#77 新たなる地獄(7)
目を覚ました貴哉先輩は、腕の中にいる裸の私を認めると、はっとしたように身体を離してベッドのふちに腰掛けた。
「……こんな俺を軽蔑するだろ。殴れよ」
背をこちらに向けて頭を抱える彼は、自分の犯した行為を悔いるようだった。
「……軽蔑だなんて、そんな……」
「……」
しばらくの気まずい沈黙が流れた。
貴哉先輩は悪くない。
私は先輩に抱かれて、嬉しいと思ってしまった。
むしろ、もっと抱かれたいって思ってしまっている。
だから……。
「……先輩、私のこと好きだって言ってくれたけど、本当なんですか……?」
貴哉先輩は顔だけこちらを向いて目を細めた。
「覚えてたのか……」
それだけ言って、彼はまた黙り込んでしまった。
貴哉先輩が私みたいな子供を本気で相手にするわけないってわかってる。
それでも、彼の側にいるだけでいろんな世界が知れて、寂しさなんかこれっぽっちも感じられなかった。
「……私、嬉しかったんですよ……。先輩が少しでも私を見てくれて。私で感じてくれて……。だから、昨夜の出来事をお酒のせいになんかしたくない。なかったことになんかもっとしたくない……」
「姫虎……。……お前は、俺を好きになってくれるか?」
貴哉先輩のことが、好き……?
そんなの、考えたこともなかった。
好きなのはナギで、貴哉先輩は憧れ。
ずっとそう思っていた。
いや、そう思おうとしていたのかもしれない。
「……わかりません。今まで好きなのはずっとカレだと思ってた。でも、今一緒にいたいのは先輩、なんです……」
貴哉先輩が身体をこちらに向けたかと思ったら、気が付くと強く抱きしめられていた。
「……いや、お前が嫌だって言おうと、俺はお前を奪う……!前の男を忘れるくらい、俺しか考えられなくなるくらい……」
「……はい」
ナギはまだ、私を好きでいてくれているの……?
私はナギのこと、わからなくなっちゃったよ。
前はあんなに近い存在だったのに、今は他人より遠いところにいるみたいで……。




