#71 新たなる地獄(1)
新学期。
私は東京へ引っ越し、ひとり暮らしを始めることになった。
慣れない環境に不安を感じながらも、新しい生活に胸を踊らせていた。
ここには、過去の私を知る者はいない。
地獄のような壮絶な過去は、私自身しか知らないのだ。
学校で友達も出来、毎日が充実したものになりつつあった。
浅香くんとは、たまに連絡をとっている。
彼はやんちゃな素行を改めて、真面目に店を継ぐ修行をしているらしい。
(みんな、変わっていくんだなあ……)
嬉しいようで寂しい。
そしてなんだか切ない。
私だって、高校のときと比べたら大分変わったと思う。
ナギも、変わっているのかな……。
ある日、私は友達数人とお昼を食べていた。
「昨日バイトだったんだけどさー」
「香織、バイトやってんの!?いつの間に」
「ついこの間だよ。飲食店だけどねー。華はやらないの?」
「んー、まだあまり考えてないなー。ヒメコは?」
「私は……」
この会話がきっかけで、バイト先について何と無くではなく、現実的に考えるようになった。
そして、学校から近いところの飲食店でバイトをすることが決定した。
ここから、新たな地獄の歯車が回り出すことになるとは、知る由もなく……。




