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 扉の中には部屋ではなく広めの廊下が広がっていた。


 ユエが中に入ると後ろで扉が閉められ、

 唯一の灯りが消えた。


「これは、どうすれば…」


 などと口に出して考えていると、下から奇妙な声がする。


「はじめまして!わたくし!〜でございます!わたくしのこと!見えておられますでしょうか!」


 暗闇の中にぽつりと白いものが見えたと思えば、周りにあかりが灯った。


(きつね……?)


 ユエはひょいとその生き物を持ち上げ、

 観察するような仕草をする。


(白い狐…?)


「おや!わたくしが見えていらっしゃるのですね!」


 にこにこと笑いながらユエの手をはらうようにして廊下に足をつける。


 一瞬つまらないと聞こえたのは気の所為だろう。


 少しタレ気味な目、

 首だと思われる場所に、赤と白、それから黒の紐をよりあわせたような太いものが巻きついている。


 真っ直ぐに続く通路が見え、

 その狐らしきものが先導して歩き出す。


「付いていらしてくださいね!


 あなたがこれからつく任務、

『術師』の仕事について説明させていただきますから!


 えぇえぇ!させてもらいますとも!わたくしにおまかせくださいませ!


 ──まずは今の時間軸からお話しましょう。今この瞬間は、西暦でいうと2305年にあたります。7月12日ですね。あなたがいた時代から約400年ほどたっております!


 ──そう『術師』。『術師』とは陰陽師みたいなものでして、このわたくしは管狐なのでまた違った方に仕えているのですがね。

 わたくしの主様はとても素晴らしいお方で──まあこの話はよしましょう。


 あなたには『術師』になっていただき、妖を従え、この時代の敵を倒していただきたいのです。」


 言い終わるとふふんと鼻息をならし胸を反らせた。

 ユエはまだ困惑しているようで、


「よんひゃく…?あやかし…?じゅつし…?」


 と仕切りに呻くように繰り返していた。

 心無しか顔布の文字が薄れてきている。


「そんなことより!早速最初の妖を召し出しに行きましょう!あちらです!

 ──わたくしは入ることが出来ないのでここでお待ちしております!」


 そういってぐいぐいユエの背中を押すので、ユエは冷や汗を拭いながら、歪んだ水のような空間に入った。


 中に入ると広い空間が広がり、

 柄のない黒い包丁のようなものがそこら中にいくつも刺さっていた。


 刃物にはそれほど詳しくないユエだが、どの包丁もとても、包丁ならばこの比喩表現はどうかとも思ったが美しく、

 切れ味も良さそうで、名刀、名包丁?というのに相応しいような気がした。


 その中の、一本の包丁に目がいく。


 ユエは、嫌に大人びていると言ってもまだ14歳にもなっていない子供であった。


 自分の目に映ったその綺麗なものを触りたいと思ってしまったのだ。


 そして子供なら誰しも通る道であるが、すぐにぎゅっっと強く握った。


 生身の刃を強い力で触ればどうなるか、想像に安いだろう。


 もちろんその想像の通り、刃に触れたまだ柔らかい肌が裂け、そこから血が滴った。


 ──と思うが早いかどこからかぱっと羽が舞い、1人の長身の鳥のような人が姿を現した。


 ユエは、あの時代の子供と比べれば大きい方であったが、なにしろ戦時中である。

 140cmに満たない程の身長しか持ち合わせていなかった。


 その目の前に現れたのが170を超える鳥人間である。


 外国人を見たことがあったからよかったが、ずっと国にいたら見れないほど大きい。


 鬼だと思っても仕方がないだろう。


 そんな男が、真っ黒な羽毛にくるまって現れた。


「お前は……」


 その続きを聞く前に視界が白く弾けた


 ユエは自分の手では無いところの痛みに襲われたのだ。


 頭が痛い。


 だが、ただ痛い訳では無い。


 まず、千本の針を目に刺され、

 そこからゆっくりゆっくり奥にその針を刺し込まれ、

 さらに脳の中からその針を1本ずつトンカチで髪の毛のように頭に生えさせられるのか。


 というくらいには痛かった(実際には言葉ではどうしようも無いくらい痛かっただろう)。


 さすがに痛みになれる訓練をしていたユエでも、その痛みには耐えられなかった。


 大きな叫び声を上げながら鳥人間がおろおろと見ている前をのたうち回った。


 長い間その痛みが続いたが、1時間ほど経ち、ユエの顔にあった布がのたうち回った時の摩擦でちぎれた時、その痛みは急に和らいだ。


 息を大きく吸い、落ち着いた時、やっと鳥人間顔を見ることが出来たのだ。


 サラサラと動く度に柔らかく流れる漆黒の羽毛。

 青竹をもっと爽やかにしたような目。

 その顔が、少し傾きながらユエを見ていた。


「うあ……。」


 ユエがそう声を出すと鳥人間はバツが悪そうにして、ぱっとしゃがみこみ、顔をふくれさせる。


黒影クロカゲだ。」


「……その、俺のせいなのか?」


 もそもそと黒い羽根に顔を埋めながら喋る。

 赤いような、青いような顔をして、少し泣きそうなのかもしれない。


「そんなことは無い!ごめんね。

 ──その。少し、体がおかしかったんだ。

 もう大丈夫だから。

 ……君が、僕と一緒に来てくれるのかな。」


 ユエがそう伝えると「黒影」はゆっくり顔を上げて手を差し出した。

 差し出された手をぐっと掴んでしゃがんでいた「黒影」を抱き起こす。(やはりとても大きい)


「僕は(ユエ)

 ──これから、よろしく。クロカゲ。」


「ああ。……よろしく頼む。我が主よ。」


 そんなことを言いながら、あの怪しい狐がまつ所に引き返して行った。


 そこにあったはずの、ほかの包丁はいつの間にか見えなくなっていた。

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