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#6 地獄の幕開け(6)
もう、寝ます。
鋭く短く私を呼んだのは、朋花だった。
「ヒメコ、弥生と辰巳くんの仲取り持つんだって?ヒメコに頼めば、高い確率で付き合えるって有名だもんねー」
完全に、タイミングを逃してしまった。
ナギとのことは友達みんなに内緒にしてたから、誰も『辰巳くん』が私の彼氏だなんて知らない。
「……だからね、ナギが」
「えー、そうなんだ!がんばって」
思い切って断りの言葉を口にしようとしたが、朋花の声が大きかったせいで、クラスメート数人が集まってきてしまっていた。
「私、ヒメコちゃんのお陰で直樹くんと付き合えたんだよ。だからきっと弥生ちゃんも辰巳くんと付き合えるよ!」
「ヒメコ、期待されてんなー」
「う、うん……」
もう私には、断りを入れるチャンスも、交際を明かすチャンスも巡って来ないことを悟った。
無理にでもシュミレーションを実行に移すべきだったと、後悔しても遅いことに気付く余地もない。