#73 新たなる地獄(3)
「明日の夜、何か予定ある?」
昨日、家まで送ってもらっている車の中で、貴哉先輩にそう聞かれた。
「いえ、特にないですよ」
「じゃあ、飯でも食いに行かねえか?この前、すげー美味い店見つけてさ」
「本当ですか!?是非行きたいです!」
というわけで、今日は貴哉先輩と食事に行く。
店はオシャレな雰囲気で、少し気後れした。
「先輩、いつもこういう店に来るんですか?」
「いや、いつもはファミレスとか居酒屋だけど、たまたまこの店見つけて入ってみたら美味くてよ。外見も洒落てるし、姫虎気に入るかと思って」
貴哉先輩が私のことを考えてくれていたことが嬉しかったのと同時に、少し恥ずかしかった。
「今日は奢るから、好きなくらい食えよ」
その言葉に甘えて、私はたくさん注文してしまった。
料理は本当に美味しくて、食がどんどん進んだ。
「姫虎、ホントよく食うよな」
皿から顔を上げると、貴哉先輩が微笑みながらこちらを見つめていた。
「え…、あ、ごめんなさい!」
食事に夢中になりすぎていたことに恥ずかしくなって、私は赤面した。
こんな店で、下品だったよね……、と後悔したけれど。
「謝るなよ。美味そうに飯食うコ、可愛くて好きだからさ」
「えっ……」
彼はなお、にこにこと微笑みを見せている。
「さ、俺ももっと食うかな」
そう言って、貴哉先輩はハンバーグを頬張った。
「うめえ!」
普段クールな表情を見せる彼の、子供っぽい無邪気な笑顔にドキッとした。




