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#63 温もりと孤独(4)

私はその背中を呼び止めた。



彼は切羽詰まったような顔でこちらを振り向いた。



「拓馬のとこに行くんでしょ!?彼は弥生を一途に愛してただけなの!それが歪んで空回りしてただけなの!お願い、怪我をさせるのはだめ……!!」



ナギは再びこちらに背を向けた。



「俺は、好きな女を傷付けられて黙ってられるほど、強く出来てねーんだ……」



そして、顔だけこちらに向けて、こう言った。



「……ごめん、ヒメコ」



一瞬、いつものナギに戻った気がした。



が、すぐにヤンキー時代の顔に戻ると、部屋を飛び出し、廊下を駆けて行ってしまった。




誰もいなくなった病室で、私はひとり嫌な予感に肩を震わせていた。



確かに、拓馬は私を襲った。



それは罪にも値することで、決して許されない。



でも、彼が弥生を想う気持ちに何の偽りもなく、それは私がナギを想うのと何も変わりないんだと思う。



もし、弥生と同じ状況でナギが死んでしまったとしたら、私だってナギを追い詰めた人物を恨むだろう。



自分を傷付けた相手を許すとか、単純なことではなくて、拓馬の行為は、感情ある人間として当然の行為だと認めるということ。



拓馬の場合、間違った方向に歪んでしまっていたようだけど。



そしてナギもまた、自分が想う人物のために、人間として当然の行為を起こしに行った。



それが、『高校生の辰巳凪冴』の顔なら安心できた。



でも私が最後に見たのは、『中学時代の辰巳凪冴』であった。

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