#72 新たなる地獄(2)
バイト初日が終わった。
さほど目立つ失敗もせず、安心した気持ちで帰り支度をしていた。
「おう、新人、お疲れー」
声を掛けられ、振り向くと男の人がこちらを向いて片手を挙げていた。
「あ、お疲れ様です」
ぺこりと頭をさげると、男の人は近寄ってきた。
「姫虎、だっけ?」
「はい!確か、貴哉先輩、ですよね?」
「おう。姫虎はこれから帰り?俺もあがりだから送ってくか?」
「いえ、大丈夫ですよ!」
「夜も遅くて危ねーからさ、遠慮すんなって」
というわけで、電車で帰る予定のところを貴哉先輩の車で送って貰うことになった。
貴哉先輩は私より2つ年上で、大学3年生だ。
「ここまでで大丈夫です」
貴哉先輩は車を路肩に停めて、私を下ろしてくれた。
「またシフト一緒のとき、送ってやるよ。じゃあな」
「ありがとうございました。おやすみなさい」
貴哉先輩とは初対面だったけれど、それなりに会話は盛り上がった気がした。
でも、貴哉先輩がすごく大人に感じて、自分の未熟さを痛感した。
バイトのシフトは、貴哉先輩と同じ時間になることが多く、その度に家まで送ってもらったり食事に行ったりした。
すごく驚いたのが、地元が一緒だったということだ。
実は、隣の高校の先輩だったらしい。
そういうこともあって、彼との距離が急速に縮まった。
恋とかじゃなくて、憧れや尊敬という気持ちで、貴哉先輩といて楽しかった。




