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第1話

 オレの名前は阿枇あび こう。高校1年生だ。


 今現在のオレの高校生活を述べるなら、部活に入部せず、友達もなく、もちろん彼女もいない。成績もイマイチで、とてもじゃないが充実した高校生活とは言い難い。毎日“リアジュウ”なる生き物を強制的に鑑賞させられるという拷問を受けてもいる。


 その“リアジュウ”なる生き物たちの間で話題になっているのは、最近学校内に“通り魔的なモノ”が出没していることらしい。周りで話しているのを聞いているだけなので詳しいことは分からないが、要は“リアジュウ”がモンスターハントされているということなのだろう。大いに結構ではないか。

 


 そんなオレは今、人生のピンチを迎えている。それは、今がもう3月だということだ。3月の何が悪いかというと・・・、2年生になる『はず』だからだ。

 何故、『はず』なのかというと、2教科が赤点だからである。


 そう、このままだとオレは留年することになる。もう3月だから巻き返すには手遅れだし、もし仮にもう1回試験があったとしてもオレの頭では巻き返せないだろう。情けないが断言できる。オレは地理、歴史、倫理といった社会科というジャンルが苦手なのだ。


 っていうかなんで2教科に分けられているんだよ!何故、それほど区別したがる!?そんなに人と違う事がしたいのか!?違うと良い事があるとでも言うのかっ!?この世は全ての人が手をとり、同じ方向を目指すべきだとオレは思う。人種や経済格差、国境や宗教っ!全て・・・ヒトの思い込みではないのかっ!?全てを1つにしてみれば・・・変わる気がする・・・。何故だっ?何故だっ?何故なんだ~!!


 ・・・と、もしそんな事を叫んだら明日から引きこもりになるしかないので黙っておく。


「あ~、留年はマジ勘弁。どうしよう。う~。」


 そんな悲痛を胸の中で叫びながら、オレは職員室へと向かっている。赤点をとった教科の担当教師で、担任でもある新畑先生に呼ばれたからだ。ちなみに、アラハタっていう名前だが、実際の年齢はアラサーのお姉さん先生である・・・っていうことを密やかに囁いているのはオレだけだろう。

 と、思考を巡らせながら歩いているオレの耳が異音を感じ取った。目の前には、職員室へと通じる階段があるが、人気がなくて薄暗い。

 警戒しながら進むオレが振り返ると、視界の先に“ソレ”は姿を現した。


身の丈70センチくらいの人形(?)が駆動音と共にこちらに迫ってきていた。


「・・・辻斬りでござる!!」


「・・・はい?」


 突然現れた人形(?)が言い放った。いや、正確には取り付けてあるスピーカーからだが・・・。そこから聞こえてきた「辻斬り」という単語に唖然としたが、それが手にしている武器を目にして、オレの顔面は蒼白になった。


あれ・・・、本物の日本刀じゃね・・・?


 身の危険を察知したオレは目の前にある階段を駆け下りる。さすがに階段を駆け下りるという芸当があの人形にはできないだろう。このまま一気に職員室まで駆け抜けてやる。


「!!」


 そんな決意もむなしく、オレは階段の踊り場で足をからませて転倒してしまった。


「辻斬りでござる!!」


 転倒で足首を痛めたようだ。動けないオレに向かって、ゆっくりと近づいてくる人形の姿が見える。まさか、オレが襲われることになるとは思いもよらなかった。

 

 当然だ!

 オレは“リアジュウ”では無いのだからな。


 俺が襲われなければならない理由がどこにあるというのだ!

 オレの存在のどこが害だというのだ!

 何故だっ?何故だっ?黙っていられるか~!!


