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情報屋『黒猫』  作者: 夜風 牙声
契約者ト黒猫ト空狐ノ噺
7/7

黒猫の眼

必読後、少し経ってからの出来事。シヴル視点。

 りん、翠嵐と共に暮らすようになって、規則正しいとまではいかないが朝起きて夜眠る生活を送るようになった。理由は簡単。妖怪なのに早寝早起きな翠嵐がりんを起こし、そのりんが俺を叩き起こして朝ごはんを要求してくるからだ。ちょっと起きないでいるとすぐに俺の腹の上に乗って飛び跳ねるのだから、こちらはたまったもんじゃない。だから渋々起きて用意してやっているうちに、俺もその習慣が身についたのだ。ちょっと前まで昼夜逆転した生活を送っていたのに。俺も随分変わったな、なんて思う。それが良い事なのか悪い事なのかは置いておいて、りん達に出会ってから色々な事が変わった。それでも、起きてやることと言えば前と変わっていないのだが。

「シヴー」

「なんだよ」

 今日も今日とて朝からパソコンを眺めていれば、今まで朝食をとっていたはずのりんが駆け寄ってくる。りんは今日も相変わらず、黒いゴシックロリータの服を着ていた。どの服にも必ず猫耳がついているのはりんの趣味なのだろうか。可愛いけれど。服についた沢山のフリルが揺れる。翠嵐はとうに食べ終わり、何処かへ出かけて行った。りんの手には、仕事に使うのだと買ったばかりのパソコンが。嬉々とした表情のりんに、なんだか嫌な予感がする。りんが楽しそうにしている時は大抵俺にとって悪い事ばかりなのだ。

「これ見て!」

 押し付けられたディスプレイに映るのは『女の子にされたら嬉しい十の行動』と書かれた記事。モデルだろうか、一組の美男美女が解りやすいように挙げられたポーズをとっていた。そしてりんの人差し指が示す先には一枚の画像が。

「膝枕?」

 女性の膝に頭を乗せて眠る男性。女性は愛おしそうに男性の髪を撫でている。これを、俺にどうしろと言うのだろうか。

「そう、膝枕!」

「いや……それは見たら解るけど、さ」

 何かを期待するようなりんの視線。嗚呼、嫌な予感が当たってしまいそうだ。

「これやって! 膝枕してー!」

 やはり、とでも言うべきか。そもそもこの画像は女が男を膝枕しているわけで、それをやるならりんが俺を膝枕するべきだろう。そんなことを言ったところでりんには通用しないのだと言うことは、共に暮らし始めて短いと言えど解っていた。りんに常識と言うものは通用しない。なにか、避ける術はないのだろうか。

「俺は今忙しいの! 見たら解るだろうが。しないよ」

 そうは見えないと解っていながら、口をついたのはありきたりな言い訳。忙しくはないが、ネットサーフィンは俺の日課だ。りんから目を逸らし、再びディスプレイを眺める。視界の端でりんが頬を膨らますのが見えた。

「意地悪。……ただのヒキニートな癖に。ネット徘徊してるだけの癖に。シヴの癖に!」

「なんだよ俺の癖にって」

 言い返せないのが悔しい。どうやら本格的に機嫌を損ねてしまったようだ。もっとマシな言い訳をすればよかったと後悔しても今更。こうなるとりんは手を付けられなくなる。

「ひーざーまーくーらー!」

 右隣に立っていたりんがパソコンを投げ出したのが見えた。かと思えば、可哀想なパソコンには目もくれず俺の首に向かって飛びついてくる。さながら猫のようだ。そんなことを考えているうちに、りんの腕の力がどんどん強くなってきた。いくら女の子の力だと言っても、首は急所だ。

「ちょ、やめ、首! 首絞まってる! 解った、膝枕する、してやるから一旦離れろ!」

 ギブアップ、とりんの腕を軽く叩けばすぐにそれは離れた。こうなることは予測済みらしい。これだからりんには敵わないのだ。きっと、これから先もずっと。

「やったー!」

 嬉しそうに飛び跳ねるりんに溜息が零れる。そんなことは気にも留めず、りんは俺の手を引いてベッドへと向かった。期待に満ちた目で、ここに座れと言わんばかりに示すりんに呆れつつも従う。いや、従わざるを得ない。りんはすぐに俺の膝に頭を乗せた。さっきの機嫌の悪さはどこへやら。

「全くもう……」

 りんを乗せたまま、ベッドサイドに放置されていた雑誌をとって開く。さて読もうと視線を巡らせれば、その雑誌がいきなり消えた。

「は?」

 何故か不満気なりんがその雑誌を握っている。どうしたものかと戸惑っていれば、雑誌は床に投げ捨てられた。なんなんだ一体。

「駄目」

「いや、何が駄目なんだよ。膝枕してやってるだろ?」

 雑誌が読みたかった訳ではないらしい。手持ち無沙汰に両手を彷徨わせていると、今度はその手が握られる。そのまま導かれた先は、りんの頭。

「撫でてくれなきゃやだ」

 そこまであの画像を再現しなければならないのか。けれどここで抵抗すればりんの機嫌が更に悪くなるのは必至。仕方なく、言われるがままに片手でその髪を撫でた。もう片方の手は、ベッドについたまま。胸元まで伸びた艶やかな濃藍の髪は傷みなどどこにもなく、すぐに指の間をすり抜けていく。気持ちよさそうに目を細めるりんは、本当に猫のようだ。気紛れで、我が儘で。りんが猫なら、きっと今頃は喉を鳴らしていることだろう。

 暫く撫でてやると、満足したのかりんが目を開ける。その時、あることに気付いた。

「りんはオッドアイなのか?」

 遠目ではどちらも金だが、俺から見て左目は黄色に近い金、右目は赤みの入った金。僅かな違いだが、りんはオッドアイだったようだ。

「そうだよー。生まれた時はどっちもおんなじ色だったんだけどねー」

 生まれた時は、同じ色? オッドアイって生まれつきじゃなかったか。

「なあ、それってどういう……」

 りんは俺の問いかけに答えることなく、手をすり抜けて何処かへ行ってしまった。茫然としている間に、玄関の閉まる音だけが響く。野良猫のように、なんだか呆気なく去って行ってしまったりん。疑問だけが残っていた。

「なんなんだ、一体」

 俺はいつだってりんに振り回されてばかりだ。

 りんちゃんの眼の色のお話。そのうちりんちゃんがオッドアイになった理由も出てくるかと思われます。

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