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天使の刻印  作者: 夕緋
1 はじまり
2/9

囚われの身

 私は手足を拘束され地下牢に放り込まれた。おそらく、ここは私が潜入していた学園の地下だ。


「疲れたなら寝てていいよ、日が昇ってから呼びにくるから」


 私を捕らえた追跡者の中のリーダー格――あどけない顔をした少年は、牢屋に鍵をかけ微笑んだ。

 寝られるわけない。そう思った私の剣呑な目つきに気がつき、少年は困った顔をする。


「もしかして、まだ逃げる気かな。諦めなよ、絶対無理だから。……殺される前に、せいぜい休んどいたら?」


 なんで休まなければならないんだ。変な理屈にむっとする。


「じゃ、後でね。浅倉葵あさくらあおいちゃん」


 ……もう、本名まで知られているのか。

 少年たちが階段を登っていき、牢の前には男性が二人残る。私は転がって壁際を向いた。

 あと少しで、私の人生は終わるだろう。つまらない人生だった。例えるなら、使い捨てられる脇役の人生。


 眠らずに、目を閉じて今日のことを思い返す。





 私立天翼学園。

 全寮制のお金持ち学園として知られる、超有名校。ただの金持ちでは入学できず、特別な試験に合格した者しか入学できない。

 ある方の密命を受け、私はその学園の実態を探るため入学試験を受けた。

 その試験は、成績も態度も関係ない内容のものだった。

 まず受験生は十人一組で個室に集められた。そこには教師らしい人が二人いた。そして、そこからの記憶がない。

 おそらく、その教師たちに術をかけられたのだろう。結果、私は受かった。奇跡といってもいい。

 それで今日、晴れて入学式を迎えた――のだが。


 入学式が終わり、私は式で隣に座っていた女の子と話しながら教室に向かっていた。そこに、あいつが現れた。


「お前、何者だ?」


 驚いて、心臓が止まるかと思った。

 そこにいたのは、さっき入学式で挨拶をしていた生徒会長。名前は確か、天河侑あまかわゆう

 栗色の髪と蒼い瞳の美しい青年。まるで、天使のような。


 天河会長は、確かに私を見ていた。


「お前まさか、《悪魔の使い》か?」


「――――!」


 なんで……!

 どうして、分かったの?


 驚愕に目を見開く私から、新入生が離れていく。賑やかだった廊下はあっという間に静かになった。

 何も言えない私の反応に確信したのか、天河会長が目を細めて言う。


「《悪魔の使い》がこんな所に乗り込めるとはな……結界を強化すべきだな」


 ――――逃げろ。

 頭の中に家族の声が響いた気がした。私は、新入生を突き飛ばして走り出した。


「如月、追え」


「はーいっ」


 潜入初日に、捕まるわけにいかない!とにかく逃げて、そして……

 そこからは、何も考えず走り続けた。







(……バカか)


 私は目を開けた。これ以上、自分の愚かさに失望したくない。


(間者は見つかったら証拠を消して即自害。鉄則でしょ。なんで、逃げてるの)


 猿ぐつわをかまされていなければ、叫んでいた。自分を罵りたかった。

 私は《悪魔の使い》として優秀ではない。それなのにここに潜入する任務を任せられたのは、私にこの学園の結界が効かないからだ。

 せっかく任せられた任務を初日で失敗させた。なんて無様なんだろう。

 せめて、拷問され情報を引き出される前に死ねたら、皆へ迷惑をかけずに済むかもしれない。けど猿ぐつわをかまされ、手足を拘束された私にそんな自由はなかった。


 




 どのくらい時間が経ったのか。階段を降りる複数の足音が聞こえた。


「おっはよー、葵ちゃん!あれ、どうしたの、壁じゃなくてこっち見てよ」


 来たか。

 意を決して、寝返りを打つ。牢の前には五人の男が立っていた。

 その中には私を捕らえた少年、そして天河会長もいた。


「……如月、拘束を解け」


 天河会長に言われ、少年が鍵を開け中に入ってきた。

 猿ぐつわと足首の縄を解かれる。少年に支えられ、身を起こす。天河会長と目があった。


「お前は、《悪魔の使い》だな」


「…………」


「黙っても無駄だ。素性はある程度調べてある。……真崎」


 呼ばれて、眼鏡をかけた青年が紙を手に一歩前に出る。


「はい。……名は浅倉葵。15歳。《悪魔の使い》の家系ですが、親も兄弟も皆下っ端。雑用ばかりやらされていたのに、なぜ天翼学園に潜入するという大役を任されたのかは不明です」


