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#38 堕落の果てに(10)
弥生の微笑みが聴こえて、電話は切れた。
「弥生ーーー!!」
私は無我夢中で薄暗い道を駆け抜けた。
疲れと緊張で心臓が張り裂けそうだった。
弥生の家が見えた。
靴を脱ぎ捨てる。
弥生の部屋に駆け上がる。
どうか、間に合って……!
扉の向こうに広がった光景に、私は息を呑んだ。
ふわっと鉄の香りが鼻をくすぐる。
そんな……!
私は目を真っ赤に腫らせて駆け出した。
部屋の隅に、首から血を溢れさせた弥生が倒れていたのだ。
「弥生!!弥生!!」
彼女は片手に包丁、片手にケータイを握りしめていた。
私の名前のところを開いたまま。
身体はまだ暖かい。
私は近くにあった布をとにかく傷口にあてた。
瞬く間に紅に染まる。
私は震える手で119番を押した。
そこからの記憶はない。
ただ、私の名前と、私がカバーに設定している弥生とのツーショットが映し出されていた彼女のケータイの画面がフッと消えて暗闇になったことだけ、異様に鮮明に覚えていた。




