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#66 複雑な想いで(1)
私は退院して学校に行き始めたが、ナギはとっくに学校を辞め、クラスメート達によるいじめもなくなっていた。
いじめがなくなったとはいえ、ギクシャクした関係は残り、今まで通りとはいかなかった。
私は孤独でも構わなかった。
ナギのいない学校、ナギのいない生活、ナギのいない世界。
彼以外で成り立つもの全てがどうでもよく感じた。
「……お掛けになった電話番号は……」
ケータイを耳元から外し、はあ、と溜め息をつく。
あれからナギとは連絡がつかない。
ナギの家の近くに行っても、彼の部屋に電気がつく様子は無いし、街や店でも会うことはなかった。
「……私のこと、どうでもよくなっちゃったの……?」
涙を浮かべてそう呟いたとき。
「違うよ」
温かな優しい声と共に、身体が心地よいものに包まれた。
その正体が浅香くんであると、すぐにわかった。




