#48 味方(5)
部屋を後にし、玄関で靴を履いていると、不意に浅香くんに後ろから抱きしめられた。
ドキドキと鼓動が高まり、私は抵抗することを忘れてしまっていた。
「浅香くん……?」
彼は私の肩に顔を埋めたまま言った。
「俺、お前が好きだから、ホントは辰巳なんかに渡さないで俺のモノにしたい。……でも、辰巳といることがヒメコの幸せなら……」
切なげで甘い声に全身が痺れそうだった。
「浅香くん……?」
私が再び彼の名を呼ぶと、彼はパッと身体を離していつもの笑顔を見せた。
「なーんてねっ!元気出た?」
「もう!ビックリしたじゃん!」
恥ずかしさに大声を出すと、彼はにっと笑ってから、真面目な顔に戻った。
「でも、嘘じゃねーかんな?……辰巳には話をつけといてやるよ」
「え……」
「ヒメちゃんは俺がもらったーって」
私たちはまた大笑いして、別れた。
浅香くんは本当に読めない人だ。
何を考えているのかも、次にどんな行動を取るのかも。
でも、いいひとに間違いはないと思う。
『俺は味方だ』そう言ってくれた。
私はその言葉をずっと待っていたような気がした。
……誰かがそう言ってくれるのを、地獄のような日々の中で。




