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#27 美しき愛情(5)
授業が終わると、ナギは教室に迎えに来た。
いつもは校舎外で待ち合わせていたから、こんなことは初めてだった。
「帰ろ」
ナギは無表情のまま私の手を引いた。
校門を出ても、ナギは無言だった。
ナギのことだから何か考えているのだろうと思い、私も黙っていると、夕日の差し込む小さな公園についた。
木陰まで行くと、ナギは突然振り向いて、強く抱きしめてきた。
「ナギ……?」
妙に安心しながら彼の背中に手を回すと、耳元の口が囁いた。
「お前が、心配だった」
ドキッと心臓が跳ねた。
きっと、私や弥生が陰口を言われていることをいつもの鋭い勘で見抜いているんだろう。
「何もないよ?」
心配と迷惑をかけたくなくて、私はそう言った。
けれど、ナギは身体を離すと少し怒った口調で言った。
「バカ。俺の前では嘘つくな」
頬を撫でられ、塩気を含んだ水がそっと彼の指に吸い込まれる。
「え……」
次の瞬間、視界がぼやけ、瞳が滝壺と化した。
頭を撫でるナギの手が優しくて、私は彼の胸で泣いた。
彼に嘘はつけない。




