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『鐘鳴子』は静かにユエを見ていたがふっと視線をはずして『鶉飼子』に目を向ける。
「覚えてること、話せる?」
『鶉飼子』は急な振りにきょとんとする。
「僕にも聞かせて。必要なことみたいだから。」
ユエは頭を抑えながらも手を挙げて妖たちを抑える。
『鶉飼子』はその顔を見て少し下を向くと、こくりと頷いた。
「吾は、当時にしては比較的裕福な家に生まれたんだと思います。」
静かに、小さな体に見合わぬ落ち着いた声で語り出す。
「住む場所はありましたし、食べ物にも困らなかった。
なにより、父は高貴な方に仕えていたものですから、そこいらの役人には、えばる事が出来た訳です。
吾には名前がありませんでした。
なんせ父に、鶉飼という素敵な名前が高貴な方から直接与えられていましたから、吾もそれにならって、『鶉飼子』と呼ばれていたんですね。
嬉しくないことはありませんが、その名ですと、父あっての吾であり、吾自身では無いと考えました。
当時では、今もそうかもしれませんが、女が目立とうとするのはあまり良くない事だったのですね。
だからあの日、わたしはああなってしまったのだと思います。
忘れもしません。草木に霜が降り始めた頃のことでした──」
ここで1度、『鶉飼子』は息を整えた。
あまり思い出したくないことなのかもしれない。
ユエは2人の布団に近付くと、続きを促すでも無く静かに耳を傾け続けた。




