#58 恋愛感情の闇(5)
「俺にも言えないことなのか?」
ナギの声は優しかった。
でも、表情は険しくて、彼の心情は全く読めなかった。
「……たしに、……れな、で……」
「え……」
私は涙でぐしゃぐしゃになった顔で精一杯言葉を紡いだ。
「私に、触れないで」
少しの沈黙の後、ナギはすっと手を引いて後ろを向いた。
「……行けよ」
その背中が物凄く遠く感じて、もう二度と戻って来ない気がした。
でも、これでいい、これでいいの……。
そう自分に言い聞かせ、私はその場を立ち去った。
放課後、ナギは私を迎えに来なかった。
自分が招いたことなのだけれど、心にぽっかり穴が空いた気分だった。
『私に、触れないで』
なんであんなこと言っちゃったんだろう。
どうせ彼を傷付けるのなら、どうせ彼に嫌われるのなら、本当のことを言ってしまうべきだった。
冷静になった今、後悔ばかりが身体中を駆け巡った。
本当は、ナギに抱き締められたい。
ナギにたくさんキスしてもらいたい。
ナギに強く抱かれて、心も身体も愛されたい。
彼のぬくもりが恋しくて、身体の水分がなくなるんじゃないかってくらい泣いた。
もう、二度と触れられないところに、彼を追いやってしまったんだ……。




