん困ったなってことで質問をしてみた。
何かしたいことは?
中学生まではお花屋さんかケーキ屋さんになりたかったです。
お前は幼稚園児か?心の中でぐっと思いながら喉元まで出かかったものを我慢した。
辞めちゃったの?
はい。職場体験で思っているような事ではありましたが、毎日同じ事を繰り返しやるのが大変そうで、そもそも私は断片的にしかみていなかったことに気づきました。その裏側にある苦労を知らなかったのです。
超絶正論を聞かされてぼくはさっき出かかった言葉を言わなくて安堵の気持ちに襲われた。
確かに見えてることは綺麗で、華々しくても実際やっていることはすごい大変だし、苦労をするもんね。
明日の日本を考える会で資本主義について考えた時に聞いたようなテーマみたいなものだったので返答しやすかった。だけどこの子の悩みに関してはどう答えていいか困った。
だったらまたしたいことを探すのがいいんじゃないの?何か好きなことは?例えばケーキ屋さんとか花屋が好きって多分見えてるものが好きなのかもしれないし、だったらそれを人に伝えるような事とかさ。
確かに、そうですね。今までしたかった事が違うと思ってからは、やりたい事が消えた時の喪失感で何もする気が起きなかったので、もう一度自分は何が好きなのかをあらためて考えて頑張ってみたいと思います。ありがとうございました。
うん、どいたま。
なんかそこに共感したんだ?ってちょっと意図がずれたけど解決した方向に向かった感じはしたからいいか。
2日後、その女の子の母親がお昼休みに怒鳴りこんできた。母親の主張としては人の子に勝手に将来のことを話さないでくれ、うちは父親が医者で一人娘である彼女を医者にする。ということ。
家族会議が昨日あったそうだ、おととい急に娘が自分の意見を夕食の場で話し始めた、内容としては今日学校で面談をして自分は自分の考えた事を好きなようにしていきたい、今のままやってたら辛い。ということ。話していた時に気づかなかったが、そしてここからは僕の推論でしかないが、彼女なりのSOSだったんじゃないだろうか。ずっと親の言いなりになって生きてきて、疑問に思ってたり辛かったり誰にも言えなくて。だからあの時、花屋だとかケーキ屋だとかキラキラしたものが具現化されたままちょっと大きくなって、でもやっぱり何ごとも大変でどうしたらいいか、このまま素直をやっていった時に本当にいいのかと。それでこそ、したいことを探すっていうことが彼女自身のアイデンティティーを確
立する上で重要な事だと思い勇気を出して宣言したんじゃないかと。
そう、もう僕自身はその彼女にとって正義のヒーロー、母親の話しに聞く耳もたずに
娘さんを信じて下さい!以上です。
とか言ってしまった。
はい、当然怒っていた母親には火に油を注ぐようなもので、その後、校長、教頭に怒られたじじいが鬼の形相で僕に怒ってきた。悪いことをした自覚はないけどこれだけ怒られると反省をせざるを得ない。




