カード探し
カードを見付けよ。
月光が消えた夜、俺は街中を彷徨っていた。携帯用の端末に映し出されるのはつい先日見付けた情報屋『黒猫』についてまとめられたサイト。別に調べて欲しい情報があるわけではない。ただ、暇潰しになると思っただけだ。調べても情報が欲しくないなら黒猫と契約をするな、なんて書いてあるサイトはどこにもなかった。いくら多額の報酬を要求されると言ってもこちらが情報を要求しなければ報酬は発生しないだろう。衣食住と安全の確保くらいなら俺にだって出来る。そう思ったのだ。
だからまずは黒猫と契約を交わして、話を聞いてみたかっただけ。それだけなのだが……。
「チッ、カードなんてどこに隠されてんだよ」
もう随分と探し回っているのだが一向に見付からない。植え込みを覗いてみたり、ゴミ箱を漁ってみたり……。もう日付も変わって暫く経つと言うのに、未だ活気のあるメインストリートは人で溢れていた。普段ほとんど家から出ない俺にとってこの人ごみは辛い。
どこか休憩が出来る場所はないかと辺りを見回せば、人通りの無い路地を見付けた。ヴァイスストリートと呼ばれる、所謂無法地帯である。普通の人が立ち入るはほとんどない、争いや人殺しが頻繁に行われているような場所。
いくら人が居ないと言ってもあそこに行くは遠慮したい。
別の、どこか店にでも入ろうかと視線を前に戻して、立ち止まった。ヴァイスストリートは一般の人間が立ち入らない。そう、訳アリの人間ばかりが集う場所。そして、情報屋なんてものに頼る一般人は少ないだろう。
「……行ってみるか」
変な争いごとに巻き込まれない事を祈りつつ、ヴァイスストリートに足を踏み入れた。ほんの少しメインストリートから逸れただけなのに、辺りの雰囲気は全く変わる。遠くに聴こえる喧騒がやけに不気味だった。足早に進んで行けば、血の臭いが漂い始める。鼻を衝くその匂いに思わず顔を顰めた。
興味本位でこんな所に来るんじゃなかったと後悔したのは、その直後。
細い路地を曲がった先には無残な死体が転がっている。地面には夥しい量の血が染みつき、異臭を放っていた。
目にした途端込み上げる吐き気に口を押え、慌てて来た道を戻ろうと振り返る。が、その死体の胸元から覗く『あるもの』に気付いてしまった。
「おいおい、冗談だろ?」
その場に立ち尽くし、どうしようかと辺りを見回す。他に人の姿は無い。『あれ』を手に取ればまたここに足を運ぶ羽目になってしまう。でも、ここまで来たのは紛れもなく『あれ』を探すためだ。
一歩ずつ、恐怖に駆られながらも確実に屍へと近付いていく。そして震える手を伸ばし、その胸元にあるものを素早く抜き取った。手元を確認するよりも早く、来た道を脱兎の如く駆けもどる。随分と長い間運動なんてものをしていない体はうまく動いてくれない。何度も足が縺れて転びそうになりながらも、メインストリートまで必死で走った。
ヴァイスストリートを抜け、明るいメインストリートに飛び出す。すぐに後ろを振り返ったがそこには闇が広がるだけだった。気管が焼けるように痛い。荒い呼吸を整えながら、ずっと握り締めていた手を開く。
「見付けた……」
――そこには、一枚のカードが握られていた。