#75 新たなる地獄(5)
また空になったジョッキをテーブルに置く貴哉先輩。
「ちょっと……、7本目ですけど大丈夫ですか?」
「うん」
明らかに私の話を聞いていないような生返事をして、彼は焼酎を追加した。
「そういえば、姫虎に彼氏いるのか聞いてなかったな」
「彼氏……」
ナギの顔が浮かんだ。
でも、今の状態で彼のことを彼氏と言っていいのかわからなかった。
「え……と……」
「ん?」
「いるけど……、事情があって今、連絡がつかないんです……。今どこで何をしてるのかもわからなくて……」
「……そっか」
そう言って、貴哉先輩は私の隣に座った。
「え……」
「……寂しいだろ、それ」
至近距離で囁かれて、頬が赤く染まった。
「俺だったら、お前を寂しがらせたりしねぇのに」
「先輩、酔ってる……」
恥ずかしくなって顔を反らすと、彼の手が頬にあてられた。
クールな目元が熱を帯びて赤らみ、真っ直ぐな視線が私だけに注がれている。
「先輩……」
ゆっくり近付く彼の唇を、私は目を閉じて受け入れてしまった。
高校の卒業式の日に浅香くんにキスされたときのように、いや、それ以上に嫌な気持ちはしなかった。
アルコールのせいなのか何なのか、罪悪感はすぐに打ち消されてしまった。
きっと自分は欲求不満なんだ……。
無意識に人肌が恋しくて堪らなくなっているんだ。
侵入してきた舌に巧みに口内を犯されて、全身がとろけるような快感に襲われた。
この人に全てを預けたら、どれ程の心地よさに包み込まれるのだろう……。
どんな大人の世界を教えてもらえるのだろう……。
そんな好奇心で、私は禁断の道に足を踏み入れてしまった。




