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#5 地獄の幕開け(5)
ナギにあんなに優しく抱かれたのは初めてだった。
まるで、私を繋ぎ止めて、安心させるかのような愛撫。
『弥生には断っておいてくれ』
私は鏡を通して、ナギが首筋に咲かせた赤い花を見つめた。
そっと触れると、チクリと甘い痛みが走った。
交際している男女……それも同意の上なら問題ないはずなのに、何故か罪悪感というものが私の中に住み着いた。
「ナギは……ヒメコのモノ……」
確認するように呟いて、私は床についた。
次の日、弥生に告げるセリフのシュミレーションをしながら登校した。
……きっと、諦めてくれる。
「おはよー!」
学校に着くと、早速弥生に声をかけられた。
「辰巳くんとのこと、上手くいきそう?」
「あ……、そのことなんだけどね……」
シュミレーション通りに言いかけた時……。
「ヒメコ!」