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ユエの屋敷では穏やかに日々が過ぎていった。
日方《俺》が英雄《彼》の担当になってから──
というより、その少し前からと言った方が正しいが
レジスタンスを名乗る者たちはほとんど居なくなっており、ユエの屋敷へ伝えるべき仕事も減っていた。
敵が減れば仕事も減り、それに割ける人も減る。
他の担当区域の過去から連れてきた者たちは、少しずつ過去へ返されているらしい。
日方《俺》も今日、ユエへの過去への帰還状を携えて屋敷へ足を踏み入れた。
手紙を渡すと、ユエは少し目を見開いたが、にこりと笑って受け取った。
その隣に座ると、さらに横にショウとシュリがぴょんぴょんと飛び込んできた。
「本当に、元気になったんだなぁ。」
楽しそうに笑う彼らを見ると嬉しくて、独り言のようにつぶやく。
「うん。」
ショウが顔を上げ、落ちてきた髪を掬いあげた。
ツンとした目には少し照れた表情が浮かんでいる。
同じ仕草をしてもすぐに髪が落ちてくるおかっぱのシュリは、じいっと視線をユエの方へ向けては、目が合うと背けてを繰り返していた。
「シュリも、元気だよね。」
それに気がついたユエが手紙から目を離し、シュリに微笑んだ。
「うん、はい、うん、ありがとう…。ゅ、ユエ。」
きゃっと頬をりんごみたいに真っ赤に染めて
「呼んじゃった!」
と嬉しそうにしている。
ショウはそんなシュリを見て頬を緩めながらも、複雑そうな顔をしていた。
ユエの隣に待機していたクロカゲという大きな烏天狗も、
「半妖の分際で…」
などと不穏なことを呟きながら羽根を開き始めている。
ユエはもう一度手紙へ視線を向けると息を一つ吐いて、部屋の方へ向く。
それに気がついたのかサチという座敷童子の女の子(見た目はショウやシュリより少しばかり大きいくらいだが喋り方がとても大人びていた)が、
「お昼を食べたから眠たくなるよね。床を整えてこようね。」
といってせっせと布団を敷き始め、睨み合う3方を外廊下へほかってしまった。
軽口の混ざった喧騒を遠くで聞きながら、ユエ、この大きな屋敷の主へ目を向けると
大きく欠伸をしながら布団の中へ潜っていた。
日方《俺》は報告書を取り出すと、簡単に書き付ける。
『故、書状手渡し済み。
特筆すべき点は無し。明日帰還予定。』
書いたそばからサラサラと光になって消えていくそれを見送ったあと、立ち上がる。
外廊下でまだ騒いでいる小さな子らの頭を撫でると、日方はそのまま屋敷を後にした。
春の木漏れ日が優しく頬をなぞり桜が舞う。そんな和やかな昼下がりだった。
日方が帰るのを確認し、ユエは目を覚ました。
(彼には悪いが……どこから漏れるか分からないからね。)
そんなことを頭の中で言い訳しながら大広間へ向かう。
そこには妖たちが集っていた。
鬼に鵺、八尾の狐に鎌鼬……
どの妖怪も皆、神妙な面持ちで背を伸ばしている。
「遅れてごめんね。」
そう言いながら上座に行き、礼をしようとする妖たちを手で静止した。
「今は時間が命だ。形式は要らない。
──さあ、作戦の最終確認を。」




