24
夜。
大臣たちは、春の宴を催していた。
美しい国の美しい未来を願っての宴。
カラン
その宴の中、小さな音が聞こえた。
だがそこに集まった人々は喋ることに夢中で、まだ気がついていない。
「そういえば、帰還がまだなのが……」
誰かがそう話し始めようとした、次の瞬間。
宴の天幕を裂くように、大きく風が吹いた。
「──俺が先陣だな。」
低く笑ったクロカゲが大きな漆黒の羽根を広げ、上空から見下ろしている。
「……今。」
ユエの声が風で伝わると、
ばさり、と音を立てて舞い上がった黒い羽根は空中で形を変え、一本一本が黒い刃になる。
「行くぞ!」
羽団扇をひと振り。
轟音とともに巻き起こる突風が、
黒い刃を宴会場に降り注がせる。
それと同時にクロカゲの眷属、烏天狗たちが槍を構えて急降下していく。
宴の場は一瞬で戦場へと変わった。
「主ちゃん!後ろ!」
ユエの前からサチが叫ぶ。
焦った黒服の男たちが迫るより早く、
サチは近くの石灯籠を掴み上げた。
「えいっ!」
信じられない力で投げ飛ばす。
敵は悲鳴を上げる暇もなく壁に叩きつけられ、沈黙した。
水音とともにカワラが現れ、
「あっしら、数だけは負けませんぜ。ご主人。」
その合図で大勢の河童の眷属たちが地を這うように押し寄せる。
ユエが頷くと槍が一斉に突き出され、賓客たちが逃げ惑う。
「僕も行ってくるね、主。」
ふわりと空気を裂き、ヒラスケが逃げ惑う賓客の中へ潜り込む。
どんな隙間にもするりと入り込み、迫る玉や刃物をスイスイと避けて首を刎ねていく。
1人、また1人と体だけ取り残された人が生まれ、その体も次々と倒れていった。
上からは布が、下からは無数の猫又の眷属が影のように走っていく。
あれよあれよと戸惑ううちに、
マコトが身体をぐっと大きくして立ちはだかった。
大きな牙が人々の喉を掻き切り、声にならない叫びがあちこちで上がった。
その少し横で、モミジが艶やかに微笑んでいる。
「わたくしの術も、お見せしましょ。」
指先をぱちんお鳴らせば狐火と幻術が辺りを覆う。
警備員が賓客を撃ち、幻に怯え、正気を失っていく。
ユエがそちらを見やるとモミジはふわりと笑った。
天幕から逃げる人々の足が、はたと止まる。
木が足に絡みついて、動けないのだ。
そんな時、目の前に地鳴りと共に現れたのはスイテン。
その物語に出てくるようなおどろおどろしい姿を視線が捉える前にスイテンが金棒を振り回し、人々はまとめて吹き飛ばされた。
「さすがだね。」
そういってキリが木の中に姿を現し、スイテンと拳を合わせる。
室内に逃げ込もうとする者はツグミの咆哮に怯えた。
ショウとシュリが瞬時に移動するのに人々は混乱し、外に出ては攻撃を受け、少しずつ数が減っていく。
「陛下の名を騙る悪党は?」
ユエはウツツの視界を共有し、1人の男を探していた。
崩れた回廊の奥、
血に濡れた裾を引きずりながら、それが走っている。
肥え太った身体に脂汗に濡れた顔。
動く度に腹が揺れ動き、ぜはぜはと乱れた息を吐いていた。
「見つけた!」
だが、そこでユエは言葉を失った。
大臣が開けた扉の先に見覚えのある顔が見えたからだ。
「玉衛……?」




