超絶美人な侯爵令嬢ですが、どうやら口が悪いようです
一応、前作の 『美男美女の両親から生まれた侯爵令嬢なのに、なぜか私だけ引くほどブスでいじめられてるんですけど 』の後のお話になります。読んでなくても大丈夫な形にはしています。お時間あればどうぞ。
「お前さあ。本当に最悪。顔悪いのに中身も不細工じゃ、救いようがねえよ。うじうじしやがって。悔しくねぇの? もしかして本当にワンチャンあるとか思ってるの?」
ミシリアは激怒した。もうそれは怒髪天を衝く勢いで。
「悔い改めろカス」
※ ※ ※ ※ ※
時は遡り、3か月前。
ミシリアはとある国の侯爵令嬢である。英雄侯爵の父と美人だけど性格の悪い母を持つ、血統書つきのお嬢様であった。とある理由で家に居づらくなったミシリアは、父と相談して隣国の学園へ入学する流れとなった。顔立ちは誰もが認める超美形。銀の髪にしゅっと通った鼻筋。少し鋭いが整った目と眉。誰もが口をそろえて美しいと言うほどの美貌だった。本人はさほど気にしていなかったが。
そうして、ミシリアは侯爵令嬢という枷から解き放たれた。これまでは最低限取り繕っていた。溺愛してくれる父には素を見せていたが、それでも猫を三枚くらい被った上での素であった。
ミシリアは入学初日から目立ちに目立った。本人は何もしていないが、見た目が美しすぎて周りから浮いた。初日からミシリアにはあらゆる誘いが舞い込む。『一目惚れしました』だの、『一緒にランチしましょう』だの、『今夜ディナーでも』だの。
そんな誘いをミシリアはダルいの一言で一蹴する。ミシリアが孤立するまで10日もかからなかった。
父には友達を作ってこいと送り出されたが、全くもってミシリアにはそんなつもりはなかった。ミシリアはただ、この学園の広大な図書館の本を読み漁りたかっただけだ。3年かけて読むぞと気合いを入れたほどである。その他の有象無象に邪魔されるいわれはない。話しかけんなカスとすら思ったのだった。
ボッチ上等唯我独尊である。
時は戻る。
もはや誰にも話しかけられない、完全無欠の高嶺の花と化したミシリアは授業の終わりに教科書をまとめていた。授業内容を軽くまとめて復習しているうちに、周りにはもう誰も残っていなかった。読書もいいが、授業も悪くない。知識欲の権化と化したミシリアは超優等生であった。
そんなミシリア目掛けて、オドオドした男子生徒が教室のドアを開けて近づいてくる。
その男子生徒を見たミシリアの第一印象は、ジャガイモみたいなやつ。目も小さく一重で、身長もやや平均よりも下。顔はニキビ跡でボコボコ。猫背で、ついでに太っちょ。一般的に見れば、不細工の部類に入る男であった。ミシリアは見た目で判断するつもりはない。老若男女イケメンも不細工も美人もブスもまとめて平等。そういう思想であった。
ミシリアは鋭い視線をその男子生徒に突き刺す。
しかし、男子生徒は目の前まで歩いてきた。ミシリアは、おー、この感じ久しぶりだな、と視線を緩める。
「ミシリアさん。僕と付き合ってください」
男子生徒は顔を赤くしながらミシリアに告白する。
ミシリアがチラリとドアの向こうを見ると、ほかの男子生徒たちがクスクス笑っていた。
最低だ。
存在だけは、知っていた。
告白罰ゲームというやつだろう。
私はこいつらの遊びの道具に選ばれた。ミシリアはそう認識する。顔も知らない男子生徒と、このクソジャガイモに。
それに、市井の学院ならギリギリ許されるかもしれない。ただ、ここは貴族も通う学園であり、現にミシリアは隣国の侯爵令嬢である。外交問題まったなしなのだが。本当にこいつらは頭が付いているのか?虫が湧いているのではないか?ミシリアの頭は考える程にイライラが溜まっていく。
ミシリアは廊下にいる生徒に極寒の目を向ける。それを見た男子生徒たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
はぁ。ミシリアは深いため息をついて、息を思いっきり吸った。
そして冒頭に戻る。
