#12 恋か友情か(6)
「ヒメコ聞いてよー!」
満面の笑みを浮かべる弥生を前にして、一瞬表情が引きつってしまった。
けれど、喜びに浸っている弥生はそんな私の表情など気にもせず、話を続けた。
「凪冴くんって、名前で呼ぶことになっちゃったのー!」
「よ、良かったね」
「しかも、好きな人がいるんだって!誰にも言ってないから秘密だって!誰だと思う!?」
いかにも、「弥生のことじゃない?」と言ってと言わんばかりのドヤ顔がにじみ出る彼女を見て、私は狼狽えた。
ーー自惚れもいいとこだ。
そんな風に思ってしまった。
「さぁ……、ナギは恋愛に興味ない人だと思ってたから、わかんないや」
そう答えてから、いい加減な返事をしてしまったと少しだけ反省した。
弥生はそんな私をじっと見てから、こう言った。
「そういえばさ、何でヒメコは凪冴くんのこと、ナギって呼んでるの?」
見透かされてしまいそうなくらい静かに見つめられ、冷や汗がにじむ。
「……ナギとは、小学校から一緒だからね。『凪冴』って漢字、読みにくいじゃん?それで、私が『ナギ』しか読めなかったのがきっかけなんだ」
「ふーん。ヒメコは凪冴くんのこと好きだった時とかあったりするの?」
今は好きではないということが前提の聞き方に、私は苦笑いをしながら「ないよ」と答えた。




