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 アイルランド沖に浮かぶ大きな船、

 旅客定員2,198名、

 長さ787フィート、幅は87フィートと6インチにも及ぶ、当時最大と言われた客船の上で、

 結之助は今日この日を記念する銅像に襲われていた。


 ドイツのUボートからの奇襲攻撃が始まったのだ。


「若い者からボートに乗り込め!」


 父でもある春原中尉の怒声にも似た大きな声が遠くから聞こえてくる。


「あァ、僕は死ぬんだな」


 そんなことをぼそっと呟きながらこちらを指さしながら倒れてくるトムソン兄弟(この船を作った会社の創業者である)の銅像を見つめた。


(どうせ助かりっこないんだ、これならば船の中にあった砂糖菓子を我慢せず食べておくんだった)


「僕が死ぬだけで他の人は助かったらいいな。

 ──さっき銅像を押し倒していった金髪の小僧の枕元に化けて出てやるんだ。南無三。」


 そう言って目を瞑ると硬いものが体に当たる衝撃、


 それから肉が裂け、骨が折れたような感覚があった。


 どくどくと血が外に流れて体の血の気が引いていく。


 トムソン兄弟の明日をさした指が丁度胸の辺りを突き刺しているらしく、胸部の痛みがいちだんと強かった。


(ああ、痛い、痛いなあ。)


 もはや痛みも薄れ、意識が遠のく中、

 図らずも開いてしまったロケットに入る家族を懐かしい気持ちで眺めた。


(正一兄さん、正二兄さん、今からそちらにあなた達の可愛い弟が向かいますから、

ぜひ僕の大好きなワッフルにリンゴジャミをたっぷり用意しておいて下さい。


──母さん、伊都や玉衛は、元気でやっているだろうか。)


 実はこの時点で末の弟、玉衛の()()は父に伝えられていたのだが、

 父から情報を選んで渡されていた結之助は知る筈も無い。


「結之助一等兵!結之助!結笑!結笑頼む!起きてくれ!


 ──この父を一人にするのは辞めておくれ。結笑。結笑。」


 船の先から人を押しのけ走ってきたらしい父親はやけに息の切れた声で叫んでいる。


(珍しいな、父さんが僕の前で泣くだなんて。

 ──川の向こうで兄達がしかめっ面をしている様な気もしてきた。)


 彼の意識は、そこで途絶えた。

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