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#82 人間の弱さ(5)

「え……!?」



貴哉さんは驚きを隠せない様子だった。



私だって、にわかには信じ難い現状を突きつけられ、状況がまったく読めていない。



私は顔を覆ってその場に座り込んでしまった。



貴哉さんは屈んで、私を強く抱きしめてくれた。



「……とりあえず、家に戻ろう」



「嫌だ!」



真実はひとつしかなかった。



もう何も考えたくない、父親の顔も見たくなんかない。



「辛いのはわかる。でも、このまま放って置いたらもっと辛くなるだろ?……ちゃんと、親父さんと話すべきだ」



「……」



「……大丈夫、俺がお前を守ってやるから」



貴哉さんは私の手を握って立ち上がった。



「……行こう」



貴哉さんの言うことが大人すぎて、駄々を捏ねている自分がすごく幼く見えた。



私はコクンと頷くと、彼に手を引かれて走ってきた道を戻った。






貴哉さんの家に戻ると、私の父親と貴哉さんのお母さんはダイニングの椅子に向かい合って座っていた。



私が、自分の娘であることを話していたようだった。



私たちが帰ってきたことに気付くと、父は私の正面に立って言った。



「……母さんには、言わないでくれ」



第一声は何を言うのかと思えば、自分を庇う言葉だった。



私は怒りと同時に、呆れてしまった。



「……言えるわけない……。こんなこと、お母さんに言えるわけないよ……。本当に最低!」



目を真っ赤に腫らして父を睨んだ。



それが精一杯だった。

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