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#76 新たなる地獄(6)
目を覚ますと、視界いっぱいに肌色が飛び込んできた。
視線を上げると、整った顔立ちの男の人の寝顔があった。
美しいその顔に少しの間見惚れていたが、すぐに我に返った。
私は貴哉先輩の腕の中で眠っていた。
頭はぼんやりするけれど、昨夜の激しい感覚だけは鮮明に覚えていた。
何度も刻み込まれた、「姫虎、好きだ……!」という言葉が身体の中で渦巻いている。
どうしたのだろう、ナギに対する罪悪感はほとんど存在しなかった。
どうせナギは私の元から離れていってしまったのだ。
浅香くんは、私のことが好きだから離れたと言っていたけど、実際にナギがそう言っていたわけじゃない。
もしかしたら、もう二度と巡り合うことはないかもしれない。
やっぱり、寂しさには勝てないよ……。
私は貴哉先輩のことをもっと知りたくて仕方がなくなっている。
大人の世界に私を連れていってほしいと思っている。
貴哉先輩を受け入れたこの判断が、私に不幸として大きく跳ね返ってくるとも知らず、……私はナギを裏切った。