「お前さあ。本当に最悪。顔悪いのに中身も不細工じゃ、救いようがねえよ。うじうじしやがって。悔しくねぇの? もしかして本当にワンチャンあるとか思ってるの?」
ミシリアは激怒した。もうそれは怒髪天を衝く勢いで。
「悔い改めろカス」
男子生徒は身動きせずに硬直した。
ここまで酷いことを言われるとは思っていなかったのだろう。
ミシリア以外の女ならば、適当に断って終わりだったろう。
だが、残念。告白罰ゲームの相手に選んだ女はミシリアだった。
「お前は私がそういうことをされて、どう思うか考えなかったのか? バレなきゃいいと思ったのか? バレても自分がもっといじめられない為に、私を不快にさせる選択をあえて取ったのか? お前はそんな自分を恥ずかしいと思わないのか? 逃げ続けるだけの人生で、お前は両親に顔向け出来るのか? 答えろ卑怯者」
ジャガイモは震えている。
「おい。顔上げろカス」
「……はい」
男子生徒は顔を上げた。もう涙で顔はぐちゃぐちゃだった。両の拳を強く握りしめ、体を震わせていた。
ふーん。
「で?」
ミシリアはジャガイモに先を促す。このあと何が出てくるのかミシリアにも分からないが、とりあえず何か言わせてみる。
少しの沈黙の後。
「悔しいです」
ジャガイモはくぐもった声を絞り出しながら答えた。その答えにミシリアは意外そうな顔をする。
ミシリアはだんまりを決め込むと思っていた。
ふーん。
「なあ。ジャガイモ」
「え?」
ミシリアは一瞬、あっと思ったが言ってしまったものは仕方がない。押し切ることにした。
「お前は不細工だ。わかっているだろう?」
「はい」
あ、押し切れると思ったミシリアはそのまま続行する。
「私には信条がある。不細工には努力が必要。これが鉄則。お前はさらにデブだ。不細工は遺伝。デブはお前が悪い。努力不足。さらに暗い。明るいデブは笑えるが、暗いデブは救えない。いい言葉だと思わないか?」
ジャガイモは不細工というセリフに引っ掛かったのか、意を決して言い返してきた。
「……はい。でも、ミシリアさんには僕みたいなやつの気持ちなんて分かりませんよ!」
ジャガイモは必死に言葉を紡ぎ出した。
「わかりたかねぇよ。そんなもん。お前には明るくなる努力と痩せる努力が出来た。さらに知識をため込んで、別方向に自分を伸ばすこともできる。やらない理由を探すな。鬱陶しい」
「……っ」
ジャガイモは指が白くなるほど拳を握りしめていた。悔しくて悔しくてたまらないという気持ちがミシリアにも伝わってくる。
「悔しいなら変わればいいじゃないか。他人の目なんて気にするな。お前が何年生かは知らんが、ここにいるのは長くても3年だ」
ミシリアは何でもないように言う。
「でも、急に変わるなんて……どうしたらいいんですか?」
「ふん。任せとけ」
ただの気まぐれだったが、ミシリアは基本的に頑張るブスに優しいのであった。
※ ※ ※ ※ ※
次の日の放課後、ミシリアは3階の非常階段からグラウンドの端を眺める。
ジャガイモがぼっこぼこにされていた。元からボコボコなのに。目立たなくていいか。そんな益体もないことを考えていた。
ジャガイモはそれでも必死に右手を振り回して、イケメンに殴りかかる。一応1対1らしく、取り巻きは囲んでいるだけだ。イケメンはジャガイモのテレフォンパンチを避けて殴る。それだけを徹底している。
あ、ジャガイモが倒れた。イケメンも肩で息をしている。イケメンも別に武官向けの訓練をしているわけではないらしい。
イケメンは最後に思いっきりジャガイモの顔に蹴りを入れる。地面に倒れ、丸まったジャガイモは震えていた。
そのあと、ちょくちょくイケメンに蹴られていたが、そのうち飽きて取り巻きと共にジャガイモから離れた。
ミシリアは、あー青春だねえ、と思いながらジャガイモに近づいていく。
「ぼっこぼこじゃねーか。元からか」
ミシリアは容赦なく、でも明るくジャガイモに声をかける。
「勝てませんでした。すいません」
からかったつもりだったが、思いのほか真摯な答えが返ってきて、ミシリアは少し驚いた。
