#67 複雑な想いで(2)
浅香くんは、私を後ろから抱きしめながら、思い詰めたような声で言った。
「辰巳は、ヒメちゃんを裏切ったことを後悔してるんだ。拓馬を殴っちまったことをね。だから、ヒメコに合わせる顔がない、ヒメコの側にいる資格がない、そう思ってるんじゃねーかな……」
「でも、そんなの酷いよ!」
冷静でいられなくなった私の突然の大声に、浅香くんは少し驚いたようだった。
「私はそんなこと望んでない!拓馬を殴ったからってナギを嫌いになったりなんかしない!ナギが側にいてくれれば、私はそれで……!」
「ヒメコ!」
浅香くんの怒ったような大声で私は我に返った。
「男はな、好きな女の前ではカッコつけたい生き物なんだ。それが、約束も守れず、女を悲しませたなんて、カッコ悪くて情けねーだろ……。ヒメコのことが好きだからこそ、側にいられないんだ。……あいつの気持ち、わかってやってくんねーかな……?」
浅香くんの顔が切なげに歪んでいた。
次はいつ彼に会えるかわからない。
もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。
でも、浅香くんの切実な訴えが伝わってきて、本当のナギの思いのように感じたから……、再び巡り会えるときまで、彼のことを待ち続けてみようと思った。




