#70 複雑な想いで(5)
祝70話!
まさかここまで来るとは思ってなかった!
「ど、どっか食事でも行こっか!」
さっきのキスの恥ずかしさを紛らわすように、私は立ち上がった。
「そ、そうだな!」
浅香くんも赤い顔のまま立ち上がった。
なかなか会えなくなってしまう前に、浅香くんとゆっくり過ごしたかった。
人生最後の制服を着て、私たちは街へ出た。
さっきまでの気まずさはもう無く、いつもの友達に戻っていた。
これが私たちの絆かな、なんてことを勝手に思った。
仲直り、とも違うけど、何があっても浅香くんとは離れたりしない、素敵な友達って言えるかなって。
私たちはカフェに入って、カウンターに並んで座った。
「……さっきは、ホントにごめん……」
席に着くなり、彼はそう言った。
「もう、蒸し返さないでよ」
「……ごめん」
少しの沈黙が流れた。
「……ビックリしたけどね、本当は少し嬉しかったんだよ。そんなに、私のこと好きでいてくれたのかなって思って……」
私が沈黙を破ると、彼は照れ臭そうに笑って前を向いた。
「……もうしないよ。俺のせいでヒメちゃんも辰巳も傷付けただけ……。理性を抑えられなかったなんて、友達失格だ」
「もう!暗い話はなし!何か頼もう!」
私は強引にメニューを手渡した。
「なんだか、いつもと立場が逆だね。ヒメちゃんに叱られるなんてさ」
あははと笑う彼は、いつもの浅香くんに戻っていた。
「私ね、考えたの。ナギのことはすごく大好き。でも、ナギのことばっかり考えすぎて何も手につかないのは、逆にナギを困らせるんじゃないかなって。だから、いちいちヘコんだりしないで前を向いて進もうって。この先、ナギとまた一緒になれる時まで、ナギのことで悩むのは辞める。絶対会えるって、信じてるから……」
後半、泣きそうになってしまったけれど、最後まで堪えて、浅香くんに笑顔を見せた。
浅香くんは微笑みながら頷いてくれた。
今、ナギがどこにいるのか、誰もわからない。
私が彼を最後に見たのは、拓馬に会いに行く直前の病室で。
浅香くんが見たのは、ナギの退学が確定した日の学校で。
今何をしているのか、今何を考えているのか、全くわからない。
でも、また巡り会える、また一緒になれる、そんな気がする。
だから、彼とまた出会えたときに曇りのない笑顔を向けられるように、少しの間、彼を心の中に封印します。
ナギ、愛してる。