むしろ責任転嫁して怒鳴ってくると思っていた。
ふーん。
「まあ、今日の敗北は予定通りだ」
ミシリアの言葉にジャガイモが初めて視線を合わせる。思ったよりケガは酷くなさそうで、数か所切れて血が出ているが、問題なし。ミシリアはそう判断する。
「どういうことですか? 昨日は勝たせてやるって」
「はなから負けるつもりで戦う奴はいないってこった。それに今日勝たせてやるとは言ってない」
ジャガイモは膝立ちになり、ミシリアを見る。
「死ぬほど痛かったか?」
「いや。なんか、あんまり痛くなかったです」
「人間、戦ってる最中は痛みが鈍るらしい」
「……確かに」
「イケメンが怖いか?」
「いえ。あんまり。前までなんであんなにびくびくしていたのか分かりません」
ジャガイモはそう言いながら少し笑う。
ミシリアはその言葉を聞いて自信満々に続ける。
「じゃあ始めようか。勝つための努力を」
※ ※ ※ ※ ※
3日後。
ジャガイモはイケメンに決闘をもう一度挑んだ。
今回はジャガイモの後ろにミシリアが付き添う。
「なんでミシリアさんがここにいるんですか?」
イケメンは驚いてミシリアに聞いてくる。
「見物」
ミシリアはイケメンにさほど興味もないと示すように、短く言った。
イケメンは前回よりも凄く張り切っている。ミシリアにいいところを見せたいようだ。
今回はミシリアがいるので取り巻きは体でリングを作っていない。作ったら『邪魔』と言うつもりだったが。
そして、イケメンとジャガイモが相対する。
お互いにド素人丸出しの構えをとる。開始の合図もなく戦いが始まった。
イケメンはジャガイモを見ている。今回も、始まりはジャガイモの右のテレフォンパンチだ。そして前回のように、イケメンはジャガイモのテレフォンパンチを躱して反撃に出る。ジャガイモはイケメンのパンチを顔面に受ける。
吹き飛んだのはイケメンだ。同時に、ジャガイモの左のカウンターがイケメンの頬に突き刺さっていた。
作戦通り、ジャガイモは体勢を崩したイケメンへ突進する。何も考えなくてもいい。肘を立てて突っ込め。避けられない体勢なら絶対に勝つ。イケメンがさらに吹っ飛ぶ。あとは腕を膝で押さえ、殴り続ける。作戦はそれだけであった。
だが、ミシリアには勝算があった。
ド素人同士の喧嘩で重要なのは、体重と根性、あとは恐怖耐性だ。ジャガイモは1回目の途中から完全に負けモードに入っていた。だが、今回は違う。殴り合いの痛みを知ったから。知った上で受け入れてカウンターをする。そして突進して抑え込む。それだけを3日間練習した。
イケメンはジャガイモにボコボコに顔面を殴られてぐったりとする。それを見たジャガイモは静かに立ち上がり距離を取った。
取り巻きが乱入してきたら、ミシリアが口で迎撃する予定だったが、取り巻きは動かなかった。
沈黙、10秒。
ゆっくり立ち上がろうとするイケメンを、慌てた取り巻きが支える。
「てめえ。一回勝ったからなんだってんだよ」
イケメンは苦し紛れに声を出す。
だっさ。
ミシリアの感想は以上であった。
イケメンは続ける。
「デブブスのお前なんて誰も相手にしねえよ」
そんなイケメンを見てジャガイモはすがすがしい顔をしている。
ふーむ。
ミシリアはおもむろにジャガイモに近づく。
そして。
ちゅ。
ミシリアはジャガイモの頬にキスをする。
その場の時間が止まった。
「ほれ。これで満足か?」
ミシリアはイケメンを見る。
イケメンは顔を真っ赤にしてあわあわと口を動かしている。
ジャガイモも同様に茹で上がっている。
先にジャガイモが復活した。
「ど、ど、ど、どういうつもりですか!」
ジャガイモが、これまで聞いたことのない、大きな声を出す。
「いや。こいつが誰にも相手にされないって言ったから」
「それだけ……?」
「ん?」
ジャガイモが落胆のため息をつく。
「だから友達いないんですよ!」
それはジャガイモの心からの声だった。
こいつ、口悪くなったな。
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