「俺は・・・、俺は“リアジュウ”じゃ無い!」


 そうだ。オレは、“リアジュウ”では無いのだ。こう言ったら他を当たってくれるだろう。・・・だが、そんなオレの考えを裏切り、人形が刀を振り上げる。


「何故だ!お前の目当ては“リアジュウ”なんだろ。お、オレは友達も彼女もいない!“リアジュウ”なんかじゃない!オレは童貞だぁ~。」


 そう言った時に、オレはふと気が付いた。“リアジュウ”が襲われているというのは、あくまでもオレがした推測だということを。クラスの連中が話している限られた情報から俺が都合よく解釈したことだということを。

 人形の持つ日本刀の刃が西日を受けてきらりと光る。

 ああ、オレは死ぬんだな。人生最後の言葉が“童貞宣言”になってしまったが、悔いはない。オレらしいじゃないか。そうして、死を覚悟した・・・その時、


「辻斬り君!覚悟ォ!!」


 突然現れた女子が人形に飛び膝蹴りを食らわす。さらに壁と床にぶち当たった衝撃でパーツが幾つか外れて、駆動音も聞こえなくなった。どうやら助かったようだ。


「私は、義に生きた戦国武将・上杉謙信の精神を学び、校内の風紀を乱す悪に制裁を加えています。大丈夫ですか?」


「・・・よくわからないが、助かった。ありがとう。ところで、君は風紀委員なのか?」


「いえ、私は歴史研究部です。」


「は?」

 ・・・まさか女子に助けられるとは。しかも、文化部の女子に・・・。


「じゃあ、この辻斬り君は私が片づけておくので。」


 そう言って、人形の散らかったパーツを集めている。


「それ、辻斬り君っていう名前なんだ・・・。」


「そうですよ。もうみんな言ってますよ。辻斬り君が出た!って。」

みんな言ってても、オレは会話しないからな~。


「とりあえず、もう安心だな。こうやって倒したんだから。」


「そうでもないですよ。1体だけとは限らないですし。じゃあ、失礼します。」

そう言って、足早に去っていく歴史研究部の女子に聞きたいことは山のようにあったのだが、走って追いかけるのも面倒だ。というか、足首を痛めているので走るのが面倒とかいう以前の問題なんだがな。


 ・・・とりあえず、職員室に行くとするか。


 と、歩き出そうとしたオレの足元に金属片が落ちていた。どうやら、さっきの辻斬り君とかいうヤツのパーツのようだ。そこには「SEKITSURU」と文字が刻まれていたが・・・、意味不明だ。

 パーツをごみ箱に投げ入れ、オレは、足を引きずりながら職員室へと向かった。


「失礼します。」

 そう言って、職員室のドアを入ってすぐそばに新畑先生の机はある・・・っと!どうやら先客のようだ。


「おっ!来たね。じゃあ揃ったし、大事な話を始めるね。」

 先客は同じクラスの女子のようだ。えーっと、名前なんて言ったかな。


「2人は私の愛する教科で赤点でしたね。なので、このままだと残念ながら留年ってことになります。」

 あんまりクラスの連中と会話しないし、まして女子となるとほぼ無いに等しい。わかんねぇ~。一体お前は誰なんだ。


「で、私は追試や補習といった救済措置はとりません。」

 小柄な体型でまじめでおとなしそうな印象だ。まぁ、印象には残りにくいタイプだな・・・ってちょっと待て。今、この先生なんて言った?


「えっ、じゃあ留年ですか・・・。」

 隣に立つ“先客”の女子が先生に聞く。表情からかなり動揺しているのが窺える。・・・って!よく見たらキレイな顔してんな。体型的にはキレイよりも可愛いという表現の方が合っているかもしれないが。

 そんなことよりも、オレも留年はマジで勘弁です。先生~。


「いやいやいや、ごめん。動揺させちゃったね。追試とか補習とかじゃない別の救済措置を用意しているの。」


「別の救済措置ですか?」


「そう。まぁ救済措置っていうよりはお願いみたいなものなんだけどね。無理にとは言わないし、もし無理だったら学年主任の先生が用意した300ページの問題集をやってくれたらいいから。」

 さ、300ページって、マジですか。A4未満のサイズですよね。なんにせよオレは“お願い”の方にする!中身聞いてないけど、オレにとって救済措置になるのは問題集じゃないのは確かだ。


「お願いってなんですか?」

 今度はオレが聞く。一体どんなお願いなんだ。やっぱり300ページと同等くらいの過酷なお願いなんじゃないか。


「歴史研究部に入部して欲しいの。」


「・・・はい?」

 思わずオレは聞き返す。当然だろう。救済措置が部活への入部って・・・、一体このアラサー女・・・いや失礼。この先生は何を言っているんだ。


「苦手な歴史の勉強にもなるし、いいんじゃないかな~って。」

 何となくまともなことを言っているが、先生の黒目が挙動不審な動きをしている。これは・・・、何かあるな。


「部員不足とかですか?」

 隣に立つ“先客”の女子が先生に聞く。いい質問だ。オレの脳の危機管理センターが警報を鳴らしている。今は、とりあえず情報が欲しい。


「ん?いや~、部員は足りているんだけど~・・・ちょっと問題があってね。」

 歴史研究部みたいなまじめっぽい部活が抱える部員不足以外の問題ってなんなんだよ。

 ん?ちょっと待てよ。歴史研究部って・・・さっき・・・。


「そういえば、さっき歴史研究部の部員に会いましたよ。」

 オレのその言葉に先生の目が大きく見開いた。この先生は顔はポーカーフェイスという言葉を知らないようだ。嘘がつけない人だな。


「そ、そうなんだぁ~。ま、まあ、その話はまた今度するとして・・・どうする?入部する?」

 てっ!いやいやいや、この先生マジか・・・。あからさまに何かを隠そうとしてますよね。

 そんな流れで“はい、入部します”なんて言えるわけないだろう。


「はい、入部します。」

 隣に立つ“先客”の女子が言う。

 そうそうそう。って、言うのかよ!

 バカなの?ねぇ?何っ!?何っ!?


「そう。じゃあ羽斗はとさんは入部ってことで救済しておきますね。」


「はい。ありがとうございます。」

 羽斗っていう名前なのか。・・・っていうかなんか話まとまっちゃってるし。


「じゃあ、阿枇君は300ページの問題集をするってことでいいかな?」

 ・・・えっ、いやいやいや!なんでだよ!その選択肢はオレの中では最初から無いんだよ。


「入部・・・します。」

 笑顔で差し出された“留年”と“300ページの問題集”というナイフで脅された俺には、選択肢は無いっ!!結局何の情報も得られないまま入部しますと言ってしまったわけだが・・・大丈夫か~?


「問題集をして入部もしてくれるってこと?」


「はい?」


「偉い!阿枇君、私の担当する教科だけ赤点だったから、もしかして私の事嫌いなんじゃないかな~って思ってたの。でも、私の勘違いだったんだね。」

 この先生何言ってんだ・・・。


「いえ、オレも入部だけで救済してください。」

 部活の問題が気になるが、まぁ仕方ない。


「えっ・・・。」

 先生がそう言って沈黙する。先生の顔から笑みが消える。心なしか瞳が潤んでいる様にも見える。


「阿枇君、やっぱり私の事嫌いなんだ。」

 え~、なんなんだよコイツ・・・いや、この先生。


「いや、好きですよ。大好きです。だから、オレも入部だけで救済してください。」

 問題集を逃れるためだ。っていうか早くこの状況から抜け出したい。もう何でも言ってやる。


「ちゃんと名前も付けて好きって言って。」


「・・・。・・・・・・。新畑先生、好きです。」

 なんだこれ。

 夕焼けに染まる部屋で、俺は頬を赤らめた。オレには先生の顔に“満足”と書かれているように見えた。良い笑顔だ。

 まあ、変な告白をさせられたが、ひとまず留年というピンチは乗り越えられたわけである。とはいえ、ピンチは継続中。

 

 さあ、きっちりと説明してもらいますよ。先生がひた隠しにする歴史研究部の事を・・・。



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