 ぞわっと背筋が粟立つ。そんな詳しいことまで、どうやって調べたんだ。


「そうか。教えてくれるか?お前がここに潜入したのは何のためか」


 しゃがみこんだ天河会長と視線が交わる。強い眼光に怯みそうになったが、ぐっと唇をかんで黙る。


「話す気はないようだな。まぁ、いい。どうせお前から有益な情報なんて手に入れられないだろう」


「えー、諦めちゃうのぉ?拷問しよーよ、拷問!」


「したければしろ。佐山、如月に付き添え。真崎と先生は俺と来てくれ。このことを報告する」


 天河会長たち三人が階段を登っていく。残ったのは私の体を支えている少年と、やけに背の高い青年だ。


 拷問、か。青年の方は温厚そうだが、少年の方はヤバイ感じがする。無邪気な顔で、とんでもないことをしそうだ。


「うーん、何をしたら一番効くかなぁ。ねぇ、拓杜たくとはどう思う?」


「さあ、分かりません」


「えーっ、なにそれ。もーいいよ。一人でするから」


 何をする気だろう。痛みを覚悟した私だったが、私を襲ったのは痛みではなかった。


「ね、くすぐったい?」


「!?」


 少年の声が耳元で響く。ふっと息を吹きかけられ、悪寒を感じる。


「な、なにをっ」


「んー、君女の子だし、痛みよりこっちが効くかなぁ、って思って」


 背筋がぞわぞわする。思わず身を離そうとしたが肩を掴まれた。


「ほらほら。なんでここに潜入したの?それから、どうやって結界を越えたの?……教えて」


 これ以上の責め苦はないだろう。嫌悪やら恥ずかしさやらがごちゃ混ぜになって、顔を真っ赤にした私はただ耐える。

 相手はさほど年の変わらない少年だ。なんで恥ずかしがってるの、私。私の好みは年上でしょ!


「耐えるねぇ。そんなに頑なだと、僕ももっとひどいことしたくなるなぁ」


 お願いだから、離れて……っ!


波留はる先輩」


 牢の外にいた背の高い青年が声を出した。少年を見つめる。


「そいつは何も話さないでしょう。それ以上やっても無駄です」


「えー。仕方ないなぁ」


 少年が私から離れる。助かった……!


「あと、これ。あげてください」


「なにそれ、おにぎり?自分であげればいいじゃん」


「いや、牢の入り口が狭くて入れない」


「……なるほどね。はい」

 どうぞ、と目の前におにぎりを差し出された。私は首を横に振る。


「いらないの?毒なんて入ってないよ。今はまだ殺さないし」


「……結構です」


 そう断った瞬間、ぐぅ〜と情けない音が鳴った。もちろん、私の腹から。


「……やっぱり頂きます」


 手は縛られているので、少年の持つおにぎりに直接かぶりつく。白米に塩がまぶされただけのものだが、今はどんなものでも美味しい。

 無言で食べ進める私を、少年はにこにこして眺めていた。


 そして、おにぎりを食べ終わったとき。慌ただしく階段を駆け降りる音が聞こえた。


「如月、佐山っ!今すぐ拷問をやめろ……って、何も、していないのか」


 眼鏡の青年だった。息が切れるほど急いできたらしい。


「なーに、楓。なにか分かったの?」


「その女を今すぐ《謁見の間》に連れてこい。ユーリス様がお呼びだ。丁重に扱え」


 少年たちが目をみはる。


「え、ユーリス様が……?」


 ユーリス……その名前の響きからするとおそらく―――天使だ。

もうちょっとシリアスが続きます。


早くラブコメに突入したい……。